希望の目

 黒崎くろさきは、捕まった。

 当然だ、自分で、したと嘘を付いてしまったのだから。

 だが、それを当然、はかりが許す筈もない。

「なんでだ!黒崎さんはやってない!」

「やってなくてもだ、やったと言えば、それは、やった事になる」

 黒雨くろさめは、笑いながらそう言った。

 もはや、隠す気がなさそうだ。

 すると、秤が、その姿を見て、何かに気付いて狼狽えた。

「……黒雨君、君は、もしかして、この結果が予想出来てたんじゃないか?」

 黒雨はさらに、笑った。

「だったら?」

「どうして!止めなかった!君なら、止める術を知っていた筈だ!思い付いた筈だ!」

「ああ、あったぞ」

「なら、どうして!」

 秤は、これまでにないほどに、怒りを露わにしていた。

 それは、当然、黒雨の楽しくさせるだけだった。

「どうして?簡単だ、それは、あまりにも、リスクが高かった。だから、しなかった」

「でも!全員が助かるチャンスがあったって事だった筈!」

「ああ、あった、ただ、失敗すれば、全員捕まっていただろうな」

「どうして!全員救おうとしなかった!僕だって居たんだ!大抵の事は出来る!」

 秤は、黒雨の襟を掴み引っ張った。

「良い加減にしろ、どれだけ、力があったって、民衆という圧倒的暴力には、人間では太刀打ち出来ない」

「嘘を吐くな!本当は、出来たんだろ!」

「どうして?」

「笑ってるじゃないか!この状況を面白がっているんだろ!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 黒雨は、我慢の限界と言う様に笑い出した。

 秤は、それを不気味だと思ったのか、一歩下がった。

「何がおかしい?」

「いや、馬鹿だなと思っただけだ。この状況を面白がっている?当たり前だろう?

 それに、面白がってるだけで、決め付けるとは、流石に馬鹿すぎやしないか?」

「なんだと!」

「秤、落ち着け」

 静かにしていたニコは、そう言って、黒雨と秤を遠ざけた。

「一つ、黒崎を救う手立てがあるが、するか?」

「あるのか!?」

「ああ、あるぞ、ただ、それには、お前が警察に捕まってもらう」

「分かった、なんだってしてやる!」

 秤は、希望に満ちた目で、黒雨を見た。

 それを見て、黒雨は興味を失った様に、笑うのを辞めて、秤から目を逸らした。

「まずは、証拠作りからだ」

「ああ、分かった」

 秤は、そう言って、何もない空間から、赤い液体が入った瓶を取り出し、飲み始めた。

「黒雨、証拠って作れるのか?」

「大丈夫だニコ、証拠は、なくたって構わない、秤しかありえない場合はな」

「なるほど」

 それを見て、秤は、妙な違和感を覚えたのか、何か不思議そうな目で、二人を見ていた。

 その視線を、感じ取ったのか、少し黒雨は機嫌が悪くなった。



 秤達は、あのマンホールの上に行こうとしていたが、警察に阻まれた。

「どうするの?」

「いや、これで充分だ、あそこで何をしてるのかを確認したかっただけだ」

 そう言って、黒雨はそこから離れる。

 それをニコは、付いていく。

 秤は若干遅れてから、付いていった。



「それじゃあ、まずは、あそこから監視カメラに一切写らず、屋上に登る方法だが、この際、真実はどうでもいい。秤の飛行出来るという能力があればそれで」

 黒雨がそう言うと、秤は「なるほど」と口にした。

「でも、あれじゃない?黒雨、それじゃあ、秤は死なないか?」

 ニコが、そう言うと、秤は少し狼狽えたが、直ぐに覚悟を決めた目をした。

「やるよ、死んでも良いから」

「駄目だ、二日か、三日、拘束されてくれたら、間違いなく、黒崎は救える。だから、三日後に出てこい。秤なら、可能だろう?例え神何を言われようとも、絶対に三日か、二日は、拘束されろ。誰に何を言われても、三日か、二日拘束されろいいな?」

 黒雨は、鋭い目付きで、秤を見た。

「でも、僕は民衆を殺せないよ?」

「それでいい、もし、秤の力が必要になったら、手のひらを返してくるから、安心しろ」

「分かった、やってみるよ」

 秤は、少しの動揺も見せずに、覚悟を見せた。

「ああ、行ってこい」



「ボス、あれで大丈夫ですよね?」

「大丈夫じゃないか?例え、数分出てきても手はあるしな」

 すると、俺の右ななめ後ろから、何かが現れた。

「少しは、我慢出来ないの?」

「ルーナか、無理だな、俺達は悪魔だぞ?」

「そうだ、ボスの言う通りだ」

 ルーナは、少しため息を吐いた。

「少しは、自重してくれない?」

「でもな、俺達能力は使ってないしな?」

「はい、ですね、自重してますよね?」

 すると、ルーナに何かで叩かれた。

「痛!」

 俺は、頭を抱えた。

 嘘だろ?痛みにはめちゃめちゃ耐性あるんだぞ?

「どんな、力で叩いてるんだよ」

 俺は、後ろを見て、何で叩いたか確認すると、そこには何もなかった。

 ええ?何も無いのにあの威力?

「五割くらいで叩いたけど、それより、使ってないって、空飛んだでしょう?」

「それは、能力じゃないだろ」

 ニコが、いちゃもん付けると、ルーナがニコを見て笑った。

「叩かれたい?」

「あ、いや、はい、すみません」

 ニコが恐怖で萎縮した。

 嘘だろ?ええ?

 最低最悪の悪魔になりたいと思ってる、ニコが?

 どんな、恐怖だよ?怖。

 俺も、気付けば、ルーナに少しばかりの畏怖を抱いていた。

「で?これから、何するつもりなの?」

「え?これから?デスゲームするつもりだが」

「あのさ、この学校破滅させる気?」

 少し、怒った様にルーナが言った。

「ああ、そうだが?」

 俺が、当然の様に言うと、ルーナが、さっきよりも強い力で叩いてきた。

「痛いな!」

「楽しそうだし良いじゃん」

「そりゃあ、痛がってる俺をみるのは面白いし、声を聞くのも面白いぞ?だが、何回も聞いてるんだよ!」

 何回も聞けば、だんだん飽きてくるに決まっている。

「まあ、いいや、それより、辞めてくれない?全然、秤、修行出来てないんだよね。このままじゃ、秤ボコボコにされて、つまらなくなちゃうからさ」

「修行パートが欲しいのか?」

「そう、欲しいのだから、これ以上荒らすの辞めてくれない?」

「でも、戦いの最中、成長するっていう」

「その、戦いの最中死ぬんだけど?そもそも、途中で止めてくれれば、私だって、それでも良かったよ?でも、最初だって、私が止めないと、世界一気に制服しそうだったでしょ?だから、無理なの、分かる?」

