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https://kakuyomu.jp/users/koedanohappa/news/16818093090184317114(挿絵ページのリンクとなります)


 南側サウスサイドを北上していると、騒ぎの理由わけが、見えてきた。

 ロウェルは、遠目に、それを目撃した。

 夕焼けに黒光りして照り輝くゴーレムが、十字路に二体、立っていた。もっとも大型の規格のもので、西と東へつづく通りを塞いでいるのだ。

 北と南では、怪しい黒衣の一団が扇状に立ち並ぶ。十字路の真ん中にいる誰かを、包囲している様子だった。

 ロウェルは目を凝らす。どうやら、それは少女であるらしい。

「こんなとこで、しかも女の子相手にあんなの持ち出すのかよ……」

 只事ただごとじゃないと思った。

 そこは街のなかほどで、普段なら雑多な人々でごった返しているはずの通りであるが、ほかに姿はなかった。

 野次馬の一人すらいない。酔っ払いたちの喧嘩ならいざ知らず、そこはあまりに剣吞けんのんな空気が漂っている。

 短剣を手に少女に距離を詰める黒衣の面々に、

「なにやってんだ‼ お前ら⁉」

 ロウェルの怒鳴り声が、割って入る。

 黒衣の一団が一斉に、振り返った。

 途端、ロウェルは薄ら寒いものを感じた。全員が、仮面をしていたのだ。いずれも不気味な表情が描かれてある。

 そのなかから唯一、肩当てをしている男が手を掲げた。手をロウェルのほうへ示し、

「やれ」

 言下、黒衣の者たちが三人、ロウェルに襲い掛かってきた。

「問答無用かよ」

 ロウェルは呆れつつ、一人が振るってきた短剣をかわしざま蹴り飛ばした。

 飛んでいった先で、仮面の者同士がぶつかるのを尻目に、二人目の背後からの斬撃に対し、左腕を上げる。杭打ち機を盾に防ぎ――間髪入れず、肘打ちを腹に入れ、膝をつかせた。

 三人目が、死角から、がら空きという体勢でいるロウェルに迫った。

 そして、びくっと震えた。

 逆に不意を突かれる格好で、まともに頭突きを顎から食らう羽目になり、仮面を半壊させながら沈んでいった。

 ロウェルはそのまま突破し、少女の前に躍り出た。

 少女は、きょとんとなっている。なに、この人。そんな視線をロウェルに当てながら、

「あなた、だれ?」

 もっともなことを、訊いてきた。

「俺はロウェル。つい、突っかかちゃったけど、アッチが悪者で合ってる?」

 そんなことはないだろうけど、という感じに、ロウェルは念のために尋ねてみた。

 しばし間を置いてから、少女がこくりと頷く。

「少なくとも、アタシは悪いことしてない……と思う」

「オッケー。なら、問題なしだ!」

 ロウェルは、快活に笑ってみせた。

 少女はびっくりしたように、宝石さながらの翠眼すいがんを瞬かせた。やがて、くすっと笑った。ロウェルに、安心する要素を見い出したらしい。

 ロウェルはロウェルで、少女の姿をあらためて窺がっていた。

 碧色へきしょくが滲んだ短めの銀髪が、真っ先に目を引いた。

 ロウェルには珍しいことに、綺麗だな、と感想を胸中でこぼす。

 瓦礫のなかを物色中ぶっしょくちゅう、ごく稀に出くわすことがある、輝きを失わないでいるなにかに対する眼差し。

 それから、そちらよりも注目すべき点が多いであろう箇所を見た。

 身にまとう衣服はあちこちが破れていて、布切れがかろうじてくっついている、という姿を晒しているのだ。

 ほとんど裸体に近い格好であるにもかかわらず、不思議とロウェルは気まずさを抱かなかった。

 女の子の裸を見ているというよりも、芸術品を眺めている感覚でいた。そういったものを鑑賞したことなど、一度もないが――それゆえ、余計にそう感じるのかもしれない。

 隣から、“とある著名な彫刻家の傑作品です”と、紹介されれば、思わず納得しそうな類いの。芸術的外見であるがゆえに、なんだか、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

