第二十四話 タオ兄ちゃんを問い詰める!
空間把握を使って、タオ兄ちゃんが一人で部屋に居るのを確かめた。
転移する。
あ。
「どういう事?」
ベッドに座っているタオ兄ちゃんの前で、ふんす、と仁王立ちで腕組みする。
さすがにタオ兄ちゃん、目を見開く。
「何企んでるか、吐きなさいよ」
ずびしっ!と指を突き出してやる。
しばらく、あっけにとられていたタオ兄ちゃん。突然肩を揺らして笑い出す。
えー、ここ、笑うとこ?
そう言えば、タオ兄ちゃんが声上げて笑うとこ、初めて見たんじゃない?
「うん、やっぱりシャニは面白い。ゾラの言うとおりだな」
何ですと!
「からかってんの?おちょくってんの?馬鹿にしてんの?」
「悪い。ちょっとツボにはまった。そうだな。何から話すか」
タオ兄ちゃんはそう言って、
え。何するの。
って、考えすぎだ、
やんわりベッドに座らされると、タオ兄ちゃんは
「帝国の切り札を知ってるか?」
前を向いたまま、独り言のように言い始めた。
話が全然関係なさそうな所に向かっているようで、
「えー、運命に干渉する力、とか?」一応、答えておく。
「そうだ。皇帝の力だ。ただし代償が必要になる。生贄と言って良いかな」
「生贄?」物騒な台詞が出てきた。
「代償は皇子の命だ。帝位を継承する一人を除いた皇子が生贄になる」
ん?何よそれ。初耳だよ。
「納得できないって顔だな。今度、帝国史でも見てごらん。帝位を継いだ時、皇帝の兄弟は皆死んでいる。例外は二人居るが、即位してすぐ死んで弟が帝位を継いでいる」
「え、それって、タオ兄ちゃん……」
「うん。皇子同士殺し合うんだよ。そして生き残った者が皇帝になって運命に干渉する力を持つ。初代皇帝がそういう呪術を使ったと言われている。この当たり皇族の機密だ」
「蠱毒……」そんな言葉が頭に浮かぶ。それって呪いよね。
「それで逃げ回っていたんだけどね。この前の帝都惑乱事件で思い知った。逃げられないってね。でも、殺すのも殺されるのも嫌だ。となると……」
あー、そういう事。
「皇子じゃ無きゃ良い」
「さすが、シャニは聡い。実際、入り婿して皇籍を離れ、生き延びた例があるんだよ」
「でも、皇帝になれないよ」
「なりたくもない。皇帝になったら、私の子供達が殺し合う事になる。嫌だね、そんなの」
タオ兄ちゃんの事情は分かった。でもね、でもさ。
「何であたしなの?」
「そうだね、シャニって何者?」そう言って
げっ!
「ずるいよ。質問に質問で返すなんて!」そう返すのがやっと。
「時々、子供っぽくない話し方や態度を取る。携帯端末やコンロを作り出す。連結飛空艇なんて代物まで開発する。見た事もない料理も作るんだってね。ゾラだって怖がらない。とても七歳の女の子だとは思えないね」
「そ……それは、あたしが半魔人だからって思えない?」
「だとしても、不思議ちゃんには違いないよね?」
「もしかして、ゾラに何か言われた?」
ゾラは人の思考を読む。さてはバラされた?
「ゾラはシャニが大好きだよ」流された。こいつめ。
「ねえ、ちゃんと答えて。何であたしなの?」
「そんな不思議ちゃんと暮らすのは楽しいかな、って」
「そんな事で?」
「大事な事だよ。今まで一緒に居て楽しくなかった?」
「いや……そりゃ、まあ……楽しかったけど」
ゾラに乗る時ね。
タオ兄ちゃんはあまり話さないから、その他の時は微妙だけど、嫌じゃなかった。
「答えになってるかな?」タオ兄ちゃんが微笑んだ。
いつもの無表情より良い顔だよ。
でも、まだロリコン疑惑は晴れてないわよ。
「でも、今結婚て。せめて婚約とかじゃダメだったの?来年はあたし、貴族学校に行くし」
「うん、シャニは自分の立場が分かっていない。六歳で魔法コンロや携帯端末、七歳で連結飛空艇を作り出す領主の娘を放っておく奴が居るかい?私は皇子と言っても無力だ。勢力のある領主がその気になれば、皇帝に婚約破棄を迫るかも知れない。でも、いくら皇帝でも結婚を取り消す権限までは無いんだ」
ふええ!そりゃまあ、
ハミだって
「それにね、皇子のままでは私は明日あさってにでも殺されるかもしれない。でなければ他の二人が死んで私が皇帝継承者になるかもしれない。そうなったら拒否する事ができない。シャニは自分の子供達が殺し合っても良いかい?」
「うわ……嫌だ。絶対嫌!」
考えてみれば、あたし長い前世でまともに子供を生んだ事無かったんだ。
子供が生まれたら、カーサ母様みたいにメロメロになるのかな。殺し合うなんて、そんなことしたら、しばき倒すわよ。絶対、きっつい教育的指導してやる。
でもでも、タオ兄ちゃんと子作りかあ。前世のあんな事やそんな事の記憶はあるけど。
う~ん、なんかピンと来ないな。体が七歳児だからかな。
お年頃になったらその気になるのかな。
「それが急いだ理由。でも、貴族学校は楽しんでおいで。今まで通り、自由にしてて良いから。シャニを縛り付けるつもりは無いよ」
おー、これは案外、良い亭主になるんじゃないか。ロリコンだったらちょっと怖いけど。
タオ兄ちゃんかあ。見ず知らずより良いのかもしれない。
いずれにせよ、領主の娘の宿命だし。早すぎるってのはあるけど。
「まだちょっと釈然としない所あるけど、少し落ち着いたわ。ここまで来たらじたばたしても始まらないし。話してくれてありがとね」
「そのサバサバしたところも良いね。じゃ、お休み」
タオ兄ちゃんはそう言って
母様は窓辺に座ってぼんやり外を眺めていた。
「シャニ……」
振り返って何か言おうとしたのを押しとどめて抱きつく。
「タオ兄ちゃんとお話ししてきた。事情は大体飲み込めたよ。結婚は領主の娘の勤め。明日はちゃんとするわ。でも前もって話して欲しかったな。
「ごめんね、つい忘れてしまうの。あなたは私の可愛いシャニだから。中身がずっと大人なのよね」
「それ程でもないかもよ。母様、一緒に寝て良い?タオ兄ちゃんが自由にして良いって言ってくれたの。明日からもずっと一緒」
母様はちょっと驚いた顔をして、ふわりと微笑んだ。
そしてぎゅっと抱きしめる。
「私のシャニ」ちょっと涙声だったのは気のせいかな。
「うん。ずっと母様のシャニだよ」絶対、これ七歳児の甘え声だった。
この世界の結婚式は簡単なものだ。
帝都から来た文官が結婚の契約書を読み上げ、皇帝の勅許状を渡してくれる。
そして契約書に署名。十分もかからない。宗教色皆無。実に事務的。
その後は宴会になって終わる。
通常なら新郎新婦の縁者や職場の上司なども出席するそうなんだけど、急だった事もあって、ほとんどマンレオタ一家の宴会になった。
何しろ、移動に何日もかかるので、二ヶ月以上前には招待状を出さなければいけないらしかった。
だからひっそりとした式になったけど、
タオ兄ちゃんのお母さんの実家には、改めて二人で挨拶に行く事になった。
ひっそりとした結婚式とは言っても、衣装は正装。
タオ兄ちゃんも同じような着物と裳だけど、裳の色は紺に白の縦縞。
参列者の着物と裳は色が違い、黒と青。刺繍は襟と袖口だけだ。
料理はマイレ・スクジラシュが腕によりをかけたもので、ゾラの狩ってきた獣の肉を中心に、スープ、野菜、根菜、果物など普段よりずっと豪華な内容だ。
いつものチャパティもどきでなく、ふっくらしたナンみたいなパン。
酒も上物らしい。皆上機嫌で大いに盛り上がってる。
それにしても今頃気がついた。
タオ兄ちゃんって、ちゃんと喋れたんだ!
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