第2話
「思ったより速くないや...。0も劣化したね」
「お前...施設の人間だな。」
いつのまにかマスターはいなくなっていた。一触即発の雰囲気を感じたのか、はたまたトイレに行きたかったのか。バーの中には俺と青年の2人のみ。シャンデリアの光が店内を優しく照らしている。
ボーンという柱時計の音が開戦の合図だった。
青年は瞬時に腰から拳銃を取り出して、俺に向かってパン、と乾いた音を響かせる。俺は首を振って弾丸を避けると背後にあった円卓を破壊して青年に投げる。
青年は円卓に当たるかと思いきや跳ねて円卓の上部を蹴り、空中で俺に二、三発発砲する。円卓の上にあったお盆で銃弾を受けると、一度体制を立て直す。
「弾丸を見て避けるとか...あんた人間か?」
「さあな。」
青年は俺に銃口を向け続けている。
俺は大きく一歩踏み込むと、すぐに発射された弾丸を躱して銃身を横へ蹴る。
そしてすぐさま顎を狙うが、これは避けられてしまう。青年は反撃を開始し、俺の顔を狙ってフック、ジャブ、ストレートと打ち込むが軽くいなす。
おそらくこいつは戦闘経験が浅い。施設を最近卒業して政府に雇われ、二、三回目の任務と言ったところか。
しかしパンチを捌き続けてもいつのまにかカウンターが背に当たる。少しずつ押されていた。
カウンターにはウィスキーを入れるガラスのコップ、果物ナイフ、りんごが置いてある。りんごをつまみにウィスキーを飲んでいたのか。
「今だ!やれ!」
青年が叫ぶと背後から何者かが出てきて俺の首にアイスピックを振るった―――振おうとした。
すでに俺の左腕は果物ナイフで背後の人物の左胸を冷酷に貫いていた。
背後に誰かいるのは気づいていたが。
マスターだった。
青年とグルだったのか。
「ゴッ...ぐっ...う...」
「...マスター。あんたが作る酒、好きだったのにな。」
青年は「お前...」と呟くと感情を露わにして叫ぶ。
「お前!よくも!」
「なんで俺が悪いみたいになってんだ。」
カウンターにあるりんごを一つ摘んで口に入れると、優しい甘さが広がる。
そろそろ家に帰って寝たい。
家にウィスキーはあったっけか。
「最後に教えといてやるよ...この世界では感情を表に出したやつから死んでいく。そうだろ。」
俺はカウンターにあったグラスを真横に投げて銃で撃ち抜く。そして青年の意識が一瞬横にそれた瞬間、青年の真上にあるシャンデリアを撃ち抜いた。
落ちていくシャンデリア《それ》は宝石のように綺麗で、床に落ちて割れるまでのひと時に一層輝きを強くした。
● ○ ●
「おい、なんで俺を襲った。」
俺は丸腰の青年に優しく問いかける。青年の体を弄り武器らしきものは全て取り上げたので、心配はなかった。
「...。」
パン。
黙っているので心配になって、頭の横数センチのところに銃弾を打ち込んでみる。
青年は驚き一度椅子から跳ねたが、すぐにまた先ほどのような無表情に戻った。
「チッ。」
目を見てわかった。
こいつは吐かない。
施設でたっぷり拷問の訓練を受けているだろう。俺に雑魚のこいつを差し向けたのも重視されているのが強さよりも「情報の漏らさなさ」だからだろうか。仮に捕まっても絶対に情報を漏らさないようするためだ。多分。
「もういいよ、お前。掃除して帰れ。あ、無傷の酒はこのテーブルに集めろ。持って帰る。」
青年は先ほど壁に発砲した時よりも驚きを露わにし、ポロリとつぶやきを漏らした。
「...殺さないのか。」
「無駄な殺しはしない。俺が人を殺すのは依頼があったときと殺されそうになったときだ。」
青年はしばらく黙って掃除をした。俺も黙ってりんごを食いながらそれを見ていた。
青年が迷いを振り切って俺に声をかけたのは店内がもうほとんど元通りになった頃で、俺は大きなあくびを堪えて酒が集まるのを待っていた。
「あんた、酒を飲むのは諦めろ。」
「なんだ、全部賞味期限切れか?」
「違う。あんたは家まで無事に帰れない。」
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