 漠然と、ロウェルは少女からそんな印象を抱いた。

 ついで、この子をこんなボロボロになるまで追い回したのか――と、怒気を孕んだ目を、ロウェルは黒衣の集団に向け直した。

 二人が軽くやり取りを交わしている間に、連中は態勢を整え直したようだ。

 挟撃きょうげきはかろうというのか、前後からじりじりと迫ってきた。

 が、一方側の陣形が崩壊した。

 一人、二人と、弾き飛ばされ、それを目の当たりにした黒衣の数人はさっと跳び、街灯の上や手近な屋根へ逃れてゆく。

「思ったよりも、物騒なことになってるじゃない」

 エリーゼが不敵な笑みを浮かべて現れた。黒衣の者たちを殴り散らした、フラワーゴーレムの肩に乗っかって。

「エリーゼ、お前……なんで来たんだよ。あぶねーだろ」

「アンタが行く先は、だいたい、いつだってそうでしょう」

 言外に、悪いとすればアンタよ、とエリーゼが示す感じでいる。ロウェルはなんとなく、察するが、言葉に詰まった。

 そのあいだ、黒衣の者たちが目配せを交わしていた。やむを得ない、というふうに頷き合う。

 すると、ギギギ、と軋んだ音が起こった。

 西と東に通じる道を塞いでいた、大型のゴーレムが動き出していた。

 巨大な金属の体躯。

 黒鋼くろがねのゴーレムが目覚めたように、精結晶スピリットクリスタルの輝きを強くさせる。

 その色合いが、にわかに変化した。赤く濁ったようになった。人が怒りで、目を血走らせるのに似ていた。

「最近のゴーレムって、ああいう感じなのか?」

 ロウェルはその様子を見上げながら、隙を見て合流してきたエリーゼとフラワーゴーレムに訊いてみる。

「知らないわよ。この子は、あんなふうになったことないけれど……」

 そこで、また、黒鋼ゴーレムが異変をみせる。頭部が形状を変え、騎士の兜を思わせるものになり、精結晶を網目状に防護ぼうごした。

 あからさまな臨戦態勢に、ロウェルとフラワーゴーレム、そして少女が身構える。

 一方が、巨体に似合わない速さで、机を叩いて威圧でもするみたいに、石畳を殴りつけた。

 石畳がつぶてとなって飛び散り、横手にあった洋服店の陳列窓ショーウィンドウをめちゃくちゃにした。

 そこの目玉商品らしいドレスが、ひらりと通りに流れ出て、少女の丸くなった目に映った。

 少女は、驚いていた。フラワーゴーレムの脇に抱えられたまま。

 藍色あいいろの光に――魔力の膜に包み込まれていることに。内側に危害が及ぶのを凌いだことにも。それを発しているのが、フラワーゴーレムであることと。

「あまり長くは、できないのよね」

 使役者であるエリーゼが、肩から頼もしい守護者の頭を撫でて、説明した。

「あなたもできるの?」

 少女は共感と親しみを含んだ顔で、質問した。

 エリーゼが眉をひそめる。少女はフラワーゴーレムの顔を、見上げていたからだ。

 その少女の視線上に、ロウェルの姿があった。

 すなわち、黒鋼ゴーレムの頭上に跳び上がっていたのである。

 いつものように――デジールのゴーレムに対して何度もそうしてきたのと同様に、左腕の杭打ち機を胸部にぶつけた。

 鋼同士がかち合う甲高い金属音が響き、立て続けに解き放たれた杭が、金属の表面を引っ掻くような、耳障りな音を奏でた。

 たしかな手応えに、ロウェルは笑みを浮かべかけた。

「マジ?」

 胸部の脇にある角ばったところに足を乗せて、ロウェルは呆然となった。

 鉄槌が施した黒鋼の表面のひびを見て取り、これっぽっち? とショックを受けていた。

 黒衣の仮面の者たちが、忍び笑う気配がそこかしこで湧く。

 直後に虫でも払いのける感じに、黒く太い腕にロウェルは突き飛ばされた。

 衝撃を引きずりながらも、宙で身を翻し、着地する。習慣的な動きで、左腕の杭打ち機を引き絞った。

 エリーゼが、確認するまでもなく無事よね、という視線をロウェルに投げ、黒鋼ゴーレムを懐疑的に見つめた。

「えらく頑丈ね。……あれ、もしかして、軍事品じゃないの。一般に出回っているようなのじゃなくって」

