かつて私が星だったころ

 かつて私は星だった。


 それを思い出したとき、私は所属している天文部の活動中で、他の部員と一緒に草原に寝そべって夜空を見上げていた。地平線の向こうまで果てなく広がる黒とその中に散りばめられた無数の星の輝きを見ているとなぜかひどく懐かしく感じて、どうしてだろうと思っていたら、だんだんと夜空が落ちてきて私を飲み込んだ。気がつけば私は宇宙の真ん中に浮かんでいて、そこでああ、ここは私が遠い昔、生まれる前にいた場所だと思い出したのだった。


 かつて星だったころ、私は目を持たず、耳も口もなく、あるものといえばただ大きなその体だけだった。それだって宇宙全体で見れば砂粒よりも小さなものだ。私の近くに他の星はなく、目の前はいつだって黒に覆われていて、しかしその色を黒と呼ぶことすら知らない。たまに遠くでちらちらと輝く星を見つけて、私はそれらに挨拶がしたかったけれど、私の大きな体は私自身の意思で動かすことすらできなかったので、ただずうっとその光を眺めているだけだった。ただそこにいるだけ。十七歳となった二回目の人生よりも遥かに長い時間を生きたはずなのに、あまり覚えていないのはきっとずっとそうだったからだろう。変化のない穏やかな宇宙は、今思うと退屈で、時間が止まっていてもわからないくらいだった。


 今もそうだ。夜空を見上げていると、まるで自分が永遠の中にいるような、止まった時間の中で一人浮かんでいるような気分になる。かつて星だったころはそれが当たり前だったのに、人間として生きた今となっては、それがひどく恐ろしいことのように思えた。


「あっ、流れ星だ!」


 天文部の誰かがそう言って、その声で私の意識は宇宙の中から大地の上へと引き戻された。そんな私の目の前でまた星が流れて、永遠をななめに切り裂くように、長い光の尾を引いて、そして消える。そのあとを追うようにして夜空のそこかしこで幾筋もの星が流れていく。


 星が流れる。


 時間が、流れる。


「綺麗だねえ」


 隣に寝そべる友人がそう言って、私はそうだねと返した。

 いつかあの黒の向こうへ帰る日が来るだろう。そのとき、この光景を忘れたくない。

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