イッチャイチャのラブコメを俺に見せつけるんじゃねえ!

赤目

episode1.相合傘(間接キスもあるよ)

 俺––山瀬やませ 海斗かいと、の幼馴染の春樹はるき結菜ゆいなは校内でも有名なバカップルである。


 これはそんなバカップルの、晴れた一日の1話に過ぎない。



「ねえ春樹!相合傘したくない?」


 結菜が俺と春樹の到着と同時に提案する。茶色がかったツインテールがブルンと振られ、花の匂いがかすかに匂う。


「相合傘って……今日晴れだぞ」


 春樹の言う通りだ。それに雨であっても高校の下校時に相合傘って恥ずかしいだろ。てか雨の日にやれよ。


「ダメ……かな……?」


 結菜が上目遣いで春樹に尋ねる。いや、相合日傘とか聞いたことないって。雨の日にやれよ。


「良いに決まってるだろ。傘買ってくるわ。ちょっと待っててくれ」


 何が良いに決まったんだよ。てか置き傘無いのに相合傘すんなよ。もうそのまま帰れよ。雨の日にやれよ。ツッコミどころ多いよ。


 春樹は頷くと同時に財布を持って走って行った。そのせいで結菜と2人の時間が流れる。


「前から思ってたんだけど、2人で帰れば?俺いらないじゃん。付き合ってるんだし」


「ノンノンっ!海斗は分かってないなー。3人の時があった方が2人の時の思いは強くなるでしょ?」


「まあ、一理ある」


 ふふん、とエベレスト級の胸を張りながら鼻を鳴らす。


「それに、海斗がいないとツッコミ役が不在になっちゃうじゃん」


 ボケてる自覚はあったんだな。その上でいうなら、この2人は二つの意味でボケてる。


「買ってきたぞー!」


 近くのコンビニでビニール傘を買ってきたのだろう。全力でこっちに走ってくるが、全く息が上がっていない。流石サッカー部スタメン。


「そんな!いいよ。私が貰ったら春樹くんが濡れちゃうじゃん」


 結菜がパントマイムみたいに手を突き出して、振り始めた。なんか始まったぞ急に。何回も言うけど晴れてんだよ。どうやって濡れんだ。


「遠慮すんなって、結菜が風邪引く方が困る。お前の方が大事なんだ」


 なんだよこの茶番。因みに2人から茶番中の声を出してのツッコミは禁止されてる。わけわからん。


「じゃあ……一緒に入る?」


「いいのか?俺なんかと?」


「ううん。春樹くんがいいの」


 見てるだけで腹立ってくるな。春樹がバッとビニール傘を広げる。そしてニコッと笑ったあと結菜を下に入れ、肩を寄せて歩き始めた。矢でも降ってこねーかな?


 俺はいつも通り2人のすぐ後に続く。いや、流石に今日はいつもより10メートルほど距離を空けている。


 コイツらと同じグループだと思われたくない。恥ずか死するわ。


「おい、結菜、もっと寄れって。肩濡れてるぞ」


 春樹が結菜肩を掴み、自分の方に寄せる。晴れてんだよ。コイツらには何が見えてんだ。


「春樹だって私の方に傘寄せてるじゃん。もっと自分のために使ってよ」


 今度は結菜が春樹の傘の持ち手を、春樹の手ごと掴み、春樹の方へ寄せた。お前らくっつきたいだけだろ。


 さっきから周囲の目線が痛すぎる。当たり前だ。太陽もびっくりするレベルの晴天の中ビニール傘で相合傘してるやつは見せ物以外の何者でもない。


「ばっか、前隠せよ前」


「うわっ、春樹くんのエッチ!見たでしょ」


 雨で女子の制服透けるやつあるけど!雨が降ってないの!!晴れてんだよ。


「ピンクッ……」


 色言うなよ気持ち悪い。仮にも彼女だろ。


「ざんねーん!白でしたー!」


 残念なのはあんたの頭だ。んでもって白いのは頭の中だろ。あと当てずっぽで色言うなら当てろよ。


「てかいつもと道違くない?」


「ごめん……もっと2人でいたくて……」


 いや、いつもの道です。なんなら今日朝、3人で一緒に登校しました。


「もう……」


 頬を赤らめながら結菜が春樹に一層近づいた。


「可愛い結菜にも惹かれるよ」


 俺はそんなこと言える春樹に引くわ。んで轢かれろ。そんなこんなでだいぶ家まで近づいてきた。


「ねえ、間接キスしたくない?」


「分かる。今間接キスしたい気分」


 どんな気分だよそれ。んで、君らしょっちゅうキスしてるだろ。キルしちゃうぞ。


「よし、水買うか」


「いや、ちょっと待て!!なんで水?!普通はアイスのスプーンとか、あったかい飲み物とかじゃん!!なんで水?!」


 驚きのあまり声が出てしまった。歴史上初だろ。水で間接キスしたがる奴ら。


「でも水じゃないと間接キスの味が薄まるだろ」


「そうだよ。意味ないじゃん」


 なんだよ間接キスの味って。しっかり気持ち悪いのやめろ。ツッコム暇もなく春樹はお金を入れて水を買う。


「まずは俺から飲むか」


 ゴクゴクゴクと喉を鳴らしながらペットボトルの水が消えてゆく。待て、まさか全部飲まないよな。ちょっ……。


「あっ……全部飲んじゃった。さっき走って喉乾いてて……」


 バカだろ。ただの給水じゃん。


「別にいいよ!貸して!」


 飲んじゃったら水じゃなくても良かっただろ。というか流石に空のペットボトルを口につけるのは犯罪者気質すぎ。


「でもそれ俺のっ……」


「なに?春樹くんはこういうの気にするんだ。私は気にしないけど?」


 どんなシチュエーションだよ!中身空なんだよ!晴れてんだよ!何なんだよもう!!!頭おかしいだろ!

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