第22話 クロストーク(チーム3)

 チーム2がテディにダウンロードした翌日、エメラルド、アレックスのチーム3がスターバックのところにやってきた。テディのチェンバーの伝送系統にもぐり込みアップロードパスを突き止めるためだ。


 スターバックのその専用ルームは無機質な機材に囲まれ、LEDの淡い照明がチェンバーを浮き出させている。テディは青い星であった。地球の色とは少し違う。

 エメラルドはその魅力的に青く輝く星を見て、サファイアが惹きつけられのも無理はないと思った。私だってずっと見ていたくなるような吸い込まれるような素晴らしい星だ。


「エメラルド、何ぼーっと見てるんだ。説明を始めるぞ」

「あ、ごめん。見とれちゃった。あなた良くこんなの育てたわね」

「お前の地球のおかげだ。僕が気が付かなかった工夫点がたくさんあった」


 チェンバーのスロットには地球のデータチップが入り放しだった。

 

「私でもこのレベルは無理よ。さすがスターバックね」

「ありがとう。でも絶滅へのカウントダウンは早まった。いくら美しい星でも進化した生物を好き勝手にさせると環境への悪影響が出てくる。身をもって知ったよ」

「私の見たところではまだ修復のチャンスはあると思う」

「そうか? 無理じゃないか? サファイア達の情報だと環境は相当荒れているらしいぞ」

「確かに大気汚染や厳しい温暖化が見られるけれど、海や山はまだ健全な範囲だわ。自然の浄化作用は結構すごいのよ」

 アレックスが割って入った。

「オーケー、その話は転送経路問題を解決してからにしよう。そろそろ本題に入ってもらおうか」


 スターバックが説明を始めた。

「学者連中と具体的な手段を練った。人類史上最先端の技術だ。転送経路を可視化して、そこにバーチャルアバターとして入ってもらう。ただしバーチャルと言っても、遺伝子情報から意識を再構成させる。感覚としては完全にそのバーチャル空間の中にいる感じになる」

「まるでマトリックスだな」

「何だ、それは」

「いいよ。何でもない」

「で、具体的にどのように調査を進めればいいの?」エメラルドが次の説明を促す。

 スターバックが腕まくりした。

  

「さあ、ここからが難しいところだ。人造惑星との転送経路として使われているのはAIICと呼ばれる特殊なパラレルバスだ。シグナルレイヤーは二千層しかないが、インフィニティクロックを使っていて超高速モードでの動作が可能だ」

「で? さっぱりわかんないけど」

「一番の特徴はノード数を無限に増やせることころだ。例えばやろうと思えば人造惑星の人間全員と個別に接続ができるんだ」

「それが仇になってるんじゃないのか? どこかのノードが抜け道になるとか」

 アレックスが突っ込んだ。

「かもな。それでだ。今回そのバスの中で転送されているテディ人の遺伝子情報を視認して経路を追ってもらう。相当スピードが速いから、君たちの脳内反応も極限まで加速する。それなりに遅く見えてくるはずだ」

「やだねえ、脳みそ老化しないだろうな」

「大丈夫だ。そして、単に転送経路を探すだけじゃなくて、回路動作のバグを見つけてもらう。本来は、外部から指定した経路でしか転送されないはずなのに、抜け道に加えて回路のどこかに異常があるんだ。アクティブ素子、パッシブ素子、信号レベル、何が異常かわからない」


 アレックスは聞きながらため息をつく。


「だが君達には全て可視化されるから、異常な処理が無いか探すことができる。正常な処理パターンは青いレーザーで示され、実際の処理は赤いレーザーで示される。差分で例外処理はすぐにわかるはずだ」

「青い線と赤い線が異なるところを探せって事ね」

「そう言う事だ。小学生でも簡単だろ」

「ああ、最後の所だけ理解できた」

「結局それが一番重要なんじゃん」

「他にも君達が移動したり振舞う方法、特殊な技、雑音、インピーダンス、ブラウンアウトなど知っておくことがあるけど、マニュアルを作ったからどちらかにインプットしておく。OJTで活動しながら把握しておいてくれ。どっちにする?」

「エメラルドにしてくれよ」

「私は嫌よ。アレックスにして!」

「まあ、アレックスが勉強係だな」

「これだよ」


「じゃあ、お二人さん始めるぞ。そこのリングを頭にはめてくれ。スキャンする」

「ではやりますか。エメラルド、よろしく」

「こちらこそ、アレックス。スターバック、いいわよ」

 

 そこはまさに幻想の世界だった。無機質なデジタルデータ、周波数の変調、スペクトルプロファイルの変化、遺伝子情報、それらがカラフルな色調や立体構造、時間的な変化に反映されて異次元の世界を創り出していた。


「はあーっ、これはすごいね。イルミネーションでもここまでのはないぞ」

「3Dのプロジェクションマッピングっていったところかな? きれいすぎ」

「俺達の姿が地味過ぎて逆に浮いているよ」

「見た目、ダイブする前とあまり変わらないもんね」


「でも体がフワフワして落ち着かない。月の上にいる感じ」

「スターバックが言っていたよ、念力で動くという感覚を身につけないとこの空間ではうまく体を動かせないって」

「こうか、おう加速がすごいな。しかもGを感じない」

 アレックスは瞬間的に移動した。

「すごいじゃん、そんな動きができるんだ」

「エメラルドもやってみろよ、面白いぞこれ」


 二人はしばらく色々な動きを試し、学んだ。


「大体要領はわかったわね。ところでアレックス、マニュアルの情報は覚えたの?」

「大体な。残りは作業と並行して覚えていくよ」


 二人は速い速度で伝送路を確認し始めた。青い光の経路が壁伝いに浮かんでいるが、その上を時折赤い光が高速で飛んできて、一瞬で通り過ぎる。残像が数秒残る。

 時折、ノードに続くと思われる分岐があったり、何かの素子と思われる立体構造が現れる。


「エメラルド、そこを右に行くとたぶんテディの転送デバイスの主要なところにたどり着く」

「行きましょう」


 オーロラのような世界を飛び進むエメラルドをアレックスが後ろから見る。

 次第にエメラルドとエミーの区別がつかなくなってきている。

 前にいるのは誰なんだ? 

 アバターではあるが実はこれがエメラルドとエミーの真の姿なのではないか?

 そんな事を考える。

 アレックスの視線に気が付いたのか、エメラルドが振り返る。

 目が異様に透明な極彩色に光っている。意外と自然で不気味さは無い。

 彼女はこのまま天に昇華していくのではないか、そんな気がした。


「もうすぐテディのメイントランスミッター(送信装置)だぞ」

「明るいね。あの先だね」


 トンネルから出るような感じで明るいメイントランスミッターの近くで二人は速度を緩めた。

 飛び交う赤い信号の数が多い。

 

 そして二人は人影が見えてはっとした。

 その人影はトランスミッターから出る信号群を管理・制御しているようだ。


「何よ、人がいるわよ」エメラルドが叫んだ。

「こんなところに? まだ伝送路の中だぞ、あり得ない」


 その人影もエメラルド達に気が付いて、やはり驚いていた。


「誰? あなた達、何で伝送路にいるの?」人影が言う。どうやらテディの女性らしい。

「こっちのセリフだ。君は誰?」

「私はテディの高官です。転送関係の責任者レベッカです」

「なぜ、レベル6で転送路に入れるんだ?」

「黙りなさい。もうあなたの質問は受け付けません。まずあなた達の正体を教えなさい。さもないとすぐに拘束します」


 数人のテディ人がレベッカの後ろに来て並んだ。警備か兵隊の様だ。

 いつでも指示が出たらアレックスらに飛び掛かかろうという顔だ。 


「あ、待ってくれ。怪しい者じゃない。ヘブンから派遣されてきた」

「名前は?」

「アレックス。こちらはエメラルド」

「なぜ伝送路に入っているんですか? 目的を言いなさい」


 アレックスは考えた。正直に言う訳にはいかない。自分達はテディ人たちの転送を防ぐのが目的だ。まともに言ったら、おそらく拘束される。かと言ってどうやって誤魔化す?

