第11話
しかしこのままでは俺の運命は変わらないだろう。
やってしまった。
避けようとしていた悪役としての役割をこの世界から強制されてしまった。
原作ではスラスラと嫌味ったらしく言っていた台詞だが、運命に抵抗したことによって『何かに苦しんでいる中の発言』にすることに成功した。
このままでは俺は
何かこの窮地をひっくり返す起死回生の一手を打たなければ、俺の破滅は確定したようなものだ。
小さく咳払いをすると声を出した。
「ゴホン。あ゛ー」
声は問題なく出る。
強制力が弱まったのだろうか?
しかし運命への抵抗の代償か喉が焼けるように痛い。
慣らしをせずにカラオケで熱唱したようにガラガラになっている。
「板書お願い出来る?」
「うん。判った」
・最小限の努力で最大のリターンを!
・清掃活動(ゴミ拾い)
・資源集め(ペットボトルキャップ、アルミ缶、ベルマーク等)
――――と板書される。
強制力が弱まっている今なら破滅フラグを回避できるIFルートへ分岐する事が出来るかもしれない。
空いてる期間が少なく、どう完全版を出すんだよとファンから言われたものの、追加キャラクターを二人も加え見事成功させた『仮面5R』を思い出せ!。
無理やりにでも時間を生み出せ……
「他に意見がある奴はいるか?」
ここだぁぁあああああああああ!!
「そういうのが……「――すまん。少し訂正と補足説明をさせてくれ……」
このボランティア活動イベントの重要人物にして主人公の友人ポジションの『
言えた!!
強制力の波の合間を縫う事で原作シナリオに介入することに成功したぞ!!
確かな手ごたえを感じていた。
思わずガッツポーズしたくなるが今はまだその時ではない。
『
お前の発言の機会を潰すことになって……現作の時から好きなサブキャラだけど迷惑かけるマジでごめん!!
俺は心の中で五体投地の勢いで倒れ謝罪する。
すまない。と言う意味を込めて目礼をするとニッカりと人付きのする太陽のような笑みを浮かべ気にしていないと言うジェスチャーをする。
流石、婦女子人気の高いキャラクター。
惚れそうなぐらいイイ男だ。
「最小限の努力で最大の効率と言うのはゴミ拾いなら普段の生活の中で出来る事だ。こう言う小さな善行を学校中……市町村に広め大きなムーヴメントにする……そう言う意味だ」
主人公の『
「確かにさっきの説明だと語弊が産まれる言い方だね……体調が悪いなか説明を付け加えてくれてありがとう。オレは君を誤解するところだったよ……」
中々の好印象だ。
このまま畳みかけ押し切る。
俺は説明と
再び汗で湿ったシャツが張りつくが気持ち悪さよりも達成感を感じる。
「体調悪そうだけどアイツ案外クラスのこと考えてるんだな……」
「言ってることはアレだけど、確かに俺ら進学校の生徒だもんな」
「でも私は社会に貢献したいわ」
など俺に肯定的な意見が増える。
『
山本に至っては不明だ。
「他に意見はあるか?」
こうして
「ほぼ全員が意見を言ってくれてありがとう。
あらかた意見が出そろったので『主目的』とそのための手段の募集は辞めてどうすれば、皆の目的を妥協できるか? と言う点で話を進めたいと思います。まず主目的だけど……」
・最小限の努力で最大のリターン(寄付やゴミ拾いと言った誰でもやれることを広め一般化させる)
・表彰されるぐらいデカイこと(物理的に残るモノだとなおのこと良し)
・既存のホスピタル施設や団体の支援・応援
「以上の三つに大きく纏めることが出来る……と思います。目標のための手段は忘れて、何が嫌かよりも何がやりたいかで選んで頂けると嬉しいです」
「
そう言って水を差したのは一人の男子生徒だった。
「なんでしょうか?
ホラグチ? ほらぐち、洞口……あっ!!
思い出した。
確か
「僕はこの学校にボランティア活動をしに来た訳じゃない。難関大学に入学して高い生涯年収を稼ぐためにここにいる。悪いけど無駄な時間は過ごしたくない」
おかしい……現作だとこのセリフは
それもこの台詞は
世界の修正力と言う奴だろうか?
俺が正史から外れた言動を取ったことで、他の誰かにその役目が移った証拠なのかもしれない。
「俺達クラス委員の一存で一人だけを特別扱いすることは出来ないよ」
「――――くっ!!」
「嫌だと泣き喚いて要求が通るのは乳幼児……遅くて小学校低学年までの話だ。
仮にもあと3,4年で成人を迎える責任ある人間の発言ではないよ……」
流石主人公。
申し訳なさからつい助け船を出してしまう。
「……ちょっといいか?」
「何だい?
「俺は皆の頑張りを世間が評価してくれると嬉しいなと思っただけで、絶対にこれがいいって言うもんではない。どこまで皆の案を取り入れて活動を行うかは判らないけど役割分担をすれば、皆がある程度納得できるんじゃないか?」
「具体的に役割分担っていうのは?」
「例えば……山本さんの意見。『既存のホスピタル施設や団体の支援・応援』って言うのは実際昨年の年次予定表によると、老人ホームや特別支援学校・学級、ホスピタル施設への慰安や慰問は、学校主導のボランティアや他の学年やクラスからも出やすいモノだと思う」
「確かに言われてみればそうかも……」
「確かにそれなら他のクラスや学年のボランティアに混ぜて貰えばいいかもね」
クラスの女子達も薄々は俺と同じことを考えているようだ。
「
「「「……おおお!」」」
クラスで歓声が上がる。
「でもそれを通すのは結構大変だと思うけな……」
「それは言いだしっぺの俺がプレゼンする。名目上のトップを生徒会執行部にして各クラス委員を、例えば部門毎の担当者にして学校全体で社会福祉の輪を広げる活動をする、と言えば通りはいいと思う」
俺の言葉を聞いて今の今まで黙っていた教師が意見を述べる。
「つまり、生徒会執行部とクラス委員との発表前にプレゼン資料を作って発表し、賛同を得たうえで教頭先生から許可を貰わないとダメな訳だが……
熱い。
俺は人生始まって以来の熱を感じていた。
高校生活を通じて人前に立つ機会なんてロクになかった。
それは大人になっても大差ない。
でも俺は決めたんだ。
変わるって、
だから『無理』とは言わない。
だから、「やってやる」って前向きに言うんだ。
ある種の成功体験が小学生時代に皆が感じていた万能感を呼び起こさせていたのかもしれない。
こういう状態を人は青春と呼ぶのだろう。
「やってやります!」
「大人を……他人を子供のやることに巻き込むって言うのは物凄く難しい事だ。だけどな俺は挑戦する価値のあることだと思う。男は度胸、出来ない理由を見つけてやらないよりは、何でも試して挫けて、それでも前に突き進むことが青春だ!」
「クラス委員二人と
今日はプレゼン資料の草案をパソコン室で作って作って貰うからな」
「はい!」
こうして最初のフラグを回避した俺は満面の笑みを浮かべながら返事をした。
俺はこの青春と言う名前の熱病にも似た感覚に流される。
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