第43話



「お疲れ何か元気ないけど……あ、もしかして洞口ほらぐちに何か言われたのか?」


 入れ替わるようにしてやってきた保科ほしなは俺を気遣う言葉をかけてくれる。


「まあね……」


真堂しんどうを止めたところまでは格好よかったんだけどな、独りよがりで攻め上がってオマケにシュートまでミスして」


「そうだな……でも俺は仕方がないと思う部分はあるけどな……少ない成功体験に酔って引き際を間違えたそれだけだと思うんだ」


「結構毒舌なんだな」


「今日は良い汗かくことが目的なんだし他はどうでもいいかな?」


「違いない」 


「流石は運動部だけあって羨ましいぐらい動けてたな」


「当たり前だ。って言いたいところなんだが真堂しんどうお前の方が予想外だ。ドリブルもパスもサッカー部か? ってぐらい正確に飛んでくる。一得点も失点を抑えられたのも真堂しんどうの活躍が大きいと思うぞ」


「そう言われると言われると悪い気はしないな……」


「だろ? 真堂しんどうって結構話しやすいんだな……悪気はないんだけどホラ例の……」


 良くわからないけど言葉を濁される。

 多分、俺の憑依前に真堂恭介しんどうきょうすけがやらかした事件の事だと思い。


「ああアレね」


 と知ったかぶりでお茶を濁す。


「もっと話にくい人だと思ってたら、運動も出来るし結構話しやすい。最近はボランティア活動にも力を入れているって祐堂ゆうどうから訊いているよ」


 憑依前の真堂恭介しんどうきょうすけが何をやったのかは知らない。

 だから警戒し遠ざける。

 保科ほしなの判断は当然の行為だと思う。

 髪を切る前にの真堂恭介しんどうきょうすけは、不良みたいだったから事実を抜きにしても、色眼鏡で見られるのは仕方がないと思う。


「成り行きだけどな」 


「でも真堂しんどうは、クラスで提案したことを責任もって続けているじゃないか?」


「生徒会が管理してくれる時点で俺の手から離れたと思っていた。だけど生徒会長が認めてくれなかっただからやってるだけだよ」


「普通そんなことできないよ」


「そうかなー」


「そうだぜ」


「そろそろコートから出ないと先生にどやされるぞ」


「仕方ない動くか……」


 コートに手を付いて立ち上がりたらたらと歩き出す。

 入れ替わるように別のチームのメンバーとすれ違った。


「さっきの試合レベル高かったよなー」

「あんなプレイ見せたら女の子がキャーキャー言ってくれるかな?」

アイツ・・・でもキャーキャー言われてたんだ余裕だろ……」


 隣のクラスの一団はどうやら女にアピールしたいようだ。

 一団の内の一人と目が合った。


「おい、行こうぜ」


 すると明らかに俺を避けたいようで駆け足でこの場を後にした。


「なんだったんだ……」


「いや、判るだろ……」


 こうして体育の授業は終わり俺達のチームは校庭ダッシュをギリギリ免れる事は出来なかった。

 罰ゲームを免れたチーム?

決まってるだろ? 

 我らが主人公にしてボスキャラクター『若松祐堂わかまつゆうどう』のチームだよ。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 倉庫整理を終えた俺はいつも通り、成嶋なるしまさんと一緒に帰路についていた。


「倉庫整理してるんだって? でもその割には埃臭くも汗臭くもないわね」


 そう言ってスンスンと鼻を鳴らす。

 整った顔が近づいてきて、体温が分かるほどだ。

 柔軟剤か香水の匂いもしてきてなんだか恥ずかしい。


洋宮ひろみや先輩……生徒会長にお願いしてシャワー室を使わせて貰ってるんだ。下着もシャツも着替えてるから嫌な匂いもしないと思うけど……」


 理由を説明すると「納得が行った」と、でも言いたげな表情で近づけていた身体を離す。


「道理でいい匂いがする訳だ」


真堂しんどうくんって結構気を付けるタイプよね」


「そうかな?」


 前世での接客業の経験から清潔感の極意とは、見た目と匂いだと考えている。

 制汗剤やボディタオルなど様々なモノを駆使していたため、前世では「お前腋臭か?」と言われるほど、ケアには気を使っている。


「学校帰りなんか汗臭くて当たり前なのに……」


「まあ、シャワー室がない学校だとケアは大変そうだよね」


「私も中学時代は大変だったな……あ、そうだ今日の体育凄かったよ」


「ありがとう」


 聞けば今日は『女の子の日レディースディ』との事で体育の授業は見学したらしく、暇で男子の授業を見ていたそうだ。

 男の俺には判らないが精神も肉体も辛いと訊く、ただでさえ精神が弱っている今、さぞ辛いだろう。


「ドリブルも凄かったし、女の子なんか授業そっちのけで真堂しんどうくん達を見てた……」


「声は聞こえて来たよ……」


「嬉しかった?」


「はい?」


「女の子にキャーキャー言われて嬉しかった?」


「まあそりゃ男だから……」


「……誰でも言いの?」


「そりゃあ可愛い子や好きな子に言われるのが一番うれしいけど……」


「けど?」


「……嫌われ者の俺が皆に認められた気がして嬉しかったんだ……」


「……」


「……」


「あ、そ……」


「自分で聞いて置いてその反応はないと思うんだけど……」


「うるさい。ばーか人の気も知らないで……」


 そう言い放つと成嶋なるしまさんは電車を降りた。


「あ、ちょ……」


 俺の静止を振りほどいてホームを走って行く……

 小さくなる彼女の背中を見て俺はこう思った。


 俺が彼女の傍に言いていいのか? 彼女を支えるべき人間、例えば彼氏が必要なんじゃないかと……


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