第65話
「それで?Aクラスが俺たちになんのようだ?」
「別に?用はないんですけどね、皇子様」
ロベルトはニヤニヤ笑いながら、広場を見渡す。
「おいおい、どうした?」
「何があったんだ?」
「ルクス?大丈夫か?」
「ルクスくん?どうかしたの?」
そうこうしているうちに、Dクラスの生徒たちが何事かと俺たちの周りに集まってきた。
「げっ、ロベルト・シュタイン!?」
「嘘、Aクラスの!?」
「主席合格のロベルト・シュタイン!?どうしてここに…?」
「こ、こいつら……全員Aクラスじゃないか…!」
集まってきたDクラスの生徒たちは、ロベルトとその取り巻きたちを見て驚いている。
どうやら彼らは、生徒たちの間でそこそこ知名度があるようだった。
Dクラスの生徒に口々に名前を呼ばれ、ロベルトが鼻を高くしてますます俺のことを見下ろしてくる。
「ルクス?大丈夫…?」
Aクラスの生徒たちに囲まれている俺を見て、ニーナが心配そうに声をかけてきた。
俺はそんなニーナに、大したことはないと言う意味を込めて首を振った。
「大丈夫だ。どうやらこいつらが敵情視察にきたみたいなんだ」
「敵情視察?はっ、笑わせないでくれよ」
ロベルトが冗談はよしてくれという表情を浮かべる。
「僕たちはAクラスだぞ?この学年で一番優秀な生徒たちの集団なんだ。そんな僕たちがなんで最下層の生徒たちをわざわざ敵情視察なんてしなきゃならないんだ?馬鹿も休み休み言ってくれよ」
「ギャハハッ。本当にその通りだぜ!」
「ロベルトのいう通りだ」
「調子に乗るなよ。Dクラスのくせに」
「お前らクラス対抗戦本番じゃ、手も足も出ずに地面に這いつくばることになるぜ」
「万にひとつもないクラス替えの可能性なんかに賭けないで棄権した方がいいんじゃないか?ははははは」
Aクラスの連中は、そんなことを言いながら互いに笑い合っている。
「「「「…っ」」」」
あからさまに馬鹿にされたDクラスの生徒たちは、悔しげに歯噛みをする。
完全に喧嘩を売っているAクラスの連中を睨みつける生徒もいるが、誰も抗議の声は上げなかった。
悔しい気持ちはあるが、しかし内心では皆現時点で自分たちがAクラスの生徒たちに劣っていることを認めてしまっているのだろう。
「言いたいことはそれだけか」
どうやら大した用事もないようだし、これ以上この連中に付き合っていても時間の無駄だと思った俺は、さっさと会話を終わらせようとする。
「用事がないんなら帰ってほしいんだが。俺たちは訓練で忙しいんだ」
「はっ。訓練、ね。悪いけど、無駄な努力だと断言させてもらうよ」
ロベルトが俺と、それからDクラスの生徒たちを見渡しながらいった。
「君たちと僕らでは立っているステージが違う。どれだけ努力したところで差が縮まることはない。魔法使いの世界において、元々の素地、ポテンシャルがどれだけ大きな意味を持つか、君もよくわかっているだろう?」
「まぁ、そうかもな」
ロベルトのいうことは正しい。
実際、生まれた当初の俺も魔力鑑定の結果から魔法の才なしと断定され、冷遇されてきた。
だが、そこから死に物狂いで努力して次期皇帝の候補の一人にまで上り詰めた。
魔法使いの世界において、生まれ持ったポテンシャルが大きな意味を持つのは理解しているが、しかしそれだけではない。
努力によって才能という壁を越えることは可能なのだ。
「けれど俺たちは勝ちを目指している。やれることはやるつもりだ。お前らになんと言われようがな」
俺がそう言い返すと、ロベルトは少し苛立ったように表情を顰めた。
「ああ。そうかよ」
俺を睨みつけ、敵対心をあらわにする。
「だったら……思い知らせてやるよ。本当の才能の差ってやつを……」
「そうか。こっちも全力でやるから楽しみにしている」
「ふん……必ず吠えずら書くことになるよ、ルクス皇子。色々噂を聞いているけど……僕には勝てないよ。僕は“本物”だからね」
「…」
堂々と自らが“本物”だと言い切るロベルト。
誰からもツッコミは入らない。
冗談だと思ったが、どうやら本人は真剣にそう思っているようだった。
一体どうやったらここまで自信を深められるのかはわからないが、俺は何も言わずに黙っていた。
結局クラス対抗戦での結果が全てなのだ。
今ここでこいつらと言い争うことになんの意味もない。
変に対立を煽ったりせずに、ここはさっさとお帰りいただいた方がいいだろう。
「わかった。本番で白黒つけよう」
「ふん。言われなくとも。行くよ、君たち」
ロベルトが踵を返して歩き出した。
「じゃーな、雑魚ども」
「せいぜい頑張れよ〜」
「悪あがきご苦労さん」
「楽しみにしてるぜ〜。お前らがどんな声で鳴くのか」
「身の程をわきまえさせてやるよ。本番が楽しみだ」
取り巻きたちも、それぞれ捨て台詞を残して、ロベルトに付き従い、立ち去っていく。
「なんだあいつら…」
「相当自惚れてんな…」
「くそ…あんな奴らに負けたくねぇ…」
「感じわるぅ…」
「くっ…何も言い返せなかった…」
「あー、イライラする」
「絶対に勝ちたい…負けたくない…」
Aクラスの連中の背中が見えなくなった後、Dクラスの生徒たちは各々のつぶやきに悔しさを滲ませるのだった。
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