第2章 リプレイ・ボックス

第1話 調査2日目

 期待、というほどではないけど。


 それでもミルダは、アルフェルノアがやることにわくわくしていたのだ。

 あの教室での退屈とは違う、真新しい何かに。

 だからもちろん、翌日の調査にも参加するつもりでいた。


 ……まあ、今思えば明確にその約束をしたわけではない。

 けど「また明日ね!」って言って別れたし、文脈でわかるだろ、とも思う。

 まわりくどい言い方になってしまったが、とにかく翌日、何があったかというと。






「ひどくない? ぼくだけ置いてけぼりなんて」



 朝のホームルームが始まったばかりの教室で。

 ミルダはふてくされた顔のまま、窓際の席で頬杖をついていた。

 ラベンダー色の瞳は一応教壇に向けられていたが、声は後ろの席のクヴェンにあてたものだ。


 時折、苛立った片足が振り子のように何度もくうを蹴る。その様子にクヴェンは苦笑すると、ちらりと廊下側に目を向けた。



「ほんとにそうか? まーいないっちゃいないけど」



 ミルダの言葉を裏付けるように、アルフェルノアの席はホームルームが始まってもからだった。

 遅刻じゃね?とは口にするものの、多分そうじゃないだろうなとクヴェンも思う。

 これまでアルフェルノアが教室に遅刻してくることはなかったし、しかも彼は昨日、調査のために自習中の教室を抜け出してみせたくらいだ。それを考えるなら今頃。



「ぜったい朝から調査してるんだって。あーもーむかつくー!!」

「静かにしろって!」



 ぎろりとにらむ担任にクヴェンは愛想笑いを返すと、机の上に置きっぱなしにしていたノートを引き寄せぱらぱらとめくる。

 そこにはクヴェンが普段取り扱っている怪しい——いや、本人はあくまでも優良品という触れ込みでやってるが。ともかく、そんな魔法の品に関する情報がずらりと書き込まれていた。

 効能の部分を中心に、ざっと目を通す。



「置いてかれた、ね。けど人探しの道具は売ってないんだよなー」


「いい。どこに行ったかわかるから」


「そうなのか?」



 その時、ホームルームの終わりを告げる鐘が鳴った。教師の退室に合わせ、クラス中が一斉に動き出す。

 そのなかでミルダはパッと立ち上がると、スカートをひるがえしクヴェンに向き直った。

 軌道をなぞるように、向日葵ひまわりから秋桜コスモス色へと移り変わる2本のおさげが宙に弧を描いて揺れる。



「ぼく、この後体調不良で休むから。先生に言っといて」

「へいへい。困ったらすぐに言えよ? いつでも力になるからさ」

「売りたいって欲が透けてみえなきゃなー。じゃーよろしく」



 そう言うと、ミルダはすぐに教室を後にする。

 引き扉を開けると、廊下はそこそこ混み合っていた。錬金室に向かう一団の横をすり抜けながら、ミルダの足は迷いもせず力強く進む。


 行先は、昨日調査した校舎の外壁でも、魔法薬学保管庫に続く廊下でもない。

 向かったのは。




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