第21話 異変の噂
翌日。
ペット捜索のクエストを達成した俺は、その足で冒険者ギルドに向かっていた。
昨日の模擬戦の後、俺は筋肉痛がなくなるまで魔物と戦うのは控えようと決めた。
ただ、それでも当然先立つものは必要になってくる。
そこでしばらくの間は薬草採取や、戦闘以外のクエストを受けてお金を稼ごうと考えたのだ。
そう思ってギルドにやってきた俺だったが、なぜかギルド内で冒険者たちがざわついていた。
何かあったのだろうか?
そう疑問に思っていると、冒険者の1人が俺に気付く。
「ユーリか」
「ウォルター」
それは2日前、俺に冒険者のイロハを教えてくれた先輩ウォルターだった。
挨拶を交わしたのち、俺は何があったのか尋ねてみた。
すると、
「何でもここ数日、【デッドリーの大森林】の様子がおかしいらしい」
デッドリーの大森林といえば、俺が初めてスライムを倒した場所だ。
「おかしいって、具体的には?」
「本来は森の奥地に生息しているはずの強力な魔物が姿を見せる頻度が増えているとのことだ。DランクパーティーがCランクの魔物と、CランクパーティーがBランクの魔物と遭遇するようなことがたびたび起きているらしい」
「それってまずいんじゃないか?」
強制的に自分より強い魔物と戦わされることになれば、いつ命を落としてもおかしくないはずだ。
そう思って投げた俺の質問に、ウォルターはコクリと頷く。
「だからこうして騒ぎになっている。聞いた話によると、少なくとも入り口付近での目撃情報はないとのことだったが……もしかしたら先日の一件も、それ絡みの出来事だったのかもしれない」
「……?」
先日の一件? 何かあったっけ?
俺が戦ったスライムは普通に低級モンスターだったから違うだろうし……
心当たりのない言葉に首を傾げる俺に対し、ウォルターは続ける。
「あの時のように倒せるのは稀有な例だ。その証拠に、多くの冒険者たちは傷を負いながら撤退を選択している」
……ふむ。
よく分からないがウォルターも似た状況に遭遇しながら、格上相手の討伐に成功した――という理解でいいだろう。
さすがは熟練の冒険者だ。
俺が改めて尊敬の念を抱いていると、ウォルターが真剣な眼差しをこちらに向けている。
「とにかく、森に足を踏み入れる際は気を付けることだ……もっとも、お前にとってはいらぬ心配かもしれないが」
「そうだな」
ウォルターの話が正しければ、入り口付近に強力な魔物は出てこないとのこと。
森の奥地を探索する予定のない俺には特に関係のない話だろう。
と、その時だった。
再びギルド内がざわざわと賑わい始める。
ただ、その発生源はここではなく扉付近からだった。
「おい、あれってもしかして【晴天の四象】の……」
「ああ、『碧の賢者』様だ」
「それにしても珍しいな、一人なんて。いつもはパーティーメンバーと一緒にしかギルでは見かけないんだが……」
……『碧の賢者』?
どこかで聞き覚えのある単語だなと思いながら視線を向けると、そこにはローブを来た青髪の少女がスタスタと歩いていた。
やっぱりモニカだ。
彼女はまっすぐ俺の方に来る。
「やっほ、ユーリ」
「おはよう、モニカ」
あれ、もう昼だっけ? と思いながらとりあえず挨拶を交わす。
すると、
「おいおい、誰だよアイツ。賢者様と気軽に話してやがるぜ」
「この前来た新人だろ。ほら、魔力がないっていう」
「いったい、どんな関係なんだ……?」
ところどころからそんな会話が聞こえてくる。
さすがSランク冒険者。かなりの有名人みたいだ。
そして、驚いているのは周囲だけはなかった。
「お、おいユーリ。何でお前とモニカがそんな親し気にしてるんだ?」
「ん?」
ウォルターからもそう訊かれてしまう。
何と答えるべきか悩んでいると、モニカは続けてウォルターに視線を向けた。
「おひさ、ウォルター」
「あ、ああ」
どうやら2人も顔見知りらしい。
ということはまさか……
「確かウォルターって新人育成をよくやってるんだったよな? もしかしてモニカにも俺の時のように色々と教えてあげたのか?」
「バカ言うな! コイツらはそもそもの格が違う、この町で活動し始めた時は既にAランクに達していたくらいだからな」
「ふむ」
なら、普通に同じギルドで活動していく中で顔見知りになったってところか。
ぐいっ ぐいっ
そんなことを考えていると、いつの間にかモニカが俺の袖を掴んで何度も引っ張っていた。
「ユーリ、もう約束の時間。アリシアが待ってる」
「そうだな、そろそろ行くか」
「アリシアの名前も出てくるのか。何が何やらだが、まあお前だからな……」
「?」
どうやら俺たちの関係についてウォルターの中で答えが出たらしい。
どういう経緯かは不明だが、納得してくれたようで何よりだ。
その後、俺は改めて依頼達成報告と薬草の換金を行った後、モニカに連れられて【晴天の四象】の
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