 ルーナは、完全に怒っていた。

 少しばかり、呆れもあっただろう。

 ただ、それに臆さない、それが、俺達だ。

「何もしてないんだし、よくないか?」

「してるから言ってるんだよね」

「でも」

 その瞬間、体が拘束されて、喋れなくなった。

 なにされた?おかしい、能力を使っても解除が出来ない。悪魔の隠された能力が、見つかれば、こうはならないんだろうな。

「五月蝿い、良い?私の言う事を聞いて、私は、神だから」

 俺は、必死に首を横に振って、ルーナを限界まで煽る。

「はーい、理解しましたねー、行きましょうねー」

「あ、俺も行くわ」

 俺は、ルーナに片手で担がれた。

 ルーナは、アジト方面へと、飛び始めた。

 俺は、飛んでる最中、遠いている、学校を見つけて、最悪な気分になった。

 仕方ない、あいつを殺して満足するか。

 俺は、ニコに能力を使ってメッセージを伝える。

——秤の母親を殺せ。

 すると、ニコがニヤリと笑って、矛を持って、秤の母親が、いつも秤の事を自慢してる場所目掛けて。 

 矛を投げた。

「ねえ、帰る時くらい大人しく出来ないの?」

「数人くらい、よくないですか?」

「まあ、良いや」

 矛は、ニコの元に戻ってきた。

 俺は、崩れた、建物を注視した。死んでいる可能性が高そうだ。

 まあ、死んでなくても、重傷は負わせられただろう。

 さて、秤はどんな絶望を聞かせてくれるのだろう?ああ、楽しみだ。




「釈放?黒崎さんと?」

 秤は、黒雨の言って事が違っていた事に少し驚いていた。

 何故なら、あれほど推理を当てた男だからだ。

 当然、動揺もするだろう。

 照らされた道が、間違いだったのだから。

 ただ、人は、誰しも間違いはする物、普通はそんな事では別に動揺しないだろう。

 それなのに、これだけ動揺しているのは、一つ。

 黒雨が提示したのが、秤を貶める物だったからだ。

 神が出てきた訳ではない。証拠が見つかったからだ、秤達ではない、決定的な動かざる証拠が。

 それは、カメラだった。

 どうやら、ゴミ箱に捨ててあったカメラが起動していて、そのカメラにたった一人で、運んでいる様子が見られたらしい。

 実に、運がいい。

 ただ、それは逆に、あの黒雨が見過ごしたという事になる。

 あり得ない、あれほどの推理力を持ちながら、それを見逃すだろうか?

 それに、考えれば、不自然な点が幾つも浮かび上がのだ。

 そんな、簡単な事は、秤でも分かった。

 そこから、導き出される答えはただ一つ。

「……黒雨君は、僕を貶め入れようとしていた」

 秤の顔は、少し複雑そうだった。

 これも全て、黒雨の策なのか。

 そう思ってるかは、分からないが、秤は、かなりに不安の様子だった。

 ただ、秤は、希望に満ち溢れた、目をしていた。

 何をされても、この希望に満ちた目は、なくならないだろう。

 ただ、その分希望がなくなったその瞬間は、大きく、面白い物になるだろう。



「じゃあ、次は、マラーさんですね」

「私は、単純だよ、神のお告げが聞こえたからだよ」

 本当に単純だな。

「でも、ルーナ以外に神いないんじゃないか?」

「は?居るから私が居るんです!」

「何言ってるんだ?」

 ジョンが、笑いながら言った。

「分からないならいい、強制する気ないから」

 どうやら、強制しない、良いタイプの人らしい。

 楽だな。どこぞ、過激なヴィーガン達とは違う。

「次は、アイシャね、頼んだよ」

 マラーが、隣のアイシャに視線に向けた。

「分かりました、けど、私、大した過去じゃないですよ?」

「みんな、大体そうだから、大丈夫じゃないか?」

 エイダンが、そう言うと、みんな少し苦笑した。

「そうだね」

「そうですか、まあ、じゃあ、話しますね」



 人生は、常につまらない。

 それは、何故か?単純に、刺激が足りないからだ。

 誰かの為に動き、誰かを救うのつまらないし、刺激がない。

 ただ、なんとなく生きていると、ルーナが現れた。

「人生に刺激が欲しい?」

 ルーナは、私に向かって、そう言った。

「誰?警察を呼ぶよ?」

 私は、ルーナを睨んだ。

「私の名前はルーナ、そして、神」

「何を言ってるの?」

 その瞬間、ルーナの背中から、白い羽が現れた。

 そして、その瞬間、消えた。

「こっち」

 声が聞こえた瞬間、ルーナが私の肩を叩いた。

 私は、驚いて、振り返ってすぐに距離を置いた。

「これで分かったかな?」

 私は、抵抗しても無駄だと悟った。

 ただ、楽しかったのもあるかもしれない。

「分かった信じるけど、刺激って今の?」

「いや?これから、一つの動画を見てもらおうと思ってね」

 そう言って、出されたのは、一つのタブレットだった。

 そこに映ったのは、一人の少年だった。



「ああ、これ見えてるか?」

 俺は、カメラを確認して、録画してるか確認する。

 どうやらしているようだ。

「やあ、アイシャ、この動画は、君へのプレゼントだ」

 俺は、カメラの前から、離れて、後ろにあった、車椅子に座ってる男を、カメラに写した。

「よく知っているだろう?君の仕事の上司だ、この男は実に素晴らしい人間だ。これまでの人生で、いろんな努力をしてきた人間だ。

 しかも部下にまで優しい、これ以上にないほどの上司だろう」

「ここはどこなんだ!アイシャが居るのか!アイシャ逃げるんだ!」

「安心しろ、アイシャは居ない、ここにあるのは、お前を苦しめる為だけの道具と、俺の玩具だけだ」

「お前は誰だ!ここはどこだ!」

 俺は、笑いながら、腕を刺した。

「あああ※※※あああ※※ああ※!!」

「痛いだろう?だって、この部屋に、五十日も監禁されてたんだからな!痛みも五十倍だ!更に気絶もしない、覚悟するといい、お前は、ここで苦しむんだ」

 すると、男は歯をガタガタと振るわせた。

「ああああ、離れろ!嫌だ!俺を離せ!俺を解放しろ!」

 男は、必死に叫んだ。

 俺は、男の目隠しを取った。

 そして、男は、自分の体の状態を見た。

「ああああああああああああ、俺の足が!足が!ああああああああ!!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!気付かなかっただろう?きっと、この細くて、もう、肉がないような、腕と同じように、足もきっと動けないだけだと信じていたのだろう?残念だったな?もうねえよ!」

 男は、涙を流して、ひたすらに叫んだ。

「あああああああああああああああああああああああああ!!」

 俺は、さらに、腕めがけて、刀を振ろうとしてる所を見せる。

「や、やだ!やめ、辞めてくれ!」

 男は、震えた声で、そう言って。

 俺は、お構いなしに、刀を振り下ろした。

 そして、斬られた腕は、斬られた椅子と一緒に落ちた。

「あああ※※※あああ※あああああ※※※あああ※※※※!!右腕がああああ!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!もう片方行くぞ!」

「嫌だあああ!お願いします!お願いします!どうか!」

 俺は、当然無視して、もう片方の腕を斬った。

「※※※※あああ※※あああ※ああ※※※※ああああああ※※※※!!どうして!」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 俺は、男を苦しみ様を永遠に見れる気がした。



「ハハハハ」

 気付けば、私は笑っていた。

 そして思った、この人に仕えたいと。

「良い目をしてるね、この男に仕えない?」

「はい、させてください!」

「はは、その続きを見てから決めな」



 俺は、男に注射器を見せた。

「これ、なーんだ?」

「あああ、ああああ」

 男は、何もかも失った様な絶望した顔を見せた。

「おい!聞いてるんだよ!」

「はい!あの、分かりません」

 男は、体を震わせながら、言った。

「そうだ、そうだよな?」

「これは、血を止める効力のある、薬だ」

「え?嫌だ!辞めてくれ!」

 俺は、しっかりと、二の腕部分を掴んで、注射した。

 刺した部分から、血が出てくるが、直ぐに出なくなった。

「ああああああ!!」

「さあ、次は、これだ」

 俺は、笑いながら、注射器を見せた。

「これは、身体中に毒が周り、死ぬまで激痛が走るって物なんだが、打つぞ?」

「ああああ、嫌だ!嫌だ!」

 俺は、注射器を刺した。

「あああ※※※ああああああ※※※※ああああああ※※※※あああ※※あああああああああ※※※※あああああああああ※※※ああああああ※※ああああ※※※ああああ※※※※あああああ※※※ああああああああ※※※※あああああああああああ!!」

 注射した瞬間、叫んだ。叫び続けた。

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」



「これでやらない選択肢は、ないですよ」

「そう、じゃあ、やろうか」

 私は、動画が消え、黒い画面には、希望に満ち溢れたいた私の目があった。

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