第20話 買い取りと相談




「亜竜の死体ねぇ〜、それらしきものが見えないのはソロンのあれ?」

「えぇ、貴方が羨ましがっていたあれです。ちなみに何度も言いますが、空間魔法は教えませんよ。適正云々の前に扱い方によっては危険となるので、法皇様との協議の結果、禁止することが決定されたんです。国家間のパワーバランスを崩壊させる羽目になりますからね。あぁ、法皇様の許可も貰えれば良いですよ。貰えればですが。」


 応接間に辿り着いた後もこうしてソロン達は言葉と言葉の応酬をしていた。ソロンの方が圧倒的に上ではあるが・・・・・・。


「はいはい、その話はもうお開きにしましょう。それでソロン、貴方がここに直接来たのはこんなことをするためではないでしょう?」

「えぇ、まぁ、そうですね。」


 シエルから言われ、ようやく本題に入れる。


「この亜竜、人為的に現れた可能性があります。」


 ソロンとシエル、そしてエルフィー以外の全員が固まった。


「その見解に対する理由は?」

「大きく分けて三つあります。一つ目は。二つ目は通常の個体より力があること。そして、三つ目にして最大の理由がことです。」

「それは本当か!」


 勢いよくエルフィーは立ち上がり、ソロンに詰め寄った。


「えぇ、本当です。この場で名前は出せませんが、いと高き御方の瞳により視た結果、はっきりと浮かび上がりました。その瞳でなければ、覚醒した魔力視が出来る眼を使わないと無理ですね。私の鑑定眼ですら薄っすらとしか視ることが出来なかったので、・・・・・・こう言えば分かりますね?」

「えぇ、貴方の持つ鑑定眼を使っても見落とし易いくらい薄っすらとしか浮かび上がらず、かの瞳を用いる羽目になった、と。そこまでの技量を持つ者となると特定が難しいわね。」


 悩ましそうに頭を抱えるエルフィー。現在進行形で犯人を推理しているソロン。その様子を微笑ましく眺めるシエル。そして、彼等が話す内容についていけない同行者。


「まぁ、とにかく、現時点では騎士団を動かすように頼む方針ですが、恐らく貴方方宮廷魔導師達にも依頼をする可能性があります。それだけは念頭に入れておいて下さい。では、私達はこれで失礼します。あぁ、ちゃんと亜竜の死体これを適正価格で買い取って下さいね?シエル様の教育材料費と国庫に納める費用、それから私の研究及び開発費用にするので。」


 これ以上長話をしているとマズイような感じがしたので、ソロンは若干強引気味に終わらせた。もちろん、表向きの予定である亜竜の買い取りを忘れずに。


「あれ?入学費用にはしないのかい?」

「それはすでに用意できています。伊達や酔狂で研究室を持っているわけではないですよ。それに日々のお小遣い集めのためにここには顔を出していましたし。」


 この内容にみんなはギョッとした。


「もしかして、よく出掛けていたのは・・・・・・」

「えぇ、シエル様も含めた学費稼ぎです。そこそこ溜まっておりますので、最低でも数年間は国庫の中身を使わずとも学び続けることが余裕で出来ますよ。私の持っている研究費用などを足せば、数十人を中等部卒業までなら払うことが出来ます。」


 言外に『なので、平民であってもある程度の人数なら一緒に学び続けさせられますよ』と主にメアリーとアリアに向けて告げた。アリアは言外に告げられた言葉に気付いたのか、『ありがとうございます』と声に出さず、口を動かして伝えた。


「ちなみにソロン、君はいつになったら昇級試験を受けてくれるのかな?いい加減、本部の方からの抗議が鬱陶しくなってきたんだけど??」

「はて、・・・・・・もしや、法皇様が何か言ってきましたか?それでしたら申し訳ございません。エルサレム法皇国、法皇ローズ様に代わり、私から謝罪します。」

「あはは、もうソロンさんが何を言っても驚かないわ。」


 メアリーは呆れながらそう言った。法皇ローズと関わり合いがある者は絶大な権力を持てるのに、それを平然と大した事が無いかのように言っているからだ。


「ソロンく~ん、興味本位で聞くけどさ~。ローズ様とは結構仲がよろしいみたいだけど、どうなの~?」


 突然、エルフィがそんな爆弾発言をニヤニヤ顔で言ってきた。

 会話の内容はまだいい。だが、時と場所、主に聞いている人物のことを考えてほしい。何故なら、


「ふ~ん、たしかに貴方のあるじとして知りたいわね~。」


 黒いオーラを放ちながら、シエルはそう言ってきた。


 『本当に勘弁してほしい』

 正直、そう言いたいくらい面倒で厄介な事態なのだ。


「シエル様、その問いに答える前に一つだけ申し上げてもよろしいでしょうか?」

「何かしら?ソロン」

「そんなにオドを放出していると、魔力不足ガス欠になりますよ。」


 しばらく無言が続いた。そして、


「きゅ~。」・・・・・・バタン

「ほら、言わんこっちゃない・・・・・・。いくら、保有魔力量が多いからと言って、あの魔法を放った後では通常の王侯貴族並みの魔力量しか残らないと口酸っぱく忠告したはずなんですが・・・・・・。ハァ~、これは後でお仕置きですね。」


 『お仕置き』というフレーズを聞くと変なことを想像しそうだが、ソロンのやるお仕置きは想像以上に酷い。何故なら、常に魔力不足ガス欠状態にして、魔法を放たせ、限界が来たらもの凄く苦いが効果はある回復薬ポーションを使用して回復する。これをただひたすらに繰り返すというものだ。


「う~、あれは稀に死ぬことがあると言われているのに続けるよね。貴方はあるじがどうなっても構わないとでもいうのかしら?」

「ご安心を、シエル様。私にとって貴方様のことは最優先事項。なので、私が見える範囲内にいるうちは決して死なせはしませんし、貴方様の願いはあらゆる手段をを使用してなるべく叶えますよ。」


 ソロンは当然のことだと言うかのようにそう宣言した。


「ならば、通常の指導をもっと厳しくしてくれないかしら?」

「・・・・・・それは皇帝陛下に直訴しなければ難しいです。」


 しかし、ソロンでも叶えることが無理なものもある。皇族の指導要領や難易度などは皇帝陛下やその専属使用人が確認し、実施する許可をもらわなければならない。

 なので、シエルが今言った望みは叶えにくいのである。ただでさえ、通常の教育よりも厳しいのに、更に厳しくすれば、絶対に睨まれる可能性がある。かと言って、主人の願いを躊躇いなく否定することも出来ない。


「・・・・・・ケチ。」

「何と言われましても、こればかりは皇帝陛下の勅命ですので、難しいです。」


 だから、この言葉しか発せられない。





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