 迷っているとエメラルドが先に答えた。

「私達は、あなた方のアップロードパスを見つけに来たの」

「なぜ?」

「なぜって…… 今の状況はこのままにしてはおけない。解決するのにアドバイスをくれた人がいるの。アップロードパスを見つけろって」

「どこの誰? それは」

「え、えっと、わからないの。聞いたのは地球でだけど」

「地球ですって? 誰なのか本当にわからないの? どこの誰だかわからない人の話をまともに受けとっているの? あなた達、おかしいんじゃない?」

「ええ、正体不明。ヘブンの人だと思うけど。地球人には無理」

「まあ、いいわ。アップロードパスを特定してどうするつもり?」

「それは……」

「答えなくてもわかります。転送を止めるつもりね、邪魔はさせないわよ」


 レベッカは警備に目配せをしようとした。するとエメラルドがとっさに叫んだ。

「待って、転送の阻止はしない。約束する」


 アレックスが慌てた。「な、なんてことを」


「嘘は通用しない」

「嘘じゃないわ。テディの状態は知っている。移住を止める権利は誰にもない」

「あら、そう。じゃパスを特定したら一体何をするつもり? 答えなさい」

「パスを正常化する。そしてフリーパスにするようにヘブンに掛け合うわ」

「……」

 エメラルドの思わぬ発言にレベッカは黙ったがアレックスは気が気でなかった。

(思い付きで言っている。暴走だ…… でも状況的には仕方が無いか)


「フリーパスなんて、ヘブン中枢が承認する訳ないでしょう」

「承認しなかったら、私はテディ側に付く。これも約束する」


 アレックスはもう、エメラルドは止められないと思った。思いつきで言っているに違いないが、筋は通っている。彼女の惑星好きがここで功を奏している。おそらく話している間に半ば本気でテディ人を救いたいと思ったんだろう。

 しかし、レベッカはお見通しだった。

「考えたわね。ぎりぎり合格できるアイデアかもしれないわよ。司令官と話すので待っていなさい」

 レベッカはセオドア司令に連絡を取った。結構長い時間話している。ようやく話が終るとエメラルドに向かって言った。

「エメラルドとアレックスって言ったわね。条件を言うわ。最初にスターバックに掛け合ってノーマル転送ルートをフリーで開通させること。ヘブン中枢の承諾が無くてもよ」

「いきなりそんな」アレックスが言いかけた。

「次に、現在のアップロードパス、バイパスが出来た原因を調べて報告すること。テディ側だけによ」

「一方的な条件だな!」

「最後、あなた達にアップロードパスを特定するようにアドバイスした人間を突き止めなさい。危険な人物だわ」

 反論しようとするアレックスをエメラルドが制した。

「レベッカさん、フェアじゃない条件だけど飲むわ」

「な、なんて」アレックスが絶句した。

「こちらからも条件つけさせてもらっていい?」

「内容を言ってみなさい」

「惑星テディの環境改善のために私に干渉する権限をください。もし環境が改善できそうなら、移住は最小限にしてもらいたい。そして逆にヘブン人の存続に力を貸して欲しい」

「へえ、たいそうなことを言い出したわね。いいわよ。できるものならやってみなさいよ。下手な事をしてもし悪影響が出そうになったら即刻、拘束するわよ。あなた調べさせてもらったけど、遺伝子は地球とヘブンのハーフだね。そういう無理な事を考えるなんて退化しているんじゃない?」

「いえ、ハーフではなくダブルよ。相乗効果でレベルは上がっているわ」

「あなた、口だけはレベル8ね。気に入ったわ。伝送経路でわかっていることは全て教えるから、ベストを尽くして対応してちょうだい。期待せずに報告を待ってるわ」

「レベッカさん、ぎゃふんと言わせてやるから覚悟しててね」


 エメラルドはスターバックにコンタクトし、テディからヘブンへのダイレクトアップロードラインを開くように依頼した。

「……という訳で、パスを無条件で解放して」

「エメラルド、そんな事できる訳ないだろう。それこそわんさかテディベアがやってくる。完全に背信行為だ」

「スターバック、これしか前に進む道は無いのよ。あなたの星の住人は信用できる。受け入れて。もし許容できない危害が出る様なら、私がテディを破壊する」


「今破壊って言ったか? お前悪魔か? 惑星を自分の手で滅亡させるのか?」

「私には決してできないけれどエミーならできる。戦いに明け暮れた地球人だから」

「恐ろしすぎる。君の覚悟はわかったよ。自分が育てた惑星だ。僕も彼らを信じることにするよ」

 スターバックはアップロードラインを解放した。これでテディとヘブンは自由に行き来ができる。案の定、間もなく大量のテディ人がヘブンに現れた。


 レベッカは伝送系についてエメラルドとアレックスに説明を始めた。改めて近くで見るとレベッカは熊系の生物とは思えない。すらりとやせ型で背が高く地球で言えば完全なモデル体型だ。顏も毛は無く今や完全に小顔の人類だ。極めて頭脳が明晰でさすがレベル6超だ。


「まずこの伝送経路内において発見された特殊なシグナル伝達経路について説明します。伝送路上・電磁因子が次々にシグナルを受け渡しながら他の経路とも影響し合い、最終的には経路内でデータ転写をもたらしています。バイパス先は地球のノードです」

「地球のノード?」

「そう、ある隊員が偶然見つけたんですが、テディの伝送系から地球の伝送系に遺伝子情報が転写されます。私達はクロストークと呼んでいます」

「クロストーク……」

「この転写は、ノード間で行なわれるものと、同一ノード内で分離してから移動するものとに分けることができます。いずれにしても伝送経路間の情報移動はメッセンジャーという謎の物質が関与していて瞬間的に転写が制御されます」

 エメラルドが咀嚼した。

「言っていることはとても難しいけれど、要するにテディのバスから地球のアップロードラインに移動してからヘブンにたどり着いているっていう事ね」

「簡単に言うとその通りです」


 アレックスが補足した。

「クロストークが起きる場所は特定できているのか?」

「いえ、どこで起きているかはわからない。もしかしたらランダムな場所かも。ただし転写が起きる確率はだいたい分かっていて、十五パーセントくらい。百人トライすれば十五人がヘブンにたどり着けるっていうこと」

「わかった。クロストークが起きる場所と、クロストークが起きる原因を調べればいいんだ」

「簡単ではないですよ。私が時々調べていますけれどわからない」


「エメラルド、見つけに行こう」

「ええ、急ぎましょう」

「あ、待って。今回の調査とは関係ないけど一つ興味深い現象を教えておくわ」


 レベッカが最後に言ったのは次の様な事だった。


「最近わかったんだけど、異なる惑星間の転移プロセスが同じ場所で続くと、クロストークレベルが増大する。このような連鎖反応をカスケードって呼んでいるんだけど、とにかく微弱な転移から大きな反応が誘導(増幅作用)される。場合によってはたった1つの転移から数百万倍もの情報を共鳴させることができる。これは将来、画期的な共鳴進化を呼び起こす技術につながるかもしれないわよ」


「共鳴進化ですって?」

「ヘブンの先端科学者に聞いてごらんなさい。レベル8に到達するために想定されている仮想技術の一つよ。レベルの高い異なる人種の知識を共鳴させて進化を促すことができると考えられているわ」

「わかった。レベッカ、ありがとう。俺達行くよ」

「気を付けて」


 アレックスはエメラルドと一緒に複数の赤いアップロード信号に合わせて移動速度を上げ、それを追跡しながらクロストークポイントを探した。

 やがてその瞬間はやってきた。


「アレックス、あれ見て、パスに小さい黒い欠陥がある。変形しているわ」


 エメラルドが指す方向よく見ると 微小な黒いひびがパスの壁にあり大きさを変えながら移動している。生き物のようだ。


「あんな小さい欠陥よく見つけたな」


 移動速度を緩めて欠陥をしばらく観察してると驚く現象が起こった。


「わ、あれ……」

「やばいかも」


 いきなり黒い欠陥が巨大化して前方のかなりの範囲が暗黒になった。一つの赤い信号が暗黒に吸い込まれて消えた。

 二人も一瞬吸い込まれそうになったが、間もなく欠陥は嘘のように消失した。


「何だあれは」

「あれがクロストークポイントなんじゃないの、一瞬でランダムだからなかなか見つからないのよ」

「どうする、次出てきたら行ってみるか? 地球の経路に移るはずだが」

「ちょっと怖いわね」

「意識の一部だけ飛ばそうか、一瞬で行先を確認してすぐに引き戻す」

「そんな事できるの?」

「できる。マニュアルに書いてあった。もう何度か試してみたけどすごく早い。クロストークポイントが消える前に十分戻せる。万一戻らなくても行きつく先はおそらく地球かヘブンだ。問題ない」


 二人はまた欠陥を探して高速移動し、それが現れるのを探した。


 しばらくしてエメラルドがまた小さな欠陥を見つけた。本当に視力がすごい。

「アレックス、あそこ! 欠陥がある。これから大きくなるよ」

「よし、狙って意識を飛ばすぞ」


 1メートルくらいの大きさになったところでアレックスは意識をそのまるでブラックホールのような穴に飛ばした。意識は、クロストークの長い経路を一瞬で通り抜け、別の伝送経路に到達した。やはり地球のアップロードラインだった。その様子を確認して、また一瞬でアレックスは意識を回収した。その直後、間一髪で欠陥が閉じた。

「エメラルド、確認した。間違いない、これが地球とのクロストークポイントだ。思い出したけど、俺が地球からヘブンにアップロードしたときに変なものがたくさん周りで近づいたり離れたりしていた。あれはクロストークポイントとそこからやってくるテディ人のデータだったんだな」


「それにしても何でこんな欠陥があるんだろう」

「レベッカが情報変換デバイスの挙動を調べた方がいいって言ってた」

「どこにあるの?、それ」


「スターバックのチェンバー側だから最初に入ったノードのあたりだ」

「行きましょう」


 二人がそのあたりまで近づいた。

「あれだ」


 アレックスが指さした先には、巨大で複雑な構造物がそびえていた。青い複雑な信号格子に沿って大量の赤い信号が入ったり出たりしている。

「単なるチップでしょ、この空間ではあんなになるのね」

「ここから例外処理を探すのか? 見ているだけじゃ到底わからないぞ」

「ねえ、意識を飛ばすやつって、あの複雑な格子の中にも飛ばせるの?」

「できると思うけど、何かする気?」

「しらみつぶしに調べる」


 アレックスは何千もあるように見える格子を見上げて言った。

「無理だ、エメラルド。膨大な格子だ。砂浜から一粒の小さなダイヤを見つけるようなもんだ」

「あら、それなら探し出せる自信あるわよ。やるわ」


 アレックスはエメラルドにやり方を教え、自らも探すことにした。丸一日かけて見つかればラッキーだ。まあ、エメラルドは動態視力がいいから、意外と早く見つけるかもしれない。


 二人は格子の中の信号の動きをしらみつぶしにチェックしていった。

 二時間ほどして、エメラルドがついにそれを見つけた。


「アレックス、見つけた。処理が止まっている場所がある。異常振動しているわ」


二人が見つめる場所は、スムーズに信号が流れず共振を起こしてデータが消失している。


「どういう状態なんだろう」

「チップのバグだな。外部の雑音をもろに受け入れてしまってコンタミネーションを作っている。そのコンタミを伝送経路に流してしまっているんだ。クロストークの原因はスターバックのチェンバーのチップにあったんだ」


「スターバックに話して修理すれば治るかな?」

「いや、これはチップのファームウェアのバグだ。ハード的な故障ではないからチップを交換しても変わらない」

「デバッグ?」

「そう。少し時間がかかるだろう」

「その間、暫定的に伝送回路をOFFしておくことはできないかな?」

「できるけど、レベッカとの約束がある。ダイレクトパスも切れてしまう。彼らの移住経路が絶たれる」

「それはだめだね。早くヘブンのエンジニアにデバッグしてもらいましょう」


 アレックスとエメラルドは状況をレベッカに報告した後、スターバックの部屋に戻った。


スターバックに事の次第を報告すると、彼は当該チップのメーカーにデバッグを依頼した。


 スターバックからはチーム2の状況を聞いた。

「サファイア達がセオドアというテディ司令官との交渉に成功して、移住の一時停止と地球への移住案に合意したそうだ」

「地球への移住?」

「ああ、ヘブンではなく地球に避難してもらう案だ。さらにヘブン人が地球にダウンロードしてうまく管理するんだそうだ」


「いい案かもしれないけれど、地球は受け入れるのか?」

「それはこちらが君達に訊きたい」

「すんなり決まるか怪しいわね」


「いずれにしても、まずはヘブンへの移住が一時停止するのは朗報だ」

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