友人が奥さんをNTRれたけど、一度は赦すと言うので手伝っていたら、不幸の連鎖が止まらないんですけど…

Nyamu

第1話 どこにでも、ありえる始まり

 リンゴーン、リンゴーン、と鐘が鳴っている。


 ウエディングベルの、幸せの鐘の音が。


 あぁそうか、これは友人の結婚式だ。

 身内と懇意にしている間柄だけの、ささやかなもの。


 俺の隣には綾香がいて、友人仲間の剛と、あかりもいる。


 優しい顔で、花嫁の菫さんを待っている新郎の友也は、普段の弱気な姿とは打って変わって、キリッとしている。内心緊張しまくりだろう。


 新郎の元へ向かう新婦の菫さんは、表情をベールで見ることはできなけれど、嬉しそうな雰囲気は伝わってくる。


 カゴに入れた花びらをバージンロードにまきながら、花嫁の前を歩く女の子。


 あとで掃除すんの大変だろうなぁ、なんてアホなこと考えてたけど…。

 あんな女の子、いたっけ?


 それと、向かい側にいる…顔がよく見えない、あの男。


 ゲストで知らない人は、いないはずなのに。

 そいつを見てると、気分が悪くなる…。


 誰だ、あいつ。


 挨拶がてらに近づこうとすると、綾香が俺の腕を掴んで引き止める。

 顔を向けると綾香はなにも言わず、必死に首を横に振り続ける。


 行っちゃダメだと、近づいちゃダメだと、目で訴えてくる。


 大丈夫だって、ちょっと挨拶してくるだけだから…。

 そう言って、その胸糞が悪いやつのところへ行こうと―――――


「響一っ!!! だめーーーーーーーーっ!!!!!」 




 そこで、目が覚めた。


 俺はダブルベッドの上で寝ていて、横では妻の綾香が眠っている…穏やかな寝息を立てながら。


「変な夢だったな。でも懐かしいわ」


 隣で眠る綾香のほほを撫でると、さっきまであった不快な気分もすぐに消えていった。寝よ寝よと軽い欠伸をして、もう一度寝直す。


 結婚式に知り合い以外はいなかったはずなのに…、夢だしな。


 

 *



 その日はいつもと違い、飲むペースも遅く静かな飲み会だった。


 10年来の友人である剛と友也の2人とは毎月一回は集まり、愚痴ったりバカ騒ぎしてストレス発散の場として重宝している。30代になっても友達で居続けられるのは、相性だったり集まれる近い場所に住んでたりと、条件がそろってたのも大きいだろうなと、つくづく思えるようになった。


「それで?」

「それでって…だから、菫が浮気してるかもしれないんだよ」


 いきなりとんでもないことを、友也がぶっこんできやがった。


 菫さんは、俺達の大学から懇意にしてる仲間内の一人だ。

謙虚で誠実を地でいっていて、とても浮気するようには思えないんだが…。

 品の良い女子高育ちで、ちょい気弱そうだったけど、ないわ~。


「友也がそう思う理由はなんよ? 雰囲気とか曖昧なやつじゃなくて、証拠見つけたとかあったん?」


 ホッケの身を骨から綺麗に取りながら、剛が半信半疑で呟く。


「最近帰りが遅かったりは…なくて、休日に頻繁に出かけたりとかもないんだけど。決定的なこれっていうのは、ない…かも」

「ハイ解散~」

「異議なし」

「ちょっと待ってよ、本気で悩んでるんだから聞いてくれよ~」


 泣きべそをかき弱弱しく言う友也の姿に、俺と剛はため息をつき話を継続する。


 友也が言うには、自分の勘違いで笑い話にできそうだったところ、畳み掛けるように気になる点が見つかった。


 以前よりもメイクに時間をかけるようになり、下着も色っぽいものが多くなった。

スマホを気に掛けることも増えて、これはもしや浮気では? と戦々恐々としていて、今日の集まりで相談したかったと。


 ちびちび飲みながら、酔いが少し回った頭で考える。


「結局のところ証拠も何も無く、浮気現場も押さえていないのにそんな感じがするってだけじゃ、俺らもなにもできん。直接聞いて反応見てこい。もしくは浮気調査依頼するかだな」

 

