第16話 入学試験〜実技一次試験〜④
アリアとメアリーは自分の目を疑い、唖然とした。何故なら視界を覆い尽くすほどの炎の塊が握りこぶしほどの小さな黒い球体に吸い込まれるからだ。
「その球体は何なの?魔法・・・・・・、いや、詠唱がなかったから魔術?でもそんな魔術なんて知らない。」
「・・・・・・違う。あれは恐らく魔法だと思う。」
無理はないだろう。これは確かに魔術ではなく魔法だ。それも初級魔法を土台に発展・開発した魔法だ。その名を【生活魔法】という。今のはその生活魔法の一つ、【吸収転化】というものだ。その名の通り、周りのものを吸収し、吸収したものを自分の
「正解です。これは生活魔法と呼ばれる魔法の一つです。初級魔法を主に土台としておりますので、無詠唱でも使えるのが大きな利点となります。これの名は【吸収】と言い、吸収のみに特化した魔法となります。」
いくつかの内容が抜けているだけで嘘は言っていない。それに初級魔法程度であれば、ソロンは無詠唱で行使することが出来る。
「それでは、私は
またしても彼女達は唖然とした。何故なら、
「貴方、正気なの?あの大型の亜竜を相手にする気??いくらあの吸い込む魔法があっても攻撃はできないじゃない!!」
「そ、そうですよ!むしろ、ここは大人達に任せて避難した方が良いのではないでしょうか?」
真っ当な意見だ。実力者揃いである学園の試験官達に任せて避難するという考えが普通だろう。普通であればだが。しかし、
「あの場にはシエル様もいらっしゃいますので、私はあの場に駆けつけなければならないのですよ。シエル様にはとっておきの魔法がありますが、それは制御にかなり時間を要する魔法でして。要は時間稼ぎということです。あぁ、今の私では倒すことはできませんが、時間稼ぎであれば十分可能ですよ。」
数十秒もソロンは彼女達の回答を待った。そして、
「では、私達も見学することは可能ですか?」
返ってきた答えは参戦でも避難でもなく、戦闘の見学だった。
「見学する理由と場所をお聞きしても?」
ソロンはシエルが放つ魔法をあまり近くで見てほしくない――機密にしたいのではなく、近くにいると命に関わるから――と思っているので、一応確認しておく。
「貴方がどんな立ち回りをするのか気になるからですよ。それに、シエル第三皇女殿下がどのような魔法をお使いになるのか大変、気になりますし。」
メアリーはアリアの発言にウンウン、と大きく頭を振って頷いている。
「場所は貴方にお任せします。貴方ならその魔法の有効範囲や安全域などを知っていそうなので。」
この発言にソロンは驚いた。他人に任せることは危険なので自分で見極めることが基本となり、その結果、自己判断で物事を推し進める者が多い。だが、彼女は魔力制御に時間を要するという言葉で、本来は未熟という言葉が出てくるだろうが、彼女は別のことに気付いたようだ。即ち、『魔力制御が物凄く必要な大規模広範囲攻撃魔法の行使』に。これを制御しきれれば効果範囲も縮小することができる。しかし、近くにいれば抑えていても巻き込まれる危険性が結構ある。それを見越しての発言だろう。
(流石はエルフ族といったところか。外見は魔導具によって人間族に化けているようだが、魔力の濃度や質、量などが一般的な人間族の平均よりも高すぎる。それを常時、コントロールしてバレないようにしているということは相当な実力者か魔導に特化している妖精族の種族系統しかいない。年齢的に考えると後者だろう。私は前者であるが、自分は例外中の例外だ。これには当てはまらない。私と同じなら確実に気付く。この距離で私が気付けないのは私の
ソロンはしばらく考え、指示を出した。
「シエル様の半径50m圏内、かつ、シエル様よりも前にはいないで下さいね。絶対にシエル様の真後ろから動かないで下さい。でないと死ぬ危険性がありますので。」
二人は素直に頷いて、ソロンの後を付いて行った。
(やれやれ、これは後でシエルから何か言われるな〜。遅れた理由と彼女達を連れてきた理由について。さて、どうしたものか・・・・・・。)
ソロンはそんなことをのほほんとした感じで考えていたが、その顔は珍しく引きつっており、苦笑を浮かべていた。
「では、行きましょうか。」
そう言って、ソロンは森の中を駆け、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます