第3話 昼休みの宝探し

 売店で今日はお昼ご飯を調達。

 ご飯と言っても、苺ジャムとマーガリンが塗られた菓子パンと牛乳と紙パックの野菜ジュースを1つずつ。

 カルシウムと野菜からの栄養は大事。

 それに美味しいし、飲み物でお腹がいっぱいになるから、ある意味一石二鳥。

 体重を気にするお年頃なのでね。

 なんて可愛いかどうかは分からない言葉を言った所で。


「はい、お弁当」

「ありがとう」


 おお…彼女の手作り弁当を嬉しそうに受け取る彼氏を発見してしまった。

 良かった、ここが中庭近くの端っこの所で。

 彼氏の目は輝いている。

 彼女は優しく微笑んでいる。

 幸せそうなカップルだ。付き合って浅いな。

 今が楽しくて幸せな時期。

 ここを過ぎると停滞期とやらで、そこを乗り越えると安心するとかなんとか。

 よく分からないけど。

 1年以上付き合っていると、結婚しろと言いたくなる雰囲気を感じ取る。

 これはこれで私としてはエサになり得る材料である。

 よだれは出ないが、目はいつも輝きうっとりすることも。

 柱に隠れて観察する。

 パンを食べて牛乳を飲んで。

 これは…やってることは刑事かよ。

 緑の、あのカーキのジャンパーを着ちゃえば、身なりはそれっぽくなる。

 というのは放っといて。

 美味しそうに食べる彼氏さん。

 彼女も嬉しそうにしている。

 幸せをおすそ分けして貰ったな。

 なんだか癒やされてきた。

 そんなことを思っていると、カシャッと頭に何かが乗っかってきた。


「立ち食い、行儀悪いぞ」

「わたっち、邪魔するな」


 わたっちこと、古泉こいずみわたる君だった。


「頭の上の袋の中は売店のやつ?」

「まあな」


 彼も昼ご飯は売店から調達か。


生見ぬくみ、それだけで腹減らない?」

「野菜ジュースも飲むから大丈夫」

「ふーん」


 通りすがりとはいえ、わたっちよ、友達は?

 私に構っていたら友好関係が破綻してしまうぞ。

 友達を大事にしなさいよ全く。

 わたっちは袋をあさり始めた。

 頭の上で探すな。聞こえないじゃない。

 カップルの会話も貴重な観察の一環なんだから。


「ほれ」

「わっ!」


 眼の前に黒い物体が現れた。


「これ食ってれば腹は鳴らないっしょ」


 わたっちが上から私に渡してきたのは、おにぎり1つ。


「びっくりした」

「ははは」


 わたっちは手を振って去って行った。


「あっ!宝が…」


 昼休みの宝であるカップルも、いつの間にかいなくなっていた。

 ガッカリした気持ちを切り替えるべく、おにぎりを食べることに。

 ラップに包まれている昔ながらの手作りおにぎり。

 コンビニのようにスムーズには開かない。

 ラップが2重3重に重なっていて、シールが貼られてある所を何とかして、ようやく穴が開いた。

 その穴を引っ張るとおにぎりが顔を出した。


「苦戦したぜ…いただきます」


 パクリ、もぐもぐ…。

 また、パクリ、もぐもぐ…。


「わたっち…」


 さらにガッカリした。


「梅派なのにシャケかよ」


 気遣いでくれたおにぎりだからか、あまり食べないシャケが美味しく感じた。

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