人間模様は十人十色〜私の観察物語〜

奏流こころ

第1話 ベタな場面

 私の名前は生見ぬくみ愛未あいみ

 人間観察が大好物である。

 3度の飯より人間観察が大好きなのだ。

 何故かというと、それはもう少し先で話すとして。


 今、とても貴重な場面に遭遇していた。


「付き合って下さい!」


 おお…。愛の告白ではないか。

 チッ…出るに出れない。


 でも…


 こんなシーンを見れるなんて、幸せじゃないか!


 因みにここは体育館の裏。

 ベタなスポットである。

 告白しているのは男子。

 おお…このスポット的に、女子のイメージなんですが。

 男子が告白するとなると屋上のイメージが強いかな。

 あとは、不良が弱々男子をシメる所のイメージもある。

 古すぎか。偏見ですね。ごめんなさい。

 ストレートに伝えているあの男子は勇者だ。

 とても凄いと思うよ。

 汗をたくさんかいているのか、額からボタボタと汗が滴り落ちている。

 一方の女子はというと…。


 ん?引いてないか?


 ドン引きレベルに見える。

 眉間に皺が薄っすらとあるし、それだけ渋い顔だ。

 これはもしや、ヤバいのか。

 様子をこっそりと見守っていると。


「おーい、生見ー」


 後ろから聞き覚えのある男子の声が聞こえた。

 直ぐに振り向き「シーッ!」と言いながら、人差し指を口に当てた。


「えっ?」


 ボサッとした髪の毛、ポカンとした間抜け顔。

 だが、どこか爽やかに見えるのは何故だろう。

 古泉こいずみわたる君。

 彼を“わたっち”と呼んでいる。

 数少ない男子友達なのだ。


「どしたの?」

「あれあれ」

「ん?ほぉ~」


 わたっちはニヤニヤしだした。


「また好きそうな場面に遭遇したね」

「持ってますから」

「他に使えしそれ」


 わたっちはニヤニヤからニコニコに表情を変えた。


「早く女子、答えを…」

「返事まだか、どれどれ」


 2人でこっそりと見守る。

 告白から3分は経過したであろう。

 ようやく女子は動く。


「ごめんなさい!」


 後頭部まで見えるように頭を下げた。

 男子は一瞬だけ固まった後、みるみるショックを受けたとばかりに、魂が抜けそうになっている表情に。


「そ、そっ、か…」

「彼氏いるから…じゃあね!」


 追い打ちの一言を残し、彼女は去った。

 途方に暮れるようにゆっくりと男子も歩き出したのであった。


「振られたね」

「まさかの彼氏持ち女子」

「立ち直れないね」

「調べとけってマジで」


 出るに出られない状況から解放されて、私とわたっちは出た。


「さて、運ぼう」

「体育館に運んでなかったのかよ」

「だってー!」


 たかがバトンを返す為だけに。

 されど、このバトンのおかげで、収穫があったから、私的には良しとしよう。


 こんな感じで、学校やプライベートで探している。

 関わりはないけれど、人間模様を覗きたくて、今日も歩き回っている。


「ほどほどにな」

「ご忠告どうも」

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