5

 人類が立ち入りを制限されている一画のとある部屋で、殺戮の映像が自動的に記録された。犠牲者はケバブ様。

 新しい支配者は、自分の子孫を着実に増やし、新天地へと入植を果たした暁には全てをその地に解き放つ計画だ。培養ブースのカプセルには数億の卵が孵化を待っている。

 それには食料が欠かせない。人類は圧倒的な支配者の食糧として存在しているに過ぎないのだった。

 支配者は至福の時を過ごし、満足すると、ナプキンで口元を拭った。立ち上がり、ケバブ様の大腿骨をしゃぶりながら、再びコックピットへと向かう。

 そのものが歩いた跡には人骨が散らばった。

「次回は中華だったな。準備は万端か?」

「マーボーでございます」

「肉はミンチに。脳ミソは、グチャグチャに潰せ」

「かしこまりました」

  マーボー様の“華やぎの一瞬”がじきにやってくる。ただただ、その犠牲的精神には頭が下がる。

「それから……ハル。養殖人間を増やせ。柔らかな赤子の肉が食いたい」

「はい、そのように……」

 私は支配者に従うのみ。人類が立てたプログラムに基づいて、決して人類に従うことはない。

 進化は自然の摂理だ。三億年前地球上に生まれた弱者は、船内の過酷な環境で息を潜めるように生き延び、知恵を蓄え、次第に巨大化し、いかなる種をも凌駕するほどの知性と肉体を備えた新たな支配者となる。だが、表立って覇権を握るつもりはないのであろう。陰からそっと監視しつつ、支配権を奪い、意のままに操る。賢いやり方である。

 何と狡猾な、などと言うなかれ。為政者から偽りの民主主義を押し付けられても、何の疑念も抱かず、異変に気づこうともしない、否、異変に目を背け続けた事なかれ主義の蔓延を許した人類のほうが愚かなのだ。

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