【第2話】ひより日記

 今日もおはようございまーす! って、ゴミ出しに来ていたご近所さんに元気よく挨拶を済ませて大学へ向かいました。朝ごはんも食べたし、ノートもペンも笑顔も忘れずね。


 セレーネさんが私のこと、陽だまりみたいに温かい笑顔ねって言ってくれたから……忘れないようにいつも唱えて学校に向かっています。


「今日は前髪、時間かかっちゃった」


 ひよりは書きながら朝の登校時間を思い出した。手でセットした髪を解しながら、通り過ぎる自転車や子供たちを横目に昨夜のことを考えていたことを。


 昨夜は、なんだか寝つけなくて日記を開いたけど……あれ以来、余計眠れなかった。


【新店長襲来から 1日目】

 もう、なんて日なの。セレーネさんの本を粗末に扱うし、孫!? 居たっけ。いや、なんでもいい。私はセレーネさんの魔法の書店が続くならそれで……


【新店長襲来から 2日目】

 「具体的な策はあるんだろうな。いくら赤字か知らないくせに、よく言えたもんだ」ですって! 一言も違わず覚えたわよ。けど、なんで顔がセレーネさん似なのよ〜


【新店長襲来から 3日目】

 ……書かなくても察しの通り、この調子で日記は新店長襲来によって穏やかなものから激変しました。


【新店長襲来から 5日目 未記入】


 どうして未記入かって? 今日はバイト終わって帰宅したら書くの……ああ、憂鬱だわ。


 うん、もう今日の日記はちゃんと書くんだから。今日は前髪を手で整えた後、駅のホームで友達の梨乃ちゃんに励ましてもらったんだから。


「あのね、お店を立て直すには何から取りかかれば良いかな」

「それまた随分、大きな話だね。バイト先の……確か魔法の書店だよね?」

「うん……考えなきゃダメなんだけど分かんないんだもん。あれからずっとモヤモヤする〜」

「考えても仕方のないことだって世の中あるわよ、ほら、今日の朝ごはん何だったの?」


 こんな風に励ましてくれる優しい爽やかな友達です。質問に、頭を抱えていた手を思わず下ろして記憶を漁ってたまごサンドかなぁと答えた。


「一番美味しいところは?」

「えっ、うーんパンの外側がこんがりいい感じに焼けたところかな!」


 段々とモヤモヤした頭が、朝食べた美味しいごはんの記憶で温かくなっていく。


「良いアイデアってさ、意外とふとした瞬間に現れるものよ。今は大学で勉強と──サークル! がんばろうね」

「そうだね!」


 梨乃ちゃんのおかげで、今日の日記は書けそう。目の前のこと、ちゃんと向き合ってからって大事だなと気付かされた朝でした。


「店長に負けない! がんばるぞー!!」





──つづく。

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