「そうなぁ…後は、あかりか響一んとこの綾香さんに、聞いてみるくらいじゃね?」


 具体案というにはお粗末なものだが、今のところできる事といえば、この程度しかないだろう。


「頼む! 響一、剛、二人にそれとなく聞いて…このままだと夜しか眠れない」


 意外と余裕あるなこいつ。

 そんなこんなで俺は自分の奥さんである綾香に、剛が共通の友人である、あかりに情報収集することになった。



 *



 ―――――結論から言うと、黒だった。  

    

 俺が綾香に聞いたところ、タイミングが良いのか悪いのか、菫さんから浮気の相談を受けていた真っ最中。


 パート先の大学生が彼女に振られて落ち込んでいるのを、菫さんが慰めているうちに大学生のほうが熱をあげ、猛アタックをかけてきたそうだ。


 最初のうちはキッチリと断っていたけれど一緒に働くうちに、互いに手助けし合う心地よさや気遣いに隙ができてしまった…。なんじゃそりゃ。

 

 それでも私には夫がいるからと拒絶したけれど、一度だけ思い出にと頼み込まれ情にほだされ受け入れてしまった? と、泣きながら相談されたのがつい数日前。


 綾香はすぐに友也に言って誤れば許してくれるからと、菫さんを説得したのだけれど、怖いと言って聞き入れなくて説得継続中。


 俺にも相談して欲しかったんだが、

「女性の機微に疎い響一に相談したら、別れろ一直線になるでしょ」と言われ凹んだ。


 剛の方もあかりにそれとなく聞いたところ、「菫まで…」と言って驚いていたそうだ。菫さんの変化には気づいていたが相談などは無く、浮気をしていたことも知らないようだった。


 までってなんだよ…までって。怖いんだけど。

 浮気ってそんなに周りにあるんか、と恐怖を感じる。



 *



「で、だ…どうするよこれ」


 いつもの飲み屋で集まったが、話が話なので店の奥の座敷を借りて、友也に報告をした…のだけれど…。


 今日は情報のすり合わせと知恵を出し合うため、女性陣の意見も欲しかったので俺、友也、剛、それと綾香、あかりを含め5人で集まることにした。


 菫さんを合わせた6人は、大学からの腐れ縁でよく遊んでたっけ。


 浮気がどの程度のものかについておおよそではあるが、性行為は一度だけ(綾香が言うには)。それ以外にデートだったりキスやボディタッチなども、あったらしい…浮気…になるよなぁ。


 料理が並べられたところで大ジョッキ片手に、あかりが口火を切った。


「綾香の証言もあるし、菫を直接問い詰めて友也君がどうしたいかね」


 同意するように綾香は、烏龍茶を飲みながら友也を見てコクコクと頷く。


「菫と別れたくなんてないよ…」

「待て待て、それは最終手段だから。判断はええよ」


 ほっけを綺麗に食べながら剛が友也を止める…剛ほっけ好きすぎだろ、あと箸使い上手いな。


「別れる云々考えるのは一旦止めて、友也が今どう思ってるのか聞かせてくれ。そっからだ」


 俺がそう言うと、友也は俯いて黙り込んでしまった。

短い沈黙の後、うん、と自分を納得させたのか顔を上げ宣告するように、


「僕は菫とちゃんと話がしたい。そして浮気を止めてくれるなら、やり直したい」


 そうハッキリと強い口調で言い切った。

 友也はウジウジしてるのが長い分、覚悟を決めると判断が早い。


「菫に対する怒りもあるし落胆もある。それでも僕から好きになって告白したんだ、一度目の浮気は許すよ。そして次は絶対にないくらい、束縛するし繋ぎとめる」


 真剣な顔をして言う友也に圧倒されて、俺達は何も言えなかった。


「本当にそれでいいのね友也君。菫の友人としては、二人で話し合って欲しかったから、少しほっとしてるけど…」


 綾香も緊張してたのだろう、声音が安堵したように聞こえる。


「うん。ありがとうみんな。わざわざ集まって、相談のってくれて」


「気にすんな友也が決めたんなら、とやかく言わねえよ」「だな」


 友也の方針が決まったその後は、普通の飲み会の様に飲んで食べてお開きとなった。


 ただ、友也が決めたことだとはいえ、浮気は浮気。

 許し許されハイ終わりとなるのか?

 

  誰も触れようとしなかったが…一抹の不安を覚えながら、店を後にした。







悪意はどこにでも忍び寄り

手ぐすね引いて待ち構えてる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る