第37話 王都ミストレア
しばらくして雨が止むと、俺たちは店をしまい再び王都を目指し出発することとなった。再出発後、目的地が異なるラッジとしばらくして別れた。別れ際、ラッジは美味しい甘味とコーヒーを御馳走してくれたお礼にと実家で収穫した果物をくれた。
ラッジから貰った果物は苺のような、はたまたプチトマトような変わった果物ではあったが食べるととても瑞々しく口の中一杯にスッキリとした甘さが広がった。ニナもすっかり機嫌を直してくれたようでライラとも今まで通りすっかり仲直りできたようだった。
そもそも、ライラが王都での昇級試験をニナが受ける事に反対した理由がC級以上の冒険者ともなれば強制的に参加しなくてはならないギルドからの依頼があるためなのだとか。それは俺たちがエゼルバラルで経験したスタンピードや国の一大事となる災害級の魔物への対処を課されることもあるようだ。
たしか冒険者ギルドでは、まだ子供であるニナは一人で討伐依頼を受ける事すら許されていないのにそんな災害級の依頼を受ける事などできるものなのかとも思ったが、どうやら子供冒険者の討伐依頼を認めていないのはエゼルバラル周辺の村や町だけなのだとライラが言っていた。
昔、エゼルバラルのギルドマスターと領主様が「未来ある子供にそんな危ないマネさせるなど言語道断」とギルドの上層部にかけあったため、領主が統治している村や町のギルドだけは子供冒険者に対して制限を設ける事となったようだ。
そんな人格者であった領主も年には勝てずつい最近亡くなったためその後を息子が引き継いだらしいが、どうやらかなりのバカ息子のようでギルドマスターと先代領主がギルドと交渉の末に勝ち取った制限を撤廃しようとしているのだとライラが憤慨していた。
────世界が変わっても世襲政治家というのはろくでもないものだ。
「ますたぁ、ライラちゃん。おっきいお城が見えてきましたですよ!!」
話をしている俺とライラの間にニナが割って入ると正面を指差して言う。どうやら王都に着いたようだ。王都ミストレアは俺が思っていた以上に大きく、人々が暮らす街を見下ろす様に高台にはミストレア城が建てられていた。
そしてミストレア城の正面には城を守るように貴族たちが住んでいる貴族街というものがあるようだ。貴族や王族といった関わると絶対面倒な事になりそうな連中には目を付けられないように気を付けて営業しよう。
「うむ、ここからでも王都の大きさがよくわかるな」
「ハイなのです。すごく大きくてワクワクしますですよ。早く王都に入ってみますですよ!!」
ライラは冒険者として何回も王都には来たことがあるようだが、ニナは俺と同じく初めての王都らしい。だが、俺とニナが王都に対して抱いた感想は実に対照的だったと言わざるを得ないだろう。俺はエゼルバラルの一件もあり、どちらかというとワクワクより不安の方が大きかったのだ。
王都の正門に到着するとさっそく門番による入場審査があるようで数台の豪華な馬車が並んでいた。ここに来るまでこんな豪華な馬車など見たことがなかった。王都に来る者たちはみんな金持ちばかりなのだろうか思い見ていると、少し離れた場所から俺とニナを呼ぶライラの声が聞こえた。
「おーい、ニナそれにマスター殿。我々はこっちから入場するのだ」
「「 え? 」」
いつの間にか豪華な馬車が並んでいる正門にライラの姿はなく、俺とニナが立っている場所から右に少し離れた所で行列に並んでいた。ライラが並んでいる行列の先には門番2人が立っており入場の手続きを行っている。どうやらこちらの東口の門からでも王都へは入れるようだが、正門に比べるとこちらの東門はかなりの大行列を作っていた。
「ライラちゃん、あっちの方が空いていますですよ?」
ニナが正門を指差しライラに尋ねる。するとライラは首を横に振ってニナと俺の疑問に答えてくれた。
「あっちは貴族専用の入口なのだ。なので平民である我々にはあの正門を使う事はできぬのだよ」
なるほど。たしかにあちらに並んでいる豪華な馬車に比べるとこちらの門に並んでいる馬車はかなり質素で待っている人たちも商人や旅人、それに冒険者ばかりのようだ。
────たかだか街に入るだけなのに入場ゲートまで分けられるとは。
それから俺たちは入場審査をうけるため小一時間待たされた。そして案の定、戦神としてその名を世界中に轟かせているライラはあっさりと入場できたのだが、俺とニナはナンダカンダとイチャモンをつけられた挙句持ち物を全て調べられた。
結果、俺たちが王都に入った頃にはもはや見慣れた真っ赤に燃える夕焼けが出ていた。
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