第8話 リリーローズ様?

 色々と考えた結果、アルビダは直接聞くことにした。

 このままでは、良いアイデアも浮かんでこないまま、ただ時が過ぎていくだけ。

 

「あのうジェイデン様、妹のジュリア様のことが心配で、お茶会どころではないのですよね?」

「……えっ、確かにジュリアのことは心配なのですが……」


〝しまった……表情に出ていたのか?……考えを悟られるなんて失態だ〟


 ジェイデンは、自分が心ここに在らずだった事をアルビダに気付かれ、情けなく思い少し落ち込んでしまう。


 心の声が聞こえたから、内心がわかっただけで……。

 もっと違う言い回しをしたら良かった。

 どうしましょう。ええとええと……。


「あっ、いえその……表情に出ていたわけではなくて、ジェイデン様はお優しいので、大切な妹のジュリア様が病に伏せっていたら、きっと心配でお茶会どころではないかなと思いまして……」


〝ああ……なんだそういう事か……って! 僕は表情に出ていたのかって、言葉に出していたのか。そっちの方が恥ずかしいぞ〟


 今度は右手で口元を押さえ黙り込むジェイデン。耳だけ少し赤く染まっていた。


「そうではなっ……」

「え?」

「なんでもないです」


 危ない危ないですわ。そうではなくて、心の声が聞こえるだけです! と良いそうになってしまいましたわ。


〝とりあえず落ち着け。冷静に、動揺していたらアルビダ嬢を困らせてしまう〟


「んんっ、すまないね。気を使わせてしまって」


 ……何だかこちらこそすみません。


「いえ、大丈夫です」

「その……。アルビダ嬢の言ってる通り、僕は妹のことが心配で……」

「だって大切な妹さんなんですもの、心配なのは当たり前です」

「ありがとう。ただの病ならここまで心配しないんだ。謎の病にかかったみたいでね。病名が分からないんだ」


 ジェイデンは唇を軽く噛み締めた後、少し俯き深呼吸をした。

 呼吸を整え、心を落ち着かせたいのだろう。


「何人もの治癒師を呼び治療をして貰いましたが、病相が分からないことには治癒のしようがないのだと、全員から言われました。怪我や欠損まで治せる治癒師でさえ匙を投げた」

「そんな……でも分かります。わたくしのお母様の病気も、治癒師の方は治せませんでした。ですから……わたくしの夢はお母様の病気を治すことでした……っ」


 母を思い出したのだろう。アルビダは今にも泣きそうな瞳をしている。

 

「アルビダ嬢……」


 そんなアルビダを切なそうに見つめるジェイデン。自分と姿を重ねているようにも見える。


「え?」

「泣きたい時は我慢しなくて良いんですよ?」


 ジェイデンが優しくアルビダの頭を撫でた。


「ふぇ…… あっ、ありがとうございます」


 わたくしにお兄様はいませんが、いたらこんな感じでしょうか?

 何だか嬉しくて泣きそうですが、妖精さんに泣くのはダメだと言われました。どうにか心を落ち着かせるのです。


「わたくしは大丈夫です。大丈夫じゃないのはジェイデン様ですよね? 妹さんの所に行ってあげてください。今はそれが最優先です」


 アルビダは両手を胸の前で強く握り締め鼓舞する。


「アルビダ嬢……すまないね。甘えさせて貰うね」


 ジェイデンは再びアルビダの頭をふんわりと撫でた後、急いでその場を去って行った。


「このお礼は必ずするからね」


 ジェイデン様の妹ジュリア様の病気が治りますように。


 さてと、わたくしは会場に戻りましょう。


 アルビダは再びお茶会の会場に戻るのだった。




 ★★★



 何だか、あの場所だけすごく賑わっていますわね。


 会場に戻ると、多くの人が集まっているグループが目にとまる。

 気になりアルビダはその場所に近寄ると、どうやら一人の少女にたくさんの少女たちが群がっているようす。


 なるほど、中央にいる女性にみなさまが注目していますのね。

 着ているドレスのデザインが、他の人たちと少し違うようにも思います。オレンジ色の髪色に緑色の瞳……?


 ————あれ!?


 中央にいる方は……もしかしてリリーローズ様では!?

 

 アルビダはこの少女がリリーローズかもと思い、思わず一歩前に出たことで中央にいる少女と目があう。

 次の瞬間アルビダと目があった少女の頬が桃色に染まる。


「真紅に煌めく薔薇のように美しい髪……ああっ、あなた様はアルビダ・イングリットバークマン様ですか!?」


 少女が少し小刻みに震えながら、アルビダに話しかけた。

 そのことにより、その場にいた人の視線がアルビダに集中する。

 急に自分が注目されアルビダは、どうして良いのか分からず言葉に詰まる。

 大勢の人に見られてると思うだけで、恥ずかしくて耳まで赤く染まっていく。


 どうしましょう、こんなに注目されるなんて。

 でもお返事をしないのは失礼ですわ。


「イングリットバークマン公爵家が娘。アルビダ・イングリットバークマンです。皆様、仲良くしていただけますと嬉しいです」


 アルビダは恥ずかしいのを必死に堪え、精一杯挨拶のカーテシーを披露した。

 そんなアルビダの姿を、話しかけてきた少女は瞬きもせず、じっと見つめている。その姿はまるで、一瞬ひとときもアルビダの姿を見逃さないようにと見ているかのよう。


「あああっ、なんてなんて美しいのでしょう! 想像が掻き立てられますわ! アルビダ様とお呼びしてもよろしいですか? あっ、自己紹介がまだでしたっ! 私はシュトロン侯爵家が娘リリーローズ・シュトロンと申します! アルビダ様! 是非是非仲良くしてくださいませ!」


 頬を染め、鼻息荒く話しながら、興奮気味にアルビダに近寄るリリーローズ。


「ふぇ!?」


 そんなリリーローズに圧倒され、アルビダはどうして良いのか分からず固まってしまった。



 妖精さん? 

 リリーローズ様にお会いしましたが、わたくしの想像と違っていたのですが……あのう……本当に……仲良くして、大丈夫ですのよね?




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