第12話 全て解決! アナも復活!

 その頃ヘブンではエメラルドとサファイアが話していた。


「ヘブンにアップロードした二人がファルコンの連中でしょ。名前何て言ったっけ?」

「ジェイスとハウザー」

「ダウンロードさせて、自首してもらおうよ。償いその一よ」

「スターバックに言おうか」

「そうしましょ」


 エメラルドがスターバック達にファルコンの状況を説明して、ダウンロードするように要求した。スターバックは素直に聞いていた。


「いいんじゃないか。元々僕はそのファルコンのリーダーにダウンロードするつもりだったし」


 ザック・ランバートの事だ。しかしジェイスが渋る。


「タイミングが悪いんじゃないか? 警察とアバターに挟まれた状況だろ。戻ったとたんに逮捕されたり射殺されるなんてごめんだぜ」


 ハウザーも同意した。


「そうだ。無罪放免にしてくれないと困るぜ」


 サファイアが辛口で突っ込む。


「何言ってんのよ、悪さしたんだから逮捕されるのは当たり前じゃない。刑務所入ったら、またスターバックにアップロードしてもらえばいいじゃないの。 無罪放免なんて虫が良すぎるわ」


 ハウザーが反論。


「いや、オリジナルが刑務所務めじゃ洒落になんない」

「つべこべ言わないで自首しなさい。分かった? スターバック!」

「分かった。分かった。まず僕がザックにダウンロードして三人とも自首させる。その後、警察側と交渉して保釈か何かしてもらうよ。これでいいだろ」

「分かってんじゃないの」


 ジェイスが口を挟んだ。


「おいスターバック、誘拐で保釈なんて許されるのか?」

「レベル5の司法制度だろ、何とでもなるさ」


 ジェイスは疑っていた。スターバックは頭はいいが、犯罪慣れしていない。


「スターバック、俺も行くよ。ハウザー、お前はヘブンで待機だ」

「ありがたいね」


 スターバックがまとめた。


「よし、僕とジェイスがダウンロードする。じゃあ、あちらでな」

 

 十五分ほどさかのぼり、地球。


 ファルコンのメンバーがフロートクルーザーと呼ばれる大型の車で大学に向かって飛ばしていたところ、前方に警察車両が五台ほど現われ進行をブロックした。どちらも空中十メートルほどの高さで停止している。


「ちっ、邪魔が入ったな」


 ハウザーが愚痴ると、ザックが命じた。


「アバターを用意しろ、少し遊んでやろう」


 そして、警察車両からは満を持してヴィンセント・カーライルのアバターがレーザーソード片手に出てきた。それを見たジェイスが笑った。


「おい、ヴィンセントが出てきたぜ、珍しい。トップパイロットとやり合うのは久しぶりだな」


 ザックも同意した。


「楽しくなりそうだ」


 ヴィンセント(のアバター)がフロートクルーザーに向かって叫んだ。


「ザック、ジェイス、ハウザー、出て来いよ。AEM用のデータはすでにライアン氏がジーニクスから運んだキーで退避している。もう意味が無いぞ」


 クルーザから三人のアバトロイドが出てきた。ヴィンセントは驚いた。

ジェイスとハウザーは等身大の普通のサイズだが、ザックのアバトロイドだけは身長が三メートルほどあり、ばかでかい。『こいつは軍用の特注品だな』


 ザックが答えた。


「ヴィンセント、久しぶりだな。たまにフィールドワークもするんだな」

「ああ、そのでかい体、少々やっかいそうだな」

「新品でね。試すのにちょうどいい」

「もう、意味が無いって言ってるだろ。自首しろ」

「ほう、時間的に無理だと思ったんだが、まあいい。データ消去はあきらめるが、逮捕されるつもりは毛頭無いね」


 その時、ファルコンの後方にアレックスと数人の捜査官が到着した。早速アレックスもアバターで出てきた。ヴィンセントがザック達に叫んだ。


「あれはアレックス・スプリンガー、鳥の巣のトップだ。見ての通り警察のメンバーにも囲まれている。あきらめた方がいいぞ」


 ザックは拒否した。


「嫌だね。俺たちは常に自由だ。少し遊んでやるよ」


 そう言うと、ザックの巨体がソードを片手にヴィンセントの方に跳んで切りつけてきた。片やジェイスとハウザーはアレックスの方に向かって行った。

 ザックとヴィンセントはソードで交戦した。ザックはその巨体を生かしたパワーで、ヴィンセントは芸術的とも思える身のこなしとスピードで、互角に刀を交じらわせた。


「ヴィンス、相変わらずの腕だな」

「ザック、その巨体は反則だな。どこに作らせたんだ」

「軍事機密さ」


 一方アレックスはジェイス、ハウザーと一対二で苦戦していた。ジェイス達はコンビネーションが良く、アレックスは防戦で手一杯だった。そこで捜査官達がドローンや警察のアバトロイドを出して加勢した。