 エリーゼの声に、地鳴りに似た小うるさい音がやたら混じっていた。

 先ほどから、もう一体の黒鋼ゴーレムが、エリーゼ目掛けて、タコ殴りを繰り出しているのだ。

 それを防ぐ障壁を発生させているフラワーゴーレムも、十分に凄いとロウェルは思うのだが。

 同時に、負けていられないな、と刺激された。

「うしっ。久しぶりに、お前の出番だぜっ!」

 ロウェルは、ぐっと右腕を掲げた。

「……それ、左右でなにか違っていたの?」

 エリーゼが意外そうな表情になった。

「そういえば、コイツを使うとこは、まだ見せたことないっけな」

 ロウェルは、悪戯いたずらっ子がするみたいな笑みで返し、

「まあ、見てろって」

 左腕の杭打ち機では歯が立たないでいた黒鋼ゴーレムに、正面から挑んだ。

 勢い込んで走り、跳躍する。

 それすらも威力に上乗せするかたちで、左腕の相棒が刻んだ亀裂を目印に――右腕の相棒を叩きこんだ。

 拳鍔ブラスナックル部分が傷口を抉るようにめり込んだ刹那、握り手の側面にある窪みに、熱い思いを込めて、親指を入れた。

 ごうっ‼ 大砲をぶっ放したのとさして変わらない音が、その場にいる者の耳をつんざいた。

 右腕の杭打ち機が後部面から炎を吹き、杭を前方に発射・・した。

 杭は胴体内部まで潜り込み、貫通した。ほとんど一瞬で。

 反動でロウェルの身が押し戻された。おかげで、目前の重々しい金属の崩落ほうらくに、巻き込まれることはなかった。

 黒鋼ゴーレムは、瞬く間に、かたちを失っていった。

 痺れた右腕の感触に、むしろ染み入る顔になり、ロウェルは受け身を取った。

 ややふらつきながら、立ち上がる。

 右腕の相棒の功をねぎらう感じに、後部の突き出た棒をつかみ動かし、役目を終えた薬莢やっきょうを廃棄させた。

 床を打つようにして転がった薬莢も、右腕の杭打ち機も、まだわずかに熱を発散させているようだった。

「よっしゃー! やっぱ、強烈だよなー。お前はさっ!」

 ロウェルが歓声を上げる一方、黒衣の面々もエリーゼたちも呆気に取られたまま、立ち直れないでいる。

 そんな一同に、フラワーゴーレムがきっかけを与えた。包んでいた魔力の膜が、ふっと消えたのだ。

 時間切れ。

 一目でわかる状況の一変に、ロウェルとエリーゼが顔を見合わせる。やばい? まずいわね。そんな視線の交わし方をした。

「今だ。やれ! この機を逃すなっ!」

 黒衣の一団を指揮する肩当ての男が、残る黒鋼ゴーレムをけしかける。波長を合わせた黒衣の者たちも、残骸となった黒い鋼を踏み越えて近づいてくる。

「さっきの、もう一度できないのっ?」

「あれ一発やるのに、銀貨五枚もいるからさあ……」

 フラワーゴーレムから下りたエリーゼに無理、と伝えると、ロウェルは黒衣の者たちを迎え打つために動いた。

 黒鋼ゴーレムのほうは、弱々しい光で精結晶を明滅させるフラワーゴーレムに、任せるしかなかった。

 早くも、ゴーレム同士の殴り合いが始まり、図体の差でも材質の面から見ても、押されていた。

 エリーゼが祈るような顔で健闘するフラワーゴーレムを見つめ、ロウェルが一刻も早く黒衣の者たちを退けて加勢に行こうと険しい目になった――そのとき。

「待って」

 不意に少女が言った。

 ロウェルもエリーゼも、目を疑うように、彼女がフラワーゴーレムの前に進み出るのを見た。

 黒鋼ゴーレムですら、ぴたっと動きを止めた。当惑したわけではなさそうだった。

「よし……。とらえろ」

 肩当ての男が安堵したように下した命令に、ロウェルは彼らの意図を理解した。

「あの子、自分の身を捧げるつもりなの……」

 先にエリーゼがロウェルの察したことを告げた。

 なんのためか、と考えれば、一つしかない。

 助けに入ったロウェルやエリーゼが、逆に救われる立場になったのだ。なんのいさかいかは不明だが、少女がおとなしく捕まれば、これ以上の闘争は必要なくなるのだろう。

「おい! 待てって! こんなやつらに――」

