曙橋ホテル308号室

狩衣 旅兎

第1話 序 

   薄暗い会議室に軽快なリズムを刻むドラムの音がスピーカーから流れ出し、プロジェクターから投射される光線を受け赤一色だったスクリーンに、「曙橋ホテル308号室」白抜きゴシック体文字が表示される。

 スウィングジャズのシング・シング・シングが響く中、トロンボーンとトランペットの音が重なった瞬間、白いスーツに身を包んだ還暦近い男の上半身が大写しになる。2ヶ月前に射殺体で発見された、誠侠会幹部の井出(いで)輝(てる)信(のぶ)だった。いやらしい笑みを浮かべた井出の腕には、白く細い腕が絡みついている。

 軽快なリズムをバックに数秒毎に赤地と井出の姿が交互に表示される。

赤地に「井出輝信」と白抜き文字が中段に表示されてたのち、車に女と乗り込む井出の姿が映し出される。赤地に白抜き文字で「誠侠会」と表示された後は、車から降りて女を抱き寄せ耳打ちする姿が映し出される。赤地に白抜きと井出の写真が交互に映し出され進行していく。倉庫と思しき建物の通用口ドアから井出が入って行く姿が映し出される。次に電灯が灯された小部屋に置かれたパイプ椅子に、だらしなく腰掛けて、他人を見下す笑顔でこちらを見る姿が映し出された。次は映像に切り替わり、音楽の音量が下がる。

「あいつが悪いんだよ」

井出が叫ぶと同時に炸裂音が鳴り響き右腹部に一つ、胸の真ん中に一つ穴が開く。そして三発目が額に穴を開けた。

続いて、長い髪を明るい茶色に染めた、派手な装いの中年女性が大写しになる。先月に管轄内の廃ビルで発見された、身元不明の女性だ。「林(はやし)律子(りつこ)」「スナック経営」に続き住所なのか「東京都○○」と転換する度に、個人情報が表示される。怯えた表情の律子が真っ直ぐこちらを見て、「私は頼まれただけ」と喚いた直後に眉撃たれ、腰掛けていたソファーの座面に倒れ込むと、唐突に映像と音楽が途切れた。




 

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