第57話
Dクラスのリーダーの座をかけて俺はクライン・アルレルトと一騎打ちの勝負をすることになった。
別段俺自身はクラスのリーダーにこだわりはないのだが、あそこまでクラインに煽られて引き下がるとクラスメイトたちに意気地なしと思われてしまうかもしれない。
俺に関して悪い噂が広まることは、次期皇帝を目指す者としてなるべくなら避けておきたかったため、俺は渋々クラインとの勝負を受けた。
そして現在。
俺は魔法学校の敷地内にある魔法訓練用の広場で、Dクラスの生徒たちに囲まれてクラインと対峙していた。
「どっちが勝つと思う?」
「る、ルクス皇子じゃないか?」
「クラインが勝つかもしれない…そうなったらDクラスのリーダーはあいつだ…」
「どうなるんだろうな?」
「もし今朝の魔力鑑定の結果が、魔道具の故障なんかじゃなくて本物なら……クラインに勝ち目はないだろうな…」
「でもルクス皇子が本当に伝説級の魔力を持っているとはどうしても思えない……そんな皇子が一時でも無能皇子だなんて呼ばれるだろうか?流石に周りの見る目がなさすぎるとしか…」
「それもここで明らかになるだろ。実技テストで的を破壊して試験官を倒したとか、ラーズ商会のカイザーを三重奏魔法で気絶させたとか、色々噂は聞いても俺はまだルクスの本当の実力を目にしていないんだ…」
「もしいろんな噂が本当ならDクラスに配属されたのも謎だしな……」
俺たちの周囲を取り囲むDクラスの生徒たちは互いにヒソヒソと噂をしながら俺たちのことを見ている。
俺に期待の眼差しを向けるもの。
俺の実力に懐疑的なもの。
見た感じ半々といったところか。
「ルクス頑張って!ルクスなら絶対に勝てるよ!」
ただ一人俺に絶大な信頼をおいてくれているようなのがニーナだ。
俺の勝ちを確信しているかのように落ち着いた表情で俺にエールを送ってくる。
俺はそんな彼女の声援に手をあげて答えてから、改めて十メートルほど先に立っているクラインに向き直った。
「おい、ルクス。準備はいいか?」
勝てるという自信があるのか、ニヤニヤとした余裕の笑みを浮かべていたクラインが俺にそう尋ねてきた。
俺はそんなクラインに頷きを返す。
「ああ、いつでも構わない」
「ククク……このクラスの王は誰かってことを身をもって教えてやるよ」
クラインは少しも負けることなど考慮に入れていないかのようにそういって、それから周りを取り巻いているクラスメイトたちに命令する。
「おい誰か。審判をやれよ。始まりの合図を出せ」
「わ、わかった!俺がやる!」
一人の男子生徒が輪の中から出てきて、俺たちの間にたった。
そして片手を高く振り上げ、俺たちを交互に見る。
「両者構えて……始めっ!!」
腕が振り下ろされ、勝負が始まった。
俺もクラインも、勝負が始まって数秒間の間互いに出方を見ており、動きはなかった。
緊張した数秒間の静寂の後、クラインが煽るようにいってきた。
「おい、ルクス。どうした?来ないのか?」
「そっちこそ、何もしなくていいのか?勝負はもう始まっている」
「はっ。俺が攻撃したらすぐに終わっちまうだろうが。先手は譲ってやるよ、皇子様?」
「それはこっちのセリフだ」
俺は構えもとらず、ただその場に棒立ちになりながらクラインに言った。
「俺が先手を取ったらお前の反撃はない。だから……先手は譲る」
「…っ」
俺の言葉がクラインに火をつけたようだ。
顔がみるみる真っ赤に染まる。
別に煽るつもりはなく単なる事実を告げただけなのだが、クラインを完全に怒らせてしまったようだ。
「後悔すんなよ、無能皇子!」
そう叫んだクラインが、次の瞬間魔法を撃ってきた。
その軌道はどう見ても俺の体を捉えていなかたので、俺はその場から動かなかった。
防御魔法も発動しなかった。
クラインの魔法は俺の足元に着弾し、魔力爆発を起こす。
「うおっ!?」
「速っ!?」
「えっ!?」
「すげぇ!」
「今の魔法か!?」
「なんという発動速度なんだ…」
見物していたクラスメイトたちの間にどよめきが広がる。
皆、クラインの魔法発動の速度に驚愕しているようだった。
「ククク…反応すらできなかったようだな?
