25_手紙

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拓也へ


急に出て行くことになってごめん。

「斉藤拓也」が1人になるにあたって、当分の間、俺がいない方がいいと判断しました。吉田さんと山内さんには多少の言い訳が必要だろうけど、それ以外の人には、俺の存在は殆ど影響ないんじゃないかなって思っています。


事後承諾で悪いけど、現金5万円と殆ど使ってなかった方のクレジットカード借りていきます。クレジットカードは一応、保険って事で……

基本、水さえあれば食事も宿も要らないので、その辺は安心してください。


拓也は全力で体を絞って、白石さんと会ってください。今の拓也なら大丈夫、ダイエットも成功するでしょう。


クレジットカードも返さないといけないから、いつかは戻ります。それまでは色々な景色を見てみようと思う。


そうそう、デートで使うレストランはいくつかピックアップしておきました。パソコンのデスクトップにデータを置いておきます。


仕事も恋愛も応援してるよ。


タクより


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 そろそろシャワーを浴びないと仕事に間に合わないが、手紙を前にその場から動けなかった。


 タクはどのタイミングで家を出ようと思ったのだろう? 家を出る以外に、選択肢は無かったのだろうか? タクのスマホも置いて出てしまった今、タクを探す手立ては無いに等しい。せめて、ゴーグルを置いて出て行ってくれたなら、タクが見てる景色を俺も見ることが出来たのに。

 

「コピー元のマスターが困ったり嫌がったりする行動はしない。説明書に書いてたでしょ?」


 以前言った、タクの言葉だ。


 俺は困ってるよ、タク。


 説明書に書いてある事は嘘だったのか?




 結局、シャワーを浴びる時間は無くなり、体はタオルで拭くだけで家を出る事にした。今から駅まで走れば、ギリギリ遅刻はせずに済む。こんな事で遅刻をするなんてタクは望んでいないはずだ。急いで靴を履き、勢いよくドアを開けると、玄関前にスーツを着た白人男性が立っていた。

 

「あ、あの……何か?」


「Oh, excuse me, I'm looking for room 203.」

 

 203号室を探しているのだろうか。


「えーと、Next to the next door. オーケー?」


「Sorry to take up your time. Thank you so much.」


 そう言うと、その男性は203号室の方へ歩いて行った。近頃は俺の街でさえ、外国人を見ることが多くなった。しかし、このハイツを訪れた外国人を見たのは初めてかもしれない。



***



「藤田さんおはようございます、遅くなってすみません」


「こんなギリギリとか珍しいじゃない。ま、遅刻じゃないし平気平気」


 藤田さんに小さく頭を下げて、すぐにパソコンに向かった。今日の主な仕事は、データの流し込みだ。黙々と手を動かすだけで済むので、今日の俺でもなんとかなりそうだった。


「——ん? どこか調子悪いの?」


 やはり、いつもの俺じゃ無いのはすぐ分かるようだ。藤田さんが心配そうに俺の顔を覗き込んだ。


「い、いえ、大丈夫です。すぐ元気になりますんで」


「って事は、元気が無いんじゃない。無理しちゃダメよ。何かあったらおばさんに愚痴りなさい」


「は、はい、ありがとうございます」


 そう言った俺に、藤田さんはそれ以上は声を掛けてこなかった。多分、気を使ってくれているのだろう。



 後々になって、今朝会った外国人の存在が気になっていた。彼はRC-AVATARの関係者ではないだろうか。あれほどのプロジェクトが、何一つ監視されていなかったのは、今考えれば不自然だ。


 もしかして、俺とタクの生活も日々覗き見られていたのかもしれない。

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