13・夏樹との再会
血まみれな体験入学を終えた俺は、帰宅するなり姉の部屋をノックした。
『どうしたの、いきなり』
『姉さんの学校の内履きって学年ごとにラインのカラーが違うよね?』
『ああ、うん。それがどうかした?』
『青のラインって、今、何年生?』
『1年生だけど』
志望校が決定した瞬間だった。以降、俺は「あの人」と同じ学校に通うべく、必死に勉学に勤しんだ。
おかげで受験は難なくクリア。合格通知を受け取ったとき、真っ先に頭に浮かんだのは「これで2年間はあの人と同じ学校に通える」だったのは言うまでもない。
とはいえ、彼に関しては「1歳年上の男子生徒」ということ以外、何もわかっていない。あの衝撃的な出会いを迎えた体験入学の日、初めての恋で舞い上がっていた俺は、彼の名前を聞くのをすっかり忘れていたのだ。
そのため、入学後は彼を探すことからはじめたわけだけど、これがまた困難を極めた。なにせ相手は2年生、新入生が上級生のフロアをうろつくのは、どう考えてもハードルが高い。
悩みに悩んだ末、俺は正面玄関に張りつくことにした。登下校の時間帯に、用事があるふりをして行き来する2年生を観察したのだ。
目印は、明るめの茶髪。それと、笑うとさらに細くなる目元。
ところが、1週間経っても2週間経っても、彼とおぼしき人物は正面玄関に現れなかった。おかしい、何日も待ち伏せしているのに、どうして一目見ることすら叶わないのだ?
いや、弱気になるな。絶対にいつか再会できるはずだ。
なんとか自分を奮い立たせること1ヶ月。それでもあの明るい茶髪を目にすることはなくて、次第に俺は鬱々としはじめた。
もしかして、あの夏のひとときは猛暑が見せた夢だったのか? あのとき俺を助けてくれた彼は、実は幻だったのか?
おかげで、高校最初の中間テストは散々な結果に終わった。成績表を目にした母が、翌日学習塾のパンフレットをわんさかと持ち帰ってきたほどだ。「大丈夫、期末は頑張るから」──そう説得して、学習塾通いは免れたけれど、俺の気鬱は晴れなかった。だって、未だあの人と再会できていない。このままだと、3年間、生きる屍になりそうだ。
だが、神様は俺を見限ってはいなかった。
あれは6月半ばの、じめじめした水曜日のこと。次の時間が体育ということで、俺はクラスメイトと校庭に向かおうとしていた。そのとき、後ろの出入口から、明るい茶髪がひょこっと現れたのだ。
『なあ、星井ナナセ、呼んでくれない?』
頭のなかが真っ白になった。
彼だ──ついに見つけた!
金縛りにあったかのように動けなくなった俺の代わりに、他のクラスメイトが「星井―、呼んでるー」と振り返った。
『えっ、お兄ちゃん、どうしたの?』
『これ。母ちゃんに届けろって頼まれた』
『やば、お弁当じゃん!』
まさか──まさかの!
(星井の、お兄さん!?)
そこから情報収集は一気に進んだ。
彼の名前は星井夏樹。2年1組・出席番号18番。保健委員会と読書クラブに所属し、放課後は学校近くの「ラッキーバーガー」でアルバイト中。
そして、一番大事なこと。
(交際相手──ナシ)
ただし、あくまで「今のところ」だ。あんなに魅力的な人が、いつまでもフリーでいられるはずがない。
俺は、悩んだ。授業中も自宅でごはんを食べているときも、昼も夜も、なんなら夢のなかでさえ、初めてのこの恋をどこに着地させるべきか、考え続けた。
その結果、ようやくひとつの答えに到達した。
これだ──もうこれしかない。
心を決めた俺は、とある日の放課後、星井ナナセを呼び出した。
『なに? 青野が呼び出すとか』
気怠そうな星井に、俺は頭を下げた。
『結婚を前提に、俺と付き合ってほしい』
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