第166話 城の異変

時は少し遡り、クロウとサリアがホルムと戦いをしている時、アーシェとノエルは先に城の近くに到着していた。


「城はまだ燃えてないみたいね、けど周りの庭は被害が出始めてる。」

「アーシェリーゼ、君の水魔法で火を消すのはダメかい?」

「やれなくはないけど、今度はその水で町の人たちを危険に晒しかねないわ。火元がわかれば、一点に注げるのだけど。」

「それは、流石に賭けすぎるね、まずは他の爆弾がないか探すところからだね。」


スタタタタッ。

2人はさらに近づくと、


「っ!?そんな。」

「なんでこんなことを、皆さん!大丈夫ですか!」


2人の目に映ったものは、城の兵士と見られるエルフ達が倒れている姿。


体には火傷だけではなく、何かに切られたような傷も。


ズザッ!

2人は急いで倒れてるエルフに近づく。


「ねえ、起きなさい、何が起きたの、ねえ!」


アーシェがエルフの体を触診していく。



しかし、彼の体の魔力は尽きていた。




つまり、死を意味する。




「くそっ、誰がこんなことを、これじゃあ生きてる人は絶望ーー。」

「ノエルランス!魔力が残ってる人を最優先に探しなさい!生きられる可能性がある人を死なせてはダメよ!」

「アーシェリーゼ、分かった!」


諦めかけていたノエルにアーシェが喝を入れ、生存者を探す。



数十人は城の外で倒れている、その中には王女と謁見した際に目にした兵士の姿も。



「お願い、誰でもいいから生きてて、全滅なんてさせない。」


スサーッ。

アーシェは、風に乗る僅かな魔力を感じ取った。


「こっちにいる、生きてる人が!」


ズザッ!

走り出した先には、浅い呼吸をしているエルフが。


「ねえ、あなた聞こえる、ねえ!」


地面に座り、大きな声で呼びかける。


「ぁ、ぁあ、あなた、は、レイヴァー、の。」

「喋らないで、すぐに治療をするわ。 癒せ!回復の霧ヒールミスト!」


シュワーッ。

水魔法が蒸気になり、傷だらけのエルフを包んでいく。


「これ以上悪化しないようにはしたわ、早く医者のところにーー。」

「わたし、は、いい。」

「何言ってるの、私の魔法だけじゃその場しのぎしかならないから、早く治療をーー。」

「王女、さまを、お助け、くだ、さい。わたし、たちの、本当、の、希望は、あの方。」

「あなた、いったい何をーー。」


スッ。

傷だらけのエルフは、力の入らないその手に全てを乗せ、アーシェの頬に触れた。


「お願い、です、アンジュ、王女を、お助け、くだ、さ……。」


スタッ。

ポトンッ。

エルフの手が滑り落ち、地面に置かれる。



残りの魔力を使い切ったことで、死が彼を迎えにきてしまったのだ。



「なんで、なんでそこまでして、王女を……。いや、そこは問題じゃない、私の弱さがあなたを死なせてしまった。」


アーシェの頭の中に、血のホワイトデイの時に両親にクローゼットに隠され、守られた記憶が蘇る。


「くっ!」


ガンッ!

アーシェの苦しみと哀れみの拳が、地面に突き刺さる。


(何をしてるの、私は。何も変わってないじゃない、あの時から何も、父と母を助けるどころか、こんなに近くにある命すら救えない、私は、弱い。)


「アーシェリーゼ!」


タタタタタッ。

ノエルは地面に座り込むアーシェの元に駆け寄る。


「大丈夫かい?アーシェリーゼ。」

「くっ。」


ノエルの目にも、他のエルフとは違う、何かを託したような顔で生き絶えている目の前のエルフ姿が映る。


(まさか、アーシェリーゼはこのエルフの死を目の前で。)


スッ。

ノエルはアーシェリーゼに手を差し伸べ、



「立つんだ!アーシェリーゼ!」

「でも、私はーー。」

「君が今何を考えてるのか、僕には少し分かってしまう。けど、君はやれることを全力でしたはずだ。だから、

「……ノエルランス。」

「これが僕が言える唯一のことだよ、だから、1


アーシェに声をかけるノエルの顔は、今までに見た中で1番真剣で勇気を付けさせてくれるものだった。


「……そうね、進みましょう、この人から託されたアンジュ王女を絶対死なせない。」

「ああ、急いで城に入ろう。」


スタタタタッ。

2人は入城する。


やはり、城の中もぐちゃぐちゃに壊されており、辺りに兵士の死体と飛び散った血痕が。


明らかに、鋭いもので切られた跡である。



「ここも手遅れか、いったい何がこんなことを。」

「このタイミングで行動を起こした、私たちに深く入り込まれるのを恐れたと考えるほうがいいわね。」

「だとしたら、やはりメイリンが怪しいね。アーシェリーゼが聞いた、王女を助けてほしいって言葉からすると、王女もこの事件の被害者。」

「ええ、とにかくまずは彼女を捕まえて話を聞きましょうーー。」


ズンッ!

2人を一瞬にして大きなプレッシャーが襲う。


「なんだ、この感覚は?」

「モンスター……だけど、何か違う。こっちよ!」


スタタタタッ。

さらに奥に進むと、



「メェェ!」


そこには、真っ白な毛並みに大きな2本の角と尖った爪を持つ二足歩行の羊型のモンスターが。

全長6mはあるだろう。


「なに、あのモンスター、二足歩行の羊型モンスターなんて聞いたことがないわ。」

「今は戸惑ってる場合じゃない、嫌な予感しかしない今、あいつを倒すことだけを考えよう!」

「分かってるわ、前衛は任せるわよ!」

「了解した!」


ズザッ!

今まで見たことのないモンスターとの戦いの火蓋が、切って落とされた。

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