第3話
「おおぉ!」
この体、スポーツが得意なのか足が軽い。
原作ではパッとしなかったが、中々のフィジカルエリートだ。
駐輪場に自転車を止め、駅構内を
脚も早く、息もまるで上がらない。
若いっていいな。
入場口にたどり着くと、そのままの勢いでICカードを
すると、発車を知らせるベルがホーム鳴り響く。
「ドアが閉まります~。ご注意ください~」
丁度、電車が発車する直前だった。
車掌が指さし確認をし笛を吹く。
「ちょ、待てよ!」
声をだし電車に飛び乗った。
「危ないですから、駆け込み乗車はご遠慮ください!」
「ごめんなさーい!」
「はぁ……」駅員さんは深い
駆け込み乗車した車内は、かつて地方民だった俺からみて、思わず乗車したことを後悔するほどの混み具合だった。
明日からはもう少し早い時間の電車に乗ろう。
俺はそう決心してポジショニングを取る。
後一駅となった時、ドアガラスの反射に映る同じ学校の制服を身に
やはりコスプレでも何でもなく、
ともあれ、この世界で初めて遭遇する同じ学校の女子生徒に、飛び込み乗車を見られている事で、これ以上の悪評防止のためにも今はそぉっと過ごしていこうと考えを巡らせていたのだが…
だが俺は気付いてしまった。
薄っすらとガラスに映る少女の表情が酷く官能的なのを。
頬を赤らめ目を
だがよく見れば『
その不快な手技をこらえるように手すりをぎゅっと握りしめた腕は震え、口は一文字に結ばれ
彼女の真後ろに立ったリーマン風の男がお尻を触っているのだ。
間違いない! 痴漢だ!。
中年オヤジめ、若い子が好きなのは判るが、合意があっても公共の場でそう言うプレイはダメだ。
まあ18歳未満の時点でどの道アウトだけどな。
現状、合意のプレイの可能性も微レ存だが(ないない)、悪役に転生した俺としては一つでも善行を積みたい気持ちになっていた。
「すいません!」
と謝罪(威嚇)しながら人混みを掻き分ける。
さながら気分はモーセの海割だ。
「この男性、痴漢です!」
俺はそう言って男性の手首を摑んだ。
「お、俺は無罪だ!」
痴漢冤罪と主張し、逃げる心算だろう。
だがそうはさせない!
「俺は見たぞ!」
「私も」
と想定外に目撃証言の声が上がる。
あれれ~おかしいぞ~
本来なら「証拠は指に付着したスカートかパンツの繊維がある」と言う積りだったのに……なぜか俺の行動一つで証言が集まる。
正義感溢れる人間がこれだけいるのなら、もっと早く少女は助けられていてもいいハズだ。
これがこのラブコメ世界の
まだ断定はできないが留意しておく必要がありそうだ。
「なんだぁお前!? 高校生の癖に大人に言いが掛かりつけやがって!」
と言って容疑を否認する。
「お前ら、押さえるぞ!」
ビジネスマンの男が号令をかけ、周囲の男達が一斉に痴漢に襲い掛かる。
「なんなんだコイツらぁ!? 離せよコラァ!
やめろお前ら! ――っ! あ゛ーもう痛い、痛いって」
「抵抗しても無駄だ!」
「何なんだよお前ら! 俺が何したって言うんだ放せコラ!
辞めろ! 何をする! 俺は知ってるぞ、私人逮捕は厳しいんだぞ? こんなの認められるか! お前ら訴えてやる。
証拠を出せ ゴホッ!」
咳込む痴漢者を捕らえた俺達は、次の駅で痴漢者を駅員に引き渡す。
現行犯逮捕に協力してくれたリーマンやOLの方にお礼を言うと、同じ学校の少女の為に駅に残る判断をする。
「お手柄だったね。
事務所でお話訊きたいんだけど……君、学校大丈夫?」
騒ぎを聞きつけた駅員さんが警察を呼んだようで、俺に話を訊きに来たようだ。
緊張感と達成感でもうヘトヘトで忘れていた。
「あっ……」
「学校にはこっちから連絡しておくから大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
俺と被害者の少女は、駅員、警察を交えて被害を確認するのであった。
解放された時には時間は既にお昼を過ぎていた。
「君達疲れたでしょ? いやー長引いちゃってごめんね……」
年配の警察官は親しみやすい声音で声をかけてくれる。
「嫌なことがあった時にはお腹一杯美味しいモノを食べるといいよ。裸でごめんけどホラ」
そう言って俺達に五千円を差し出した。
「そんな、いただけません」
基本的に黙っていた少女は言葉を発した。
「二人とも同じ制服だろ? 被害者と助けた人間と言う違いはあるけど、同じ事件を経験した仲だ。乗り越えるにはいい関係だとおじさんは思うな……」
二人で顔を見合わせる。
「それに泣き腫らしたその顔じゃぁ親御さん心配するよ?
笑顔とまではいわないけど少しは元気な顔しないと……君にはまだ『裁判』と言う戦いがあるんだから……」
「裁判ですか……」
「勧めるつもりはないけど、和解して慰謝料を取る事も出来る。まだこの事件は終わりじゃないんだよ?」
「……」
「これから戦うためにも美味しいご飯食べないと、ほら『欲しがりません勝つまでは』って言うでしょ?」
「警部、それを言うなら『腹が減っては戦は出来ぬ』では?」
若い婦警さんがドアを開けて現れる。
「お疲れ、被疑者は?」
婦警さんはダメだと言わんばかりに首を振る。
「学校には私から連絡しておくから、今日は二人でご飯でも食べて帰りなさい。痴漢の恐怖は後になってやってくるからね……今日は家族や友達と過ごすといい」
「判りました……」
一足先に部屋を後にする少女を、婦警さんが追いかける。
無音になった部屋にドアが閉まる音だけが響いた。
「さて、
警察ってのはたんなる捜査機関でね、被害者の心のケアにまで配慮出来ないのだよ」
「……」
「十代の少年に頼むのは心苦しいが、彼女にとって君は王子様だ」
「王子様?」
「そう、王子様。ラブコメなんかでヒロインを助けるカッコイイ役、セーラー〇ーンのタ〇シード仮面とか知らない?」
「まあ何となく判ります……」
「あ、そう。ジェネレーションギャップかな……」
警部は少し悲しそうな顔をする。
「君が傍にいてあげることが今できるケアなんじゃないかと思ってね」
「君も嬉しいんじゃないか? あれだけの美少女と食事が出来るんだ。あわよくばワンチャンあると思うよ」
「……」
「冗談だよ。でも出来るだけ傍にいてあげて」
「判りました」
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