 ロウェルの制止の叫びに、少女が振り返った。

 そして、静かにつぶやいた。

「ごめんね」

 胸もとに手を当てていた。

 そこにある、無色透明な結晶を優しく撫でた。まるでそれに謝罪したみたいだった。ロウェルが、右腕の相棒をねぎらうのと同じ様子で。

 よく見ると、紐や鎖で吊るされた首飾りではなかった。

 埋め込まれていた。

 そこに、少女の一部として、最初から存在するように。

 少女が、黒鋼ゴーレムへと向き直った瞬間だった。

 その結晶が突然、光を帯びた。虹色の輝き――世界の象徴たる大樹が、日夜振り零しているのによく似た色に染まる。

 少女の両手からも、同じ光が生まれた。

 虹色に光る結晶が、花を咲かせるように。伸びてかたちを変え、手の甲に、槍先をくっつけているみたいになった。

 そこらで転がっている陳列窓ショーウィンドウ硝子片がらすへんにも似たかたちのものがあり、ロウェルは見比べ、馬鹿らしくなる。似ても似つかないほど、差があった。

 なにがどう、と言えるほどの美的感覚を持たないロウェルでも、それはたしかに思えた。

 そうして、少女が背から、七色の光を翼のように広げるさまに、“美しい”と口にしたことのない言葉の使いどころを、教えられた気がした。

 アズさんなら、こういうとき、気の利いた表現をするのだろうな――という思考が頭をもたげたロウェルはようやく、見入っている場合ではないと自らをなじった。

 とにかく突っ込もうとしたロウェルの前で、巨大な手を伸ばす黒鋼ゴーレムに対して、少女が両手を差し出していった。

 一見、身を差し出すような所作だったが、違った。

 少女は両手を重ね合わせ、握りしめた。両手で祈っているふうでもない。

 手の甲から伸びて輝く二つの剣尖けんせんを、迫る黒鋼ゴーレムの中心へ、向けている。

 まるで銃で狙いをつけるみたいだ、とまたロウェルはアズランドの顔が脳裏をよぎり、銃さばきを思い出していた。その姿が、瞬間的に消えた。

 黒鋼ゴーレムの姿も、消えて・・・いた。

 少女が結晶の刃先から解き放った光の中に、瞬く間に呑まれた。そして、光が搔き消えると、ロウェルは、口をぽかんと開けることになった。

 腕を伸ばした格好で溶け崩れた黒鋼ゴーレムの姿形すがたかたちと、鋼の焼ける嫌な臭いに。

 エリーゼも、黒衣の面々も、こぞって息を呑む。

「最新式が二体も……」

「あれもまた、あのお方の……」

「備えであるべき、分際で」

 黒衣の者たちがざわつき、仮面の奥で動揺を口にする。

「連れ帰れないとあれば致し方ない――」

 肩当ての男は一人、厳粛に対処するため行動した。俊敏しゅんびんに。手に短剣をげ、謎の力を示した少女に肉薄した。

 ロウェルがいち早く気づき、

「おいっ! やめろ!」

 石畳を蹴ったが、距離があった。

 ロウェルの声に、少女もハッとなり、肩当ての男へ抵抗しようとした。

 が、あろうことか、ふらつき片膝をついた。併せて光を失い、花開いていた結晶が散った。

 間に合わない。ロウェルはやぶれかぶれという具合に、落ちていた小石を拾い投げた。

 肩当ての男は、少女の半歩前で立ち止まることで、それを難なく避けた。油断なく短剣を振りかざす。

 そして、横倒れになった。

 ぴくりともせず、声を上げることもなかった。

 緊張感から、ロウェルは一拍遅れて、それを感覚した。爆ぜる音を。右腕の相棒の炸裂みたいに荒っぽいものではない、ただの銃声だった。

 ロウェルは、南側サウスサイドに通じるほうを見た。さっきから何度も、脳裏に浮かんでいた顔が、そこにあった。

「アズさん!」

 拳銃を右手に構えたアズランドに、ロウェルは感動を覚えた。

「いや、キミにしては時間が、かかっているなって思って様子を見にきたんだ。……邪魔だったかな?」

 アズランドが笑いかける。状況が状況だからか、やや硬いものになっていた。

「大助かりっす! その子とエリーゼ、頼みますっ」

 大声でロウェルは告げると、残りの黒衣の一団に応戦していった。

 指導者を失った焦りなのか、少女を襲おうと躍起になっているせいか、先ほどよりずっと脆くなっている。

 次々と、ロウェルに吹っ飛ばされていった。

 不意に――黒衣の者が一人、少女に接近した。洋服店の脇にある路地裏につづく細道からぬっと出てきたのだ。

 眉を寄せ、アズランドが少女のもとへ駆けながら、その襲撃者へ何度も発砲した。

 一発目が鼻先を掠め、仮面の表面を焼いた。

 二発目で、短剣を突き出そうとした腕を穿った。

 怯んだところに、三発目と四発目が叩きこまれ、両脚を貫通する。崩れかけた胴体に五発目が命中すると、黒衣の者は仰向けに倒れ込んだ。

 弾を撃ち尽くした拳銃を手早くホルスターに仕舞い、その手で、アズランドは少女を抱えた。持ち去った、という絵面えづらになるかもしれない。

 そのまま、疲れた様子で座り込むフラワーゴーレムのそばまで運んでから、

「……大丈夫かい?」

 腕のなかの少女に尋ね、柔らかく微笑した。

 少女は具合が悪そうだったが、やがて呼びかけに反応し、顔を上げた。

 途端、少女の目が、まん丸に見開かれた。

 色白の顔が、見る間に、食べ頃を迎えたトマトの如く真っ赤に染まっていった。

 すべての黒衣の者たちをそこら中に転がし終えたロウェルが近寄り、横からそのありさまを眺めた。

 少女が急に、病的な症状を起こしたわけではないということは、さすがに理解できた。いや、やまいではあるのかと、漠然ながら理由にも見当がついたのだが、

「なぁ、あれってさ……」

 より正確な答えは、エリーゼに委ねることにした。詳しそうだし、と。

「落ちたわね」

 エリーゼは疑いの余地が微塵もない様子で断言していた。その瞳は興味深いものを見守るかのように少し、輝いているようでもある。

「……う、うん」

 少女が、こくこくと頷く。幾分か頬に赤みを残しているが、受け答えができるくらいには、回復したらしい。

「美人さんに怪我がなくて、なによりだよ」

 そのアズランドの笑いかけで、少女の顔で熱が再燃しつつあったが、

「立てるかい?」

「ええ、もう落ち着いたから……」

 少女を腕から解放し、アズランドはロウェルとエリーゼを見遣った。それから、倒れ伏した黒衣の集団と、黒鋼ゴーレムの残骸を注視して問いかけた。

「なにがどうなって、こんな事態になったのか――説明をしてもらえるかな?」

 と言われても、という表情を露わに、ロウェルとエリーゼは顔を見合わせる。二人して、少女に眼差しを向けた。アズランドも、つられるようにして、目を動かした。

 視線を注がれた少女は、どぎまぎしたようになった。

 うつむき、迷いがちに三人を上目遣いで見ていき、

「助けてくれてありがとう。ロウェルもエリーゼも……えと、ア、アズ、も」

 顔を上げるとともに、そう言った。

 アズランドが妙な表情になった。

 急な飛躍した愛称に、やや戸惑う感じだった。ロウェルの“アズさん”呼びから、少女がそういう名前であると、勘違いして呼んだわけだ。

 それについては表情だけに留めたようで、アズランドはロウェルを槍玉に挙げた。

「騒動に首を突っ込むのは、ロウェルの専売特許だからね」

「えっ? アズさんだって、なにかと人助けしてるじゃないっすか。ってか、今だってそうしてたじゃないっすか」

「どっちもどっちよ。あんたたちって、騒ぎがあれば、だいたい、そこにいるでしょ。見つけやすくて、助かるけど」

 三人のやり取りに、自然、少女の唇が綻んでいった。少し迷う素振りをみせたのち、決然としてこう伝えた。

「アタシはリザって言うの。助けてもらったあとで、言いにくいのだけれど……お願いしたいことがあるの」

 リザと名乗った少女は、みなを見つめた。よく通る声で、その願いを言葉にした。

「アタシのお姉ちゃんを、一緒に捜してほしいの」

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