掌編「出会わず終わるバトル」
互いに姿を見せず、遠くから相手を先に発見し、一発で仕留めようとするからだ。
引き金を引き、外せば、すぐに移動。
相手も移動する。互いの居場所がリセットされ、それが繰り返される。
集中力が先に途切れた方が死ぬのだ。……数日どころではなく、仲間からの支援があれば、その殺し合いは数か月にも及ぶこともある。いや、年単位だろうか……。
あるひとりの狙撃手は、既に一年も、相手とかくれんぼをしている。
だが、半年前から相手を発見できていない。
……もう死んでいる? だが、手応えはなかった。
気になるが……かと言って顔を出せば、その瞬間に撃ち抜かれ、殺されるだろう……。
一瞬の気の緩みが、あっという間に死へ繋がる。
鬼気迫る集中力の中、男は敵を探し続け……今日もまた、日が暮れる。
敵は、顔を出さなかった。
疲弊した男は、銃を構えながら意識が落ちていた。
朝――、気配を感じて振り向けば、同僚の男がいた。
「おはようさん」
「あ、ああ…………焦ったぜ、敵が俺を見つけたのかと思ったじゃねえか」
「もしそうなら撃ち殺されてるだろ。こうしてわざわざ背後を取った上で近づく手間をかけるわけがない。相手はお前と同じ狙撃手なんだから」
「それもそうか……支援か? 毎度、悪いな……」
「いや、支援は打ち切る。悪いがここまでだ」
「は? ……待て、一年もここで戦っていたんだぞ!? 最後まで、決着まで、俺は――」
「もう相手は死んでるよ」
「な、に……?」
どうやら男の銃弾が、相手の頭を撃ち抜いていたようなのだ。
……だが、撃った本人に手応えがまったくなかった。遠隔なので手応えなんて本来はないが、感覚で、なんとなく数百メートル先の相手に弾丸が当たったことくらいは分かるものだ。
命を奪ったなら、尚更だ……だが、半年間、それがなかった。なのに、いつ死んでいた……?
「それこそ半年前にはな。跳弾――、偶然だよ。そりゃ、お前が手応えを感じなかったのも仕方ないな。お前も敵も、想定していなかったあり得ない角度の跳弾で、敵は死んだ。だからお前は半年間、いない敵を求めて探し、集中していたわけだ。
そんなお前に支援を続けるのは意味がない……無駄になるだけだ。だから帰るぞ」
「…………そう、か」
呆気ない終わりに、ガッカリした男が立ち上がる。
跳弾……くだらない終わり方をしたものだ。相手は同格の狙撃手だった……、磨いた技術で討ち取り、もしくは討ち取られたかったが……それはもう叶わない。
「……すまなかった、最高の
屋上から立ち上がり、敬礼をする男の眉間が撃ち抜かれた。
油断をした男が、あっさりと命を奪われた。
倒れた男のすぐ傍で、同僚の男が無線機を取り出す。
「――……あー、こちら『スパイ1』……任務完了だ」
『感謝する。半年間、支援もなく息を潜めるのはさすがに骨が折れた……尻尾を出さないことがここまで苦痛だとは……二度とやりたくない戦法だな』
「長期戦、お疲れ様。それじゃあ、私は別の任務に戻るぞ」
『ああ。ご苦労だった――「……こちらこそ、感謝するぞ、好敵手」』
良い経験になった、と、遥か遠くの狙撃手が呟いた。
…了
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