第六話 出会い


 ゴーレムを倒した後、アイテムの回収を済ませたカイは鉱山から撤収していた。勝利を収めたとはいえ、ダメージは蓄積しており回復用のポーションは使い果たしている。何より精神的な疲労がすさまじかったため、街に帰って休みたかったのだ。


「ほんとよく勝てたよなぁ…俺。多分最後のゴーレムの押しつぶしによる攻撃の時にゴーレム自身の重量が俺の攻撃と重なって、体を貫いたんだろうな」


 行きにも通った道を戻りながら、先ほどの戦闘の反省会を行っていく。


「とはいえ、あんなギリギリの勝利は何度もできるものじゃない。今の俺に足りないのは攻撃の手数と遠距離攻撃ってところだが…」


 今の自分にないもの、弱点を洗い出しながらそれを補うための手段を考えるが、見つからない。そもそもカイは接近戦を専門とする〈剣士〉だ。得物は一撃の威力を重視した大剣を使っているし、そこは仕方のない点ともいえるが…。


「なんにせよ、いずれは自分の戦闘スタイルも見直さないとな。それこそいつかは仲間を募るとか…ん?」


 そこまで考えたところでどこかから戦闘音が聞こえてきた。それだけならば普段は気にしないのだが、ゴーレムとの戦闘を終えたばかりだからハイになっているのか、妙に気になってしまった。


「……ちょっと行ってみるか」








 音のする方角へと進んでいくと、おそらく『プレイヤー』だと思われる全身にローブを纏った女がモンスターと戦っていた。それだけならばここに来る道中でも見かけたし、別に変った光景というわけでもない。ただ違ったのは女が戦っているのが、カイが見てきたモンスターよりも一回り大きい体躯をしているということ。そして女が苦戦を強いられているということだった。


「ちょっ、やばい!《氷棘アイスニードル》!」


 モンスターの攻撃をかわしながらなんとか反撃に転じているが、それも敵の外殻に弾かれるのみで効いている様子はない。


 さすがにこんな場面を見ておきながら見捨てる趣味はないので、手助けをするべきかと考えるがもしモンスターの横取りと言われてはかなわないので確認をしていく。


「おーい! そこの人! 助太刀したほうがいいかー!?」

「おっ、お願いします!」


 近くにいたカイの存在に気づいた女は、助力を乞う。


「確認もできたし、いっちょやりますか」


 そういってカイは今も女に向かって突進を繰り返そうとしているモンスターの間に割って入る。


 《身体強化》を発動させながら攻撃を受け止め、なんとか踏みとどまるがその予想以上の重さに驚愕する。


「こいつ、今まで戦ったモンスターに似ているが攻撃の重みが全く違うな。多分上位種とかそんなところか」


 敵の分析をしながら、冷静に情報を見出していく。


「こういう昆虫型のモンスターの弱点は大体腹にあったし、こいつもそれは例外ではないだろう。けどこいつの大きさだと、俺じゃひっくり返すのが限界だ。とどめをどうするか…」


 思考を重ね、勝ち筋を探っていくと背後にいた女から声をかけられた。


「ねえ、君。あいつをひっくり返すことはできる?」

「え? あ、ああ。ひっくり返すだけならできるが…何か算段があるのか?」


「うん。弱点さえ出してくれれば私の魔法でとどめが刺せる。お願いしてもいい?」

「勝機があるなら上等だ。前座は任せとけ」


 即興ではあるが、ある程度の作戦を組み立てたところで二人は動き出す。


「タイミングはあいつが突進を仕掛けてきたタイミング…っいまだ!《鋭刃》!」


 敵の攻撃が外れた隙を狙って下からの斬撃を打ち込む。モンスターはあおむけになりながらもすぐに起き上がろうとする……が、ここにいるのはカイだけではない。


「くらえ!《氷棘アイスニードル》!」


 女の放った魔法が弱点に叩き込まれ…HPを削り切った。







「いやー、助かったよ! ほんとにありがとう!」


 朗らかに笑いながら感謝を伝えてくる『プレイヤー』。彼女は「リンカ」という名前らしい。彼女もレベル上げのためにこの森に来ていたようだが、途中で上位種のモンスターと遭遇してしまい、やられかけていたのだとか。


 彼女は空色のショートヘアをしていて、全体的にスレンダーな印象を受けるがそれがまた彼女のかわいらしさを引き立てている。まあアバターはある程度いじれるので、整った顔立ちの者が多いことは不思議ではない。


「私の職業は〈魔法使い《氷》〉で氷属性の魔法がつかえるんだけど…接近されると対応が難しくてね。ほんとに危ないところだったよ」


「お礼といってもなんだけど、今の戦いでダメージを受けてたよね? 手持ちにポーションがあるから分けるよ」

「それは助かる。ちょうど今切らしちまっててな」


 この世界におけるポーションは多岐にわたりHP回復、MP回復、状態異常解除などの種類が存在する。それらには品質という概念が存在し、下から《低級》、《最下級》、《下級》、《中級》、《上級》、《最上級》と上がっていく。


 リンカがくれたのは《最下級》のポーションだったが十分だ。カイもここに来る前にポーションは買い込んでいたが、ゴーレムとの戦闘で使い果たしていた。なのでリンカの申し出はありがたい。


「ところでカイはなんでここに来たの? レベル上げが主な目的だとは思うけど、何か別の理由があったりするのかな」


 リンカから受け取ったポーションを飲んでいると、そんな質問をぶつけられる。


「そんな大層な目的ではないけどな。この先の鉱山から鉱石を取ってきてくれって頼まれたんだ。そのついでに狩りをしてたって感じだな」


 そう答えるとリンカは納得したようで、別の話題へと移っていく。


「ねえカイ。もしよければなんだけど私とパーティを組んでみてくれないかな。ここで出会ったのも何かの縁だし」


 パーティ。それは仲間となった者同士で結成できるチームのことだ。ほかにもチームを組める制度でいうとギルドなどがあるが、ギルドには人数制限などがないのに対しパーティは6人までという人数制限が存在する。


 ただパーティは個人同士で自由に組めるというメリットが存在する。ギルドは所属国家に届け出を出さなければならないのでその気軽さも魅力といえる。


「パーティか…。俺もいずれは仲間を募ろうかと考えていたし、魔法が使えるリンカと組めればバランスも良くなる。けど俺でいいのか?」

「うん! パーティといってもお互いに始めたばかりだし、あくまで今はお試しみたいな感覚でいいと思うよ」

「そうだな…。じゃあ今はあくまで軽くって感じでいいなら、よろしく頼むよ!」

「こっちこそ! よろしくね!」


 こうして、後に信頼しあえる相棒となる存在と出会った二人はパーティを結成したのだった。

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