これが俺の魔法だ」
クラインがドヤ顔でそんなことを言った。
「魔法名門のアルレルト家の中でも俺の魔法発動速度は歴代最強だ!おいルクス。正直に言えよ?お前今、俺の魔法を目視することすら出来なかったんじゃないか?」
「いや、出来ていたが?」
「嘘をつくな。お前は棒立ちのままで反応すら出来てなかったじゃないか」
「魔法の起動が俺の体を捉えていなかったからな。避ける必要がなかったから動かなかっただけだ」
「はっ。強がるなよ?俺の魔法を認識すら出来ていなかったくせに」
俺は事実を言っただけなのだが、どうやら単なる強がりの嘘だと解釈したらしいクラインが俺をせせら笑う。
「これでわかっただろ?俺の実力が。今回はわざと外してやったが、その気になればお前の体に命中させることもできた。きっと俺が本気になれば、お前は何をされたのか認識すら出来ないうちに魔法を喰らって気絶することになるだろうな。俺が先手を取ればお前は防御魔法を展開すら出来ないまま負ける。だから先手を譲ってやるっていったんだよ」
「…」
クラインが格下に接するかのような態度で、俺を顎でしゃくり攻撃を促す。
「ほら、わかったらさっさと魔法打ってこいよ。一応皇子だからな?魔法一発も打てずに負けましたなんて学校中に広まったら恥だろ?花を持たせてやるよ。お前の魔法を俺に見せてみろ」
「はぁ」
俺はため息を吐いた。
完全に勘違いをしているクラインに口で何を言ってもおそらく信じないだろう。
だったら実際に力を見せた方が早いとそう思った。
「ほら、早くしろよ。魔法を撃ってこいよ。俺の防御魔法に弾き返されるのが怖いのか?」
「…」
「こっちが先に魔法を使ったりはしないぜ?俺は攻撃魔法だけじゃなくて防御魔法の発動速度においても最強だからな。お前の魔法発動を見てからでも十分に防御が間に合っ」
バババァン!!!
「「「…っ!?」」」
「ふぁっ!?」
何やらぺちゃくちゃ喋っていたクラインの足元が爆ぜた。
クラスメイトたちが驚いてのけぞり、クラインの口から素っ頓狂な声が漏れる。
どうやらクラインは俺が三発同時に放った魔弾を認識すら出来なかったようだ。
「い、今何が!?」
「爆発したぞ!?」
「なんだ今の!?」
「まさかルクスの魔法か!?」
「あ、ありえねぇ…速すぎる…」
「に、認識すらできなかった…」
「何も見えなかったぞ…」
「どうなってんだ!?」
クラスメイトたちからどよめきの声が漏れる。
「なな、何が!?」
俺は爆発した自分の足元を見て取り乱してい
るクラインに声をかけた。
「おい、大丈夫か?」
「え…?」
「防御魔法。全然間に合ってなかったぞ?」
「え…?え…?」
「次は当てるからな?しっかりと防御しろよ?」
「ま、まさか…今のはお前の魔法…?」
「それ以外に何がある?」
「…っ!?」
クラインが顔面蒼白で現実を否定するように首を振った。
「いやいや、ありえないだろ…なんだ今の…もし本当にあれが魔法なら……アルレルト家最速の俺より全然…」
「おい、次の攻撃行くぞ」
「…っ!?」
俺は魔法を使用した。
クラインは慌てて防御魔法を展開しようとする。
だが、間に合わなかった。
バァン!!
「ぐわぁああああああ!?!?」
クラインは俺の魔弾(威力調整済み)をまともに喰らって吹っ飛んでいった。
数秒間宙を舞った後、地面に叩きつけられる。
「う、ぐぉおお…」
呻き声を上げながら、倒れているクラインに俺はゆっくりと歩み寄る。
「な、何をした…お前…っ。この俺にっ」
「普通に魔法を発動しただけだが?」
「う、そをつくな…な、何も見えなかった
ぞ…」
「…そうか」
はぁ、とため息をつき、狼狽えるクラインを見下ろしながら俺はいった。
「何をされたのかもわからずに倒されたのはお前の方だったな」
「…っ!?」
クラインは悔しげな表情を浮かべ、必死に立ちあがろうとするが、結局体のダメージが思ったより大きかったのか、そのまま白目をむいて気絶してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます