第29話
兵士に囲まれたままヒイロは領主の館に連れてこられていた。
「こちらでお待ちください」
応接室に通され見張りの兵士を残し兵士の1人が部屋を出ていった。
しばらく待っていると気品を感じさせる服装をした青年がやってくる。
「ようこそ、錬金術師殿。私はこの街を治めるラスティン・フォン・ウィンドブル伯爵だ」
「流れの錬金術師でヒイロと言います」
「ヒイロ殿とお呼びしても?」
「えぇ。どうぞ」
「まずは部下が非礼を働いたようだ。申し訳なかった」
「私に謝るなら領民を守るべきでは?」
ヒイロとしてはことを荒立てるつもりはないが領民を守るべき領主が領民を虐げている現状を問いただす。
「それは確かにその通りなのだがこちらにも事情というものがある」
衛星都市ウィンドブルは食料生産を主産業としている。
本来であれば、領民から巻き上げる必要などないはずなのだ。
「その事情とは?」
「恥ずかしながらこの土地で取れる食料は私の物であって私の物ではないのだ」
「それは一体?」
「街の住民を食わせる分には何とか守っているが私の所属する派閥では満足に食料を取れない地域もあってね。約定によって余剰分なんてないのさ」
それはなんともまぁ・・・。
「今までは足りていたのに何で徴収を?」
「近くにダンジョンが出来てね。同じ派閥の貴族に支援を頼みこんだ。しかし、欲を出したその貴族はかなりの数の人員を送ってきた。送られてきた人員を飢えさせるわけにはいかないんだ」
確かに送られてきた人員を飢えさせれば悪評に繋がるだろう。
何とか食料を工面しようとした結果があれなのだろう。
「私が見たところ、村には余剰の食料なんてありませんよ。むしろ不足しているぐらいです」
「そうか・・・。無理に徴収はするなと言ったのだが私の失態だ」
領主も無理矢理集めるようには指示を出していなかったようだ。
「ところでヒイロ殿はこのような地で何を?」
「新しく作った堆肥の実験を村に協力してもらってやっていました」
隠すようなことでもないので正直に話す。
とはいえ、実験とはいっているが効果が実証されているものだ。
人間が知らないだけでダンジョン族の間で効果は実証されている。
「なるほど。実験か。村の状況を知りながら手を打てなかった私に責任があるのだろうな」
支配領域に勝手に手を出されたのに怒らないところをみるとこの領主は悪人ではないのだろう。
「こう言っては何だがその堆肥をもっと生産することは可能だろうか?」
「すみません。量を確保するのが難しいのです」
ドワーフの渦を作れれば別だが今はヒイロが一人で作っている。
ダンジョンの経営のこともあるし現状では時間を捻出するのが難しい。
「そうか。無理を言って申し訳なかった」
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