鬱の手記

北川 聖

第1話

ー1ー


 テレビではやぶさ2の快挙を興奮気味にアナウンサーが話している。私は若い彼らを何の感情もなく見ていた。太陽系の起源? 地球生命の起源? それがどうしたというのだろう。何の関心も起きない自分を不思議に見ていた。同時に快挙に沸き立つ彼らを見ながら心が沈んでいった。

 あなたたちはあと数年で死ぬんだよ。分かっているのかい。科学者だから知っているだろう。でも科学者だから取り立てて話すようなことじゃないと思っているんだろう。あなたたち夢中になっている自分たちを冷静に鏡で見たことありますか。もちろん、いろいろな人がいるだろう。年齢も千差万別だし。でもみんな身体中から喜びを発している。私は羨ましいと同時に滑稽さも感じた。あなたたちは未来に夢を託しているかもしれないがそこにあなたたちはいないんだよ。もちろん自分が科学の発展に少しだけでも貢献できるのが嬉しい人もいるだろう。捨て石でいいと思っている人もいるだろう。でも生命の起源とかもっと大きく宇宙の起源とか知ってどうするの。人間はこの宇宙から外に出ることができない以上、神の目でこの宇宙を見ることはできない。人間はいつまで経っても人間を超えられない。一万年後もいるとして姿形は変わるかもしれないけど人間は創造主にはなれない。創造されたものであるという運命から抜け出すことはできない。私はたまたまテレビではやぶさ2の快挙を見ていた通りすがりのものにすぎない。そしてこれはブログに書かれた手記に過ぎない。一応「鬱」という題名がついている。もしかしたら私は鬱病患者かもしれない。だから希死念慮も当然ある。突然途絶えるかもしれない。それは嫌になるか死ぬかだ。私はこの手記がどれだけ続くか分からない。その程度に思ってほしい。

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