「お節介さん」の裏事情
宙色紅葉(そらいろもみじ) 週2投稿中
お節介な佐藤さん
いつもニコニコ笑顔の彼女は、非常に優しい心の持ち主で、面倒な係の仕事を率先して行ったり、孤立している生徒に声を掛けて悩みを聞き、友人をつくれるように手伝ったりと、常に誰かの世話を焼いている。
それにキチンと制服を着こなして、真面目に学校生活を送る彼女は先生からの受けが大変良い。
だが、決して堅苦しいわけではない。
そんな彼女の側は居心地がいいようで、周囲には多様な人間が集まって、いつも笑顔が溢れている。
『佐藤は、自分が裏でお節介って陰口を叩かれていること、知っているのか? 知っていてあんなにニコニコしているなら、いっそ、狂気だな』
優等生の鏡が故だろうか。
佐藤の善良な性質を揶揄し、裏で誰々を虐めているだの、良い子気取りで自分に酔っているだけだのとボロクソに文句を言う人間が一部に存在している。
だが、佐藤の悪い噂には、いずれも明確な根拠が存在しない。
おそらく、彼女には本当に後ろ暗いところが無いのだろう。
碌にダメージを与えられもしないだろうに、毎度毎度ご苦労な事だ。
『俺も佐藤は苦手だし、わりと共感するところもあるけれど、助けてもらった奴らまで陰口を叩くのは、どうなんだ? あ、ヤベ……』
佐藤はニコリと優しく微笑み、自然な足取りで黒坂に近寄って来る。
「こんにちは、明君。よければ、皆で一緒にお昼を食べない?」
他人が苦手な自分が、なぜ仲良くもない生徒に囲まれ、肩身の狭い思いをしながらモソモソと食事をしなければならないのか。
黒坂はそんな思いをのみ込み、代わりに苦笑いを浮かべた。
「ごめん、佐藤。俺、今日は用事があるんだ」
「そっか、残念。今度は一緒に、ご飯を食べてね」
いつもと同じ断り文句を口にすれば、佐藤はあっさりと引き下がって仲間のもとへと帰って行く。
黒坂としては、かなり優しく断ったつもりだったのだが、少しでも二人への攻撃材料を手に入れるとはしゃいでしまう悪め生徒たちが、
「佐藤さん、よく黒坂に声をかけるよね。私だったら絶対に無理! だって、黒坂って、いっつも一人で、なんか気持ち悪いんだもん。絶対に変態のサイコパスだよ! 小動物とか虐めてそう。佐藤さんって、本当に偉いよねー」
だとか、
「えー、でも、佐藤さんだってウザいでしょ。あんなの放っておいたらいいじゃない。大体、黒坂だって迷惑してるんじゃない? 毎回断られてたら流石に嫌がられてるって気が付くでしょ。佐藤さんってさ、言っては悪いけど、結構おバカさんだよね。笑顔でアリの巣に、飴玉とか突っ込んでそう~」
だのと、陰口を叩いているのが聞こえてきた。
声は明らかに弾んでいて、隠し切れない意地の悪さが滲んでいる。
しかも、佐藤や黒坂に聞こえてしまっても構わない、むしろ、聞いて心にダメージでも負いなよ、もしも文句を言ったら、人の話を盗み聞きする変態って中傷してあげるからさ、と考えているところが、非常に
『佐藤は一旦おいておくとして、俺の方は完全にとばっちりだろ。佐藤が俺に話しかけてさえこなければ、無駄に攻撃されずに済んだのに。それに、用事があるって言っちゃったから、教室以外の場所で、メシを食わなきゃいけなくなったし』
黒坂は弁当の入った巾着を片手に、教室を出た。
そして、人目に付きにくい代わりに肌寒い、旧校舎のラウンジへと向かった。
もう一か月近くも、昼食のお誘いを断る日々を送っている。
このまま教室を追い出され続けるなど、たまったものではない。
歯を震わせて冷たい白米を齧りながら、黒坂は佐藤に文句を言うことに決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます