第5話 冒険者ギルド


「朝だよ! ほら! 起きなさーい!」


 少し涼しくて、心地のいい朝。

 温かいご飯を食べて、風呂に入って、フカフカのベッドに眠ったことで、朝になっても体はお休み状態を堪能していた。


 起きたくない、このまま夢の住人になりたい。


「ふーん、じゃあ起きない悪い師匠はこーだ!」


「うわっぶ!? ちょっと!」


 顔面に水をかけられた。

 おかげで顔の周りがビチャビチャだ。


「カリーナ、起こすなら普通に起こしてくれよ」


「普通に起こして、起きなかったときの最終手段だよ」


 あー、そういえば俺って朝に弱いタイプだった。

 目覚まし時計が3度鳴っても起きるどころか、夢の中のBGMにしてしまうほどだった。


「そんなことよりも、おはようラインベルトさん」


「ああ、おはよう」


 カリーナとの旅を始めたのが、もうとっくに3年前の出来事だ。


 ちっさくて可愛らしかったカリーナも、身長が伸びて精神的に成長した。

 身の回りを一人でできる真面目で、いい子だ。


 おかげで彼女との旅は、周囲の人間から迫害されることを除けば、いい思い出ばかり。


「今日も美味しそうだね」


「ふふ、愛情をたっぷり込めて作ったからね」


 食卓に並べられた朝ごはんを見て、正直な感想を述べるとカリーナは嬉しそうに言った。


 美人で料理が美味くて、身の回りのことができる。

 彼女と将来結婚する男は幸せものだな。


 どこの馬の骨だが知れん奴に、娘をそう簡単に渡さねーがな。


「カリーナは将来、いいお嫁さんになるな」


「へっ……お、おお、お嫁さんっ! そ、それは、さすがにちょっと気が早いよ、よ、よーさん」


 年頃の子はすぐ照れるな。

 手に持っていたティーポットを落として床が水浸しだ。


「いや、だってカリーナは可愛いし優しいから、大勢の男性からプロポーズを受けるかもしれない。家庭を作って、子供たちに囲まれて。幸せだと思わないか?」


「へっ、私が他の男と……?」


 カリーナは首を傾げて聞いてきたので「そうだけど」と返すと、


「あり得ないよそんなこと! だって、それってつまりラインベルトさんと離れ離れになるっていうことじゃない! なら私は絶対に結婚しない! ずっと、ずーとラインベルトさんといるから!」


 隣の部屋に聞こえてしまうんじゃないかと心配になるほどの大声で宣言するカリーナ。

 尊敬されるのは嬉しいけど、そこまで怒ることなのだろうか?


「この話はこれでお終い。さっ、冷める前にさっさと食べよ!」


「なんか、ごめんなさい」


「まったくだよ……人の気も知らないでっ……」


 謝罪する理由が見当たらなかったが、怒っているようなので、とりあえず頭を下げて謝った。





 ―――――





 ユークリア王国の国境を抜け、隣の国デンケン共和国の西辺境の小さな町。

 町の名前は『ガヘア』魔物の生息が多く、冒険者も多い。


 俺とカリーナが定住したい条件は俺を知らない、かつ学校のある場所だ。

 カリーナはまだ若いので学校に通わせたい、俺の願いだ。


「路銀を稼ぐのが、今日の目的だよね」


「ああ、そうだな。できれば数ヶ月は保ちたい」


 フードを被り、メガネをかける。

 周りから俺が闇魔法使いだと知られないよう変装だ。


 人相の悪さは相変わらずなのですれ違う人から距離を取られるが、今のところバレていない。


「あの、カリーナ。もっと離れて歩いてくれない」


「いやだ」


 それでも注目はされていた。

 カリーナが腕を組んでピッタリくっついてくるからだ。


 発育が良いせいで胸が腕に当たる、それに良い匂いがする。

 本当に13歳なのか疑うほどの色気だ。


 離れようとすると、カリーナが強い力で阻止してくる。

 絶対に逃してくれないらしい。


「あ、着いたね」


 カリーナがそう言い、建物を見上げた。

 そこには冒険者ギルドがあった。

 戦士やら、魔法使いやらが正面の扉を出たり入ったりしていた。


 そう、今日からここが俺とカリーナの仕事場だ。

 カリーナと出会った当初、金に余裕はあったのだが3年経てば底をつく。

 稼がなければならない日がきてしまったのだ。


 だが、俺は冒険者登録をしていない。

 以前しようとしたことはあるが、闇魔法使いだからダメらしい。


 だから冒険者ギルドに登録するのはカリーナだ。

 登録して依頼を受注してもらって、二人でこなす計画である。

 冒険者を手助けしてはいけない決まり事はないからな。


 それに、言い忘れたが。

 カリーナには、かなりの才能がある。


 冒険者ギルドの外にあるベンチに座って、登録手続きをするカリーナを待つ。

 一応、簡単な読み書きができるらしいので一人で行かせた。


 それに、各国を旅している冒険者がいるかもしれない。

 見られでもしたら正体を看破される危険性があるので、残念ながら外で待機だ。


 冒険者にはS、A、B、C、D、E、Fのランクがあり、登録したときに発行される冒険者カードに記されている能力値によってランクが決まる。


「ラインべ……じゃなくて師匠! 登録終わったよー!」


 公共の場で俺の名を呼びそうになり、なんとか師匠と呼んでくれたカリーナがギルドの建物が出てきた。


 発行した冒険者ギルドを手に、嬉しそうにとことこ近づいてくる。


「すごいよ! 見て!」


 と、自慢げにカードを見せつけてきた。

 登録したては通常Fからスタートだが、能力が高ければ稀にCランクになることがある。


 もしやと思い、カリーナから冒険者カードを受け取って確認すると。


「どれどれ…………………えっ」




 名前:カリーナ

 年齢:13

 性別:女


 細かいステータスを読み飛ばしてランクだけを確認して、唖然とする。


 ランク―――A


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