15.立ち寄った辺境の親切な村

 聖女となった神官の合流は叶わない。この時点で、ゼルクとエイベルは治癒や回復の手段を失った。治癒は魔法使いとは別系統の力だ。神により選ばれた者の振るう魔法だった。


 アイシラが無理なら、別の神官を派遣してくれ。当然の要請に、神殿はのらりくらりと逃げた。曰く、派遣に応じられる神官がいない、聖女アイシラより優れた治癒魔法が提供できない。同じ返答ばかりの神殿に見切りをつけ、ゼルク達は旅立った。


 魔王討伐で一緒になった仲間はまだいる。地方領主となった剣士、実家の家業を継ぐため戻った薬師、商人として隊の補給を支えた青年。彼らはそれぞれに成功していた。剣士は立派に実家を盛り立てているし、薬師は王宮に呼ばれるほどの実力者だ。大規模な商家を興した青年も、きっと協力してくれるだろう。


 集まった兵は各地の領主預かりとなり、勇者の戦力として使えない。国王が敵に回った疑いがあるため、彼らを当てにできなかった。それに呪文めいた歌を聴いていたら、寝返る可能性も高い。


 こっそりと領主の屋敷を抜け出した二人は、森の中で王都への道を相談し始めた。一番端の部屋だったため、抜け出るのは簡単だった。街道を通れば目撃されるし、危険度も高い。あれこれと悩んだ結果、森を突っ切ることにした。


 目の前の森はかつて獣人が住んでいたが、数十年前から開拓者が入っている。小さな集落なら、街と違い歌も聴いていないだろう。途中で数匹のウサギを仕留め、最悪は野宿も視野に入れて進んだ。


 森深い位置で、人が歩いて出来た細い道を見つけた。獣道に近く、舗装されていない。辿っていくと、村が現れた。辺境の集落としては大きい方だ。数十人がいる。近づき、声をかけた。


 普段は人が訪れない村だからか、警戒心が強かった。子どもは家に隠され、近づかないよう言われる。それでも宿を提供してくれた。食事用にとウサギを差し入れると、煮込まれて出てくる。シチューの肉は柔らかく、狭い小屋だが領主邸より落ち着いた。


 二日ほど滞在した間に、子どもや女性と触れ合う機会はない。吟遊詩人どころか、行商すら滅多に来ないらしい。男達は外の話を聞きたがった。いくつか武勇伝を披露し、手を振って村を後にする。


「いい村だったな」


「もう一度訪れたいが、道に迷いそうだね」


 エイベルと雑談しながら、ゼルクは一瞬だけ疑問を持った。浮かんだそれを否定する。行商人すら訪れない山奥だから、魔族の攻撃を受けずに済んだ。運が良かったし、偶然だと。用心深いだけで、村人に害意はなかった。言い聞かせるように己を騙した。







「びっくりした」


「本当だ、事前に情報がなければ襲うところだったぞ」


 こんな辺鄙なところに、村が残っているわけがない。人族の気配を探ったのは獣人達で、その鼻は狼や熊、野生動物の鋭さを備えていた。人の住む集落を見落とすはずがないのだ。


 特徴を隠す獣人達は、勇者の気配が遠ざかるのを待った。ようやく子ども達を外に出せる。獣人は子どもの頃の方が、本来の獣の姿に近い。中にはそっくり獣化して生まれる子もいるほどだ。


 うっかり尻尾や耳でバレないよう、閉鎖的な村という言い訳で女子供を隠した。勇者が持ち込んだウサギは、森の獣に与えた。敵の狩った獲物は受け取らないのが、獣人達の掟だ。勇者達に調理して出すのも、受け取ったうちに入る。彼らは掟を守り通した。


 口の中でほろほろ溶ける肉は何の肉だったのか。それは誰も口にしない。獣人達は頬を緩めて、安堵の表情を見せた。






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本年もお世話になりました。

ぜひ年末年始休みに、こちらの作品をお楽しみください♪ 電子書籍なので、即日読めます☆⌒(*ゝω・`)ニコッ♪

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来年もよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。

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