第16話 意見の対立、レイヴンズ
スーッ。
優しい静かな風が、洞窟の中を流れる。
キラーアントとの戦いは終わりを迎えたのだ。
「た、助かった、のか。」
スタッ。
地面に倒れた男たちが、肩や腹を押さえながら起き上がる。
「まあ、とりあえずモンスターは倒したわ。」
「おおっ、強いんだな、あんたら。助かったぜーー。」
「助かった??何を言ってるの。私はそんなつもりはないわ。」
「ひぃ!」
ギリッ。
アーシェの獅子のような鋭い睨みが、男たちを震え上がらせる。
「そ、そんな、待ってくれよ。あのモンスターに俺たちも殺されそうになったんだ、報酬なら渡すからよ!」
「そのお金は、どうやって稼いだもの?」
「っ!?……そ、それは。」
アーシェは気付いていた。
男達は、エデッサの町からこの世界では万能かつ高級食材にも入りうるブロンコリーを奪い、それを売ることで懐を肥やしていたことに。
「そ、それは、お、俺たちも冒険者だ!クエストで稼いだお金もある!」
「あなた達の持つ大半のお金は、エデッサの人たちが必死に手間暇をかけて作った野菜を強奪して手に入れた、そこにあってはいけないものだわ。けれど、そこに存在してしまっている、見過ごすことはできないわ。」
「わ、分かった!金は返す、だから見逃してくれよ!」
「それで解決すると思う?それだけで、奪われた人たちの傷が癒えると思う?」
スッ。
ボァァ。
アーシェは手のひらに静かに炎を集め始める。
「ひぃ!ま、待ってくれ!こいつが、こいつが言ったんだ!楽に稼げる方法があるから手を貸せって!」
1人の男が土魔法使いを指差す。
「お、俺だけじゃない!こいつらもそうだ!むしろ、俺は被害者だ!こいつらからいい方法を考えついたって誘われてーー。」
「何言ってやがる!俺は悪くねえ!お前が勝手にーー。」
「黙りなさい!!」
キィーンッ。
アーシェの怒号が洞窟に響き渡る。
「ふざけるのも大概にしなさい、1番の被害者はエデッサの人達、あなた達は人族という同胞を傷つけた犯罪者、裁かれるのはあなた達よ。」
ボァァ!!
さらに手のひらで火力が増されていく。
アーシェの感情が昂ることで、さらに大きくなっているようだ。
「ここで罪を償いなさい、人の人生を踏み躙ることがどれだけ卑劣なことか!」
「ひぃ!!」
ボァァ!!!!!
手のひらから炎が放たれる寸前。
「ファイアーショ……」
「待て、アーシア。」
「……は?」
ズザッ。
先程まで何も話さなかったクロウが突然動き出し、アーシェの目の前に立つ。
「クロウ、何をしているの?あなたが燃やされたいの?」
「こいつらを殺すな、さっき言ったはずだろ。」
「……確かにそうね、けど、この人達がエデッサの人達を傷つけていたのは事実よ、それを見逃すつもり?」
「こいつらは、許されないことをしたのは俺も分かってる。けど、死んじまったら、こいつらの人生はここで終わる、償うことすらできなくなる。」
ギッ!
さらにアーシェの目が鋭くなる。
その眼光で、誰かを失神させられるほど。
「あなた、とんだ平和ボケしたバカね。こいつらを生かしておいて、何か生まれる?罪を償わさせて、変わると思う?」
「変われるかどうかはこいつら次第だ。俺たちは、この世界に生きるただの人、こいつらの命を奪う権利なんてない。」
「この人たちが外に出て、また同じことを繰り返したらどうやって責任取るつもり?犯罪者ってのは、2度3度と、同じ罪を繰り返すものなのよ。」
「それはお前の考えだろ。アーシア、こいつらにチャンスを与えてやらないか?俺が、こいつらが同じ罪を犯さないように、今から教え込む。俺にチャンスをくれないか?」
ボァァ!!!!!
火の勢いは止まることを知らない。
「……クロウ、後悔しても知らないわよ。あなたは多分、優しい存在。……けれど、その優しさは時にあなた自身に牙を向くことがある。頭に刻み込んだ?」
「分かってる、お前も優しいな。」
「……っ!?そ、そんなんじゃないわ。早くしなさい。」
ジュワッ。
スタッ、スタッ、スタッ。
炎を打ち消し、アーシェは洞窟の外に向かう。
その顔は、少し赤く火照っていた。
「ふぅ、じゃあお前ら、俺はお前達を許したわけじゃない。この先生きるチャンスを与えるだけだ。お前達が犯した罪は、エデッサに全て伝える。そこから先、どう生きるかはお前達次第だ。」
「あ、ああ、分かった、罪を償うよ。」
「その言葉、一瞬たりとも忘れるんじゃねえぞ。誰かを傷つけることは、必ず自分に返ってくる。結局、痛いのはお前自身なんだ。ここ、重要、上書きしたか?」
「……分かった、悪かったよ。俺たちは、あんた達がいなかったら償うチャンスもなくあのモンスターに殺されてた。ありがとう。」
スタッ、スタッ、スタッ。
男達6人も洞窟の外に出る。
「さあて、俺も出るか。」
タッ、タッ、タッ。
クロウが洞窟の入り口に向かうと、
「終わったかしら?あなたの指導ってやつは。」
「ああ、俺はあいつらを信じる。ありがとうな、アーシア。」
「ふんっ、けど、なんでそんなに生死にこだわるの?あなた、どうしてあいつらを救おうとしてたわけ、何か理由があるの?」
「うん、まあ、な。」
スタッ。
アーシェの前を通り過ぎようとすると、
ガシッ。
右手を強めの力で引っ張られる。
「嫌なら構わないけど、できるなら教えて欲しいの。クロウは魔法を使わない……使えないって言ってた、それにあの命へのこだわりはなに?」
「……まあ、アーシアに話す分にはいいか。」
クルッ。
体をアーシェに向き直す。
「俺はさ、オールドタイプなんだ。」
「っ!?オールドタイプ!?そんな、生きてる人がいるなんて。……それが本当なら、その生死へのこだわり、クロウ、あなたってーー。」
「そうだ。俺は、オールドタイプでもありレイヴンズの生き残りだ。」
ギリッ。
アーシェの手に血が滲むほどの力が籠る。
オールドタイプ、そして、レイヴンズ。
そして、前魔王の娘。
そこにはいったい、どんな関係があるのか。
第3章 完
◆◆◆お礼・お願い◆◆◆
第3章まで読んで頂きありがとうございました。
2人の共闘を見て頂きました!
見事に勝利を収め、意見の対立があるもわかり合った2人。
そして、レイヴンズとは?
クロウのことが少しわかるかも!?
そして、更なる戦いも……。
2人とも応援してるぞ!
と思ってくださいましたら、
ぜひ、レビューの記載
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ここまで読んで頂きありがとうございます!今後とも宜しくお願いいたします!
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