 アレックス側の連携が次第にとれていくと、ジェイス、ハウザーも処理しきれずに、劣勢になり始めた。ハウザーが言った。


「アレックス、お前腕はいいが、警察に助けてもらっているようだとまだまだだな。

俺らの仲間にならないか? 鍛えてやるぞ」


「ふざけるな、悪党どもが。そろそろ観念しろよ」


 クルーザーが上に向かって動き出した。するとジェイスは、


「まあ、今回はこれくらいにしてやるよ。またな」


 そう言うと、ハウザーとクルーザーに向かって飛んで行った。

 ザックとヴィンセントも決着がつかないまま、ザックが隙を見てクルーザーに飛んで行った。

「ヴィンセント。また会おう」


 こうしてファルコンの三人はクルーザーで立ち去ろうとした。

 ちょうどその時、ヘブンでスターバックとジェイスのダウンロードが始まった。まずジェイスだが、彼の頭の中にヘブンのジェイスの記憶が融合されていく。これはベースが同じ人間なので単に記憶が追加されるだけですんなり終わる。


 次にスターバックがザック・ランバートにダウンロードし干渉を始めた。これはエメラルドの時と同じで、ザックの頭の中にスターバックが入り込み同意を取るか、強制的に割り込んで融合を進める。


 他人に割り込まずにコピーを生成することも可能だ。レベル7のヘブン上ではその生体コピーシステムを構築することができるので、ジェイスやハウザーのように比較的簡単にコピー人間が作れるが、逆に地球上で行うのは容易ではない(可能ではある)。

 従ってエメラルドやサファイヤのように地上の人間の体を借りる形でダウンロードする方が手っ取り早い。


 クルーザーの中にいるザックの頭の中で突然声が聞こえた。


「ザック。突然で申し訳ないが私はスターバックという者だ」


 ザックは混乱する。


「何者だ? どうやって通信している?」

「直接、君の頭の中にコンタクトしている」

「どうやって? どこにいるんだ?」

「地球じゃない。遥かに進化した星からだ」


 スターバックは詳しく説明した。ザックは半信半疑ではあるが、スターバックが言っていることを理解した。


「なるほど、お前がいう事が正しいと仮定して、これからどうするつもりだ?」

「エメラルド、いやエミー・サマーというパイロットがいるが、彼女に借りがあって、返さなければいけない。君の記憶を把握させてもらい、少しの間、君の体を借りる」


「おいおい、俺の体を乗っ取るつもりか?」

「そこまではいかない。記憶が融合し、しばらく支配権をこちらに譲ってもらうだけだ。悪いようにはしない。途中で不満があったら言ってくれ、配慮はする」


「いつまでだ?」

「おそらく今日だけでいい。以降も必要な場合は交渉させてくれ」

「それならいいが、大事に扱えよ」

「もちろんだ。では君の記憶を全て把握させてもらうよ」


 こうしてスターバックはザックに融合しダウンロードが完了した。


「ジェイス、気分はどうだ?」

「ザック、いやスターバックか?」

「ザックでいいよ」

「まあ何てことはない。ヘブンでの記憶が追加されただけだ。リアルなSF映画に出演した気分だな」


「そりゃあ、良かった。さて状況は把握できた。エメラルドがダウンロードしたエミーというのは研修所でお前が相手した個体のようだな?」

「ああ、そうらしい」

「下の連中と話すか」

「そうだな。だがこうしよう」


 ジェイスには逮捕を逃れる案がありザックに説明した。ザックは納得した。

そのやりとりを聞いていたハウザーが混乱した。彼だけはヘブンの記憶が無い。


「お前ら、何の話をしているんだ?」


 ザックが答えた。


「ああ、ごめん。何でもないんだ。少し予定を変更する」

「ザック、お前なんか急に変わったな。話し方がおかしいぞ」

「そうか? 気のせいだ」

「予定を変更するだって、逃げないのか?」


「ああ。エミーってやつと交渉が必要になった。詳しいことは落ち着いたら話す」

「大丈夫なのか? 捕まらないか?」

「大丈夫だ。まずはエミーとライアン教授に話をする」

「まかせるよ」


 クルーザーは一旦停止し、捜査側と通信で連絡を取り始めた。


「ファルコンだ。聞こえるか?」


 通信を取った捜査官が言った。


「聞こえる。ランバートか? 何だ? 自首しろ」


「カーライルにつないでくれ」


 ヴィンセント・カーライルにつながった。


「なんだ? ザック」

「気が変わった。エミー・サマーとフィル・ライアン、二人と交渉したい」

「何の交渉だ?」

「取引をする。彼らの助けになることをして、誘拐の件は問わないようにしてもらう。彼女らに繋いでもらえるか?」


 ヴィンセントは捜査官や本局と相談した。少し揉めたが、結論が出た。


「逃げないという条件で何とかしてやろう。つなぐから待ってろ」


 しばらくして、ザックはエミーと話が出来た。


「エメラルドか?」


 エミーはその名前で呼ばれたので少し驚いて返した。


「え、ええ。誘拐犯のザック・ランバートね?」

「体はな。意識は僕だ、スターバックだ」


 エミーとエメラルドは意識がほぼ融合しているのですぐわかった。


「ザックにダウンロードしたのね。ちょっと、こっちに来てよ。あなたまだ何も償いしていないわよ」

「これからするんだ。すぐにそちらに移動するから何をすればいいか早く考えておいてくれ」

「じっくり考えさせてもらうわ」


「もう一つ。フィル・ライアンに誘拐の件を問わないように掛け合ってくれ。一度逮捕されると面倒くさい」

「そんなことできる訳ないでしょ。罪はきちんと償いなさいよ」

「頼む。警察側とは話をつけた」

「フィル次第よ。そう、例えば彼の望むことをしてあげる必要があるんじゃない」

「それを償いの内容にしてもらってもいい、彼と話をしてくれ」

「やるだけやってみるわ。早く来てね」


 エミー達は、全てが破壊された地点から撤収作業を進めていた。

 クレイ等九名と捜査官達がいる。

 フィルとクロエはせっかくなのでアンドロイドのアナを起動させてみんなに披露していた。見た目には四歳の人間の女の子がはしゃいでいるようにしか見えない。


 エミーがザックの提案をフィルと皆に話そうとしたが、少し考えてまずサーシャ(サファイア)に相談した。


「スターバックから連絡があって、話の筋からどうしてもヘブンの説明をみんなにしないといけない感じ。どうしよう?」

「もう話してもいいんじゃない。どうせ半分の人は信じないよ。信じても信じなくても地球の人たちの生活は変わりないし」


 エミーはしばらく悩んだ後に決めた。


「もういいや。話しちゃおう」


 エミーは捜査官を除く八人を集めて、事情を説明した。クレイは納得するまで何度もエミーに質問などを繰り返した末、全員が納得した。アレックスがエミーを見て言った。


「エミー、驚いたな。地球ってそういう存在なのか」


次にサラが訊いた。「これは公表する? たいへんなことになるかも」


クレイが少し考えてから言った。


「俺が警察に簡単に言おう。どうせ信じてもらえないから大騒ぎにはならない。フィル、どうだ?」


 フィル・ライアンが言った。


「そうだな。それでいい。パニックを起こさせない必要がある。慎重にしよう」


 クレイは通信でヴィンセントにも詳しく伝えることにした。

 その間にエミーが今度はフィルに話した。


「ライアンさん。ザック=スターバックには罪の償いをさせなければいけないわ。誘拐もそうだし地球の盗難もよ。スターバックはかなりのことができるわ。ある意味何でも。何か償ってほしいことはありませんか? その代わり逮捕は免除することになるけれど」


 フィルは考えた。


「そうだな。AEMデータは問題なくなったし、私も解放された」


遠目に、リンとアナが遊んでいるのが見える。

サラとクロエをちらっと見た。


「事件とは関係ないが、ヘブンの技術でアナのアンドロイドをもう少し進化させてもらえないか? 見た目はほぼ完全だが、頭脳は人間の域までは行っていない」


 エミーがザックに言った。


「できるんじゃない、4歳でしょ。なんなら大人並みにでもできるでしょ」


 ザック(スターバック)が答えた。


「簡単だな」


 続けてクロエが言った。


「姉が4歳のままで妹がどんどん成長するのはしのびないわ。そんなにヘブンの技術が優れているならアンドロイドを成長させるとかできないの?」


 ザックが答えた「いちいち作り直すしかない。面倒だ」 


 フィルはそこまでは望まなかった。


「そこまではいいよ。アンドロイドだ」


 ザック(スターバック)は少し考えた。アイデアがある

「もしかして生体の方がいいのか? 生体なら何歳にでも成長させられるぞ」

「何だって? 生き返らせることができると言うのか?」

「少し違う。ヘブンでやっているコピーだ。こちらでいうクローンに似ているが、記憶も移植されるから完璧だぞ」


 エミーが疑問を呈した。


「どうやってやるの?」

「まず、そのアンドロイドにある記憶をヘブンにアップロードする。次に何か本人の遺伝子情報がいる。骨とか髪の毛とかへその緒とか残っていないか?もしなければ妹のものでもいいがな」


 サラが言った。「あるわ」


「まずヘブンで遺伝子と記憶を使ってそのアンドロイドそっくりの生体を作る。それからが真骨頂だ。ヘブンの加速成長システムを使う」


 サーシャ(サファイア)が感嘆した。「なるほどね。ヘブンで成長させるんだ」


「そうだ。体の成長はもちろん、ヘブンのあらゆる知識を吸収させられるぞ」


 エミーも理解した。


「わかったわ。サラ、ライアンさんそれでいい? 何歳がいいですか?」


 サラが答えた。


「生きていたら14歳だから、14歳かな? フィル」

「そうだね」

「はい、わかりました。それからリンや家族の記憶も入れておいた方がいいんじゃない?」


 リンも同意した。「それがいい!」


「それじゃあスターバック、聞いていたよね。それでお願い。14歳のアナを完璧に作って」


 フィルが感謝の意をエミーに伝えた。


「ありがとうエミー、いやエメラルドかな」

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