第26話 神の間にて・・・・

 目が覚めるとそこは白い煙が立ち込める見た事もない場所だった。俺は自分が何故こんなところで寝ていたのかわからず思い出そうと記憶を辿った。

    

    ―――――そうだ、俺刺されたたんだ。


ということはここはあの世というやつなのだろうか? それにしては少し寂しい気がする。俺はてっきりあの世なんて所には綺麗な女神様なんてのがいて、そのまわりを羽の生えたキューピー人形みたいなのが飛び回っているもんなのだと思っていたのだ。


    ―――――じゃあここは一体・・・・。



「おお勇者よ、死んでしまうとは情けない!」


 聞き覚えのある声が胡坐をかいて座っている俺の後ろから聞こえてきた。振り向くと、そこにはギリシャ神話に出てくる神のような恰好で右手に杖を持った老人が立っている。


「あ、あの時のジイさん!!」


「ふぉっふぉっふぉっ 久しぶりじゃな! どうじゃ、ワシの世界を楽しんでおるか?」


「まぁ仲間もできたし念願の店もやれてるから悪くはないが、ちょっとジイさんの世界物騒すぎないか??」


「何を言うておる? どの神の世界もあんなもんじゃよ」


「どの神の世界も? ジイさん以外にも神なんてものがいるのか?」


「もちろんじゃ!! お主の故郷の地球にだって神はいるぞ? まぁ地球にいた時のお主は神など信じておらんようだったから地球の神の恩恵をもらえておらんかったようじゃがな」


「神の恩恵? そんなもの貰っている奴なんかいたのか?」


「ああ、おったぞ! 身体能力向上の恩恵を受けた者は各々のスポーツ競技で結果を出し、人を惹きつける能力を手に入れた者は宗教の教祖や政治の世界、また芸能の世界なんかで活躍しておったと地球の神が言っておったわい」


「じゃあ俺は?」


「じゃから、お主は神の恩恵をもらっていないと言うたじゃろう?」


「いや、なんで俺だけ?」


「さぁな。神を信じないお主が気に食わなかったのかもしれんの」


「無神論者なんて他にもいるだろ!?」


「その中でも特にお主が気に食わなかったのではないか?」



ジイさんは説明が面倒臭くなったようで、その場に座り込み右手の人差し指で鼻をほじりながら気だるそうに俺の質問に答えていた。ギリシャ神話に出て来る神の様な恰好で登場した時の威厳などもはやこのジイさんには皆無だった。


「・・・・それで俺は死んだのか?」


「あぁ、死んだようじゃな。人間なれない事はせんことじゃよ」


「・・・・」


「それでお主はどうするつもりじゃ? このままワシとあの世へ行って再び転生を待つか、それとももう一度ワシの世界へ戻るのか好きな方を選べ」


「戻るって生き返るってことか? そんなことできるのか!?」


「ワシ神様。偉いだけじゃなく凄いんじゃよ。お主のいた地球でいうところの『チート持ち』っていうやつじゃ」


さっきまで鼻糞ほじりながらだるそうにしていたジイさんが神なんてニナ達の住む世界の未来が少し心配になったが、俺は生き返って再びあの物騒な世界でコーヒー屋をやることを決意した。


『転生』というものにも興味はあったのだが、転生となると再び地球の日本へと戻され今までの記憶は全て消されてしまうようだ。そのためこれまでの人生で得た知識や技術なんかは当然失いゼロからやり直しとなるとジイさんから聞いた。


ゲームなんかでいう『強くてニューゲーム』は無いとのことだったので、俺は日本に戻りたい気持ちもあったが全てゼロになるうえに地球を管理する神に嫌われているのならば戻る必要もないかと思い再びこの世界でやり直す方を選択することにした。


「うむ、お主ならそう言ってくれると信じておったぞ!!」


「なぁジイさん、アンタの世界には俺以外にも地球から来た奴なんかいたりするのか?」


「おるぞ。彼らもお主同様にワシから与えられたスキルを使い異世界ライフを満喫しておるようじゃ」


「へぇ、一度会ってみたいな。そいつらにはどんなスキルを与えたんだ?」


「いろいろじゃな。魔術の才を与えた者は宮廷魔術師として活躍しておったり錬金術の才を与えた者は日本で得た知識を使ってワシの世界にないものを生み出したりして活躍しておるようじゃ」


「俺もそういうわかりやすいスキルが欲しかったな・・・・」


「ではお主には肉体強化のスキルも渡しておこうかの。また死なれても面倒じゃし」


「肉体強化?」


「この肉体強化があれば今回のように刺された程度で死ぬこともなくなるじゃろ。ちなみにお主、ワシの世界に転移してきてから死ぬまでの地球人最短記録を更新じゃ」


「そんな不名誉な記録更新嬉しくねぇよ」


溜め息を吐いた俺を見て神のジイさんは笑っていた。その後、ジイさんの力で生き返った俺は自分の部屋のベッドの上で目を覚ました。


目を覚ますと俺の体には刺された箇所にゴム状の包帯のようなものが巻かれており少し気持ち悪かった。


ベッドの横にはニナ・ライラ・ヴィエラの3人が上半身を俺が寝ていたベッドにあずける形で眠っており、彼女たちが寝る間も惜しんで夜通し俺を看病してくれていたのだとわかった。


そして、そんな彼女たちをしばらく見ているとライラが目を覚ましガバッと慌てて立ち上がる。


「マ、マスター殿!!」


「おはようございます、ライラさん」


そう言うと俺はすぐに自分の部屋にある窓から外を見たが、外は俺の言葉に反して真っ暗だった。いつもは出ているあのやたら大きい月も今夜は出ておらず獣区にある俺の店以外は灯が確認できなかったのだ。


「・・・・もう夜でしたか。なんにも早くありませんでしたね」


俺が頭をかきながら笑って言うとライラから「大莫迦者だ、マスター殿は」と涙目で言われてしまった。戦神などと呼ばれ基本的に脳筋なライラが涙目で心配してくれたのを見た俺は、申し訳ないという気持ちと共に人間なれない事をすべきではないという思いだった。


「ヴィエラ殿、起きてくれ! マスター殿が目覚めたぞ!! ヴィエラ殿!!!」


俺が刺されて倒れた時、ヴィエラはライラやニナ以上に狼狽していたようで俺を刺した男を殺す勢いで殴り続けていたらしい。


ヴィエラからキツい一撃をもらった男はすぐに硬質化という体を鉄の塊のようにするスキルを使いヴィエラの攻撃を防ごうとしたようだが、そんなものは意にも介さずヴィエラは殴り続けたようだ。


結果、男の硬質化能力ではヴィエラの拳を耐えることはできなかったようで男は顔の形が変わるまでヴィエラに殴られてしまったようだ。


その後、これ以上は男の命が危ないと思ったライラが止めに入り大事には至らなかったようだがヴィエラの取り乱し方は尋常ではなかったようで周りの客はそんなヴィエラにドン引きしていたらしい。


ニナに関しては俺が刺され倒れるのを見た後、俺の名前を呼びながら立ち竦みただただ泣いていたようだ。


兎にも角にもライラだけが冷静でいてくれて助かった。彼女まで取り乱していたら今頃獣区、いやこの村はペンペン草も生えなくなるくらい吹き飛ばされていたかもしれないのだ。


俺は自分の浅はかな行いを反省した。


そして、ライラに起こされ目を覚ましたヴィエラは俺の姿を見て泣きだし俺にコンコンと説教をした。


それから小一時間、店のホールで俺はヴィエラからの説教を受けた。ヴィエラとしてもまだまだ言い足りなかったようだがその日はもう遅い時間だったこともありライラから止められ寝る事となる。


ちなみに、ライラやヴィエラと一緒に俺の看病をしながら寝てしまっていたニナはそのまま起こすことはせず、今日はそのまま俺のベッド寝かせることにして俺はニナの部屋で眠ることとなった。


「ありがとうニナ、おやすみ」


そう言って俺はニナが眠る部屋の明かりを消し出ていった。ベッドに乗せ布団をかけ仰向けに眠っているニナの目からは涙が一滴流れ落ちていた。

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