クソゲーな設定の内容を1から塗り替えろ、三十代おっさんの漂流記 ─売れないゲームライターが異世界でチートプログラマーに─

ぴこたんすたー

EPISODE1 ゲームライターとプログラミング

第1章 クソゲーな世界へようこそ

第1話 苦くて辛いブラック企業だ

『カタカタカタ……』


 節電のためか、暗い部屋にて、黒と灰色を基調としたビジネススーツを着た、数名の人物が生み出す、無機質な音。

 それはデスクに備え付けてある、PC(デスクトップパソコン)からのキーボードを叩く音でもあった。


「おい、如月きさらぎ君。忙しいところ悪いが、ここの記事も、ついでに仕上げといてくれ」

「またですか、鷹見たかみさん。今、何時と思ってるんですか。この分じゃ、終電に間に合わないんですけど?」


 如月朔矢きさらぎさくやという、見栄えの良い氏名を持った僕は、椅子の背もたれに身を預け、面倒くさい目で上司を見る。

 この鷹見猛たかみたける上司は部下に仕事を押しつけて、さっさと家に帰る、嫌な上司タイプ。


 正直、相手にしたくないけど、仕事として関わらないと工程が進まないし、会社の空気もギスギスしてやり辛くなり、仕事にも支障が出る。

 お互いの信頼関係にも繋がるし、ここは大人な対応で受け流すしかない……。


「まあまあ、如月君は仕事が早いし、臨機応変に動いてくれる。ウチの会社では鼻が高い存在だよ」

「だからね、一生のお願い」


 鷹見上司がバーコードな頭を下げ、両手を合わせ、精一杯なお願いをしてくる。


「むう、分かりましたよ。その書類下さい」

「ありがとね」


 ほんと、この上司は人の弱いところをつく。

 性格上、頼まれたら断れない僕は、頬を僅かに膨らませながらも、鷹見上司からプリントの束をいただく。


 このデジタルな時代に、紙の書類の山だなんて、ここの会社はどうかしてる。

 どうせ要らなくなったら紙くずとなり、理不尽にお金がかかるゴミが増えるのに……。


「はあ、またこの手のゲームと来たか」


 ここに勤めて、早三年。

 僕は田舎から上京し、この都内に移り住んだという、今どきでは珍しくもない若者だ。


 そうやって若者だと言いたいところだが、実年齢は、この前の誕生日で30を迎えた。

 世間で言う、おっさんの仲間入りである。


 おまけに冴えない顔つきだし、ちょっと小太りだし、背も低いし、特にモテるような風貌でもない。

 だが、昔からゲームをプレイすることと、文章を書くことが好きで、よくクリアした後に、ゲームの感想をネットの掲示板に書き込みしていた。


 その学生からのゲームと、文章好きというオタクを活かし、高卒後、進学もできずに浪人し、数年間のフリーターからの情報を掴んで飛び込んだ会社、それが、このゲームライター会社『パーフェクトワンダーバードノベル』、略してパワバだ。


 このパワバに入社し、何もかもが恵まれた環境で場数を踏み、億万長者になるのが夢だった。


 だけど現実は甘くなく、土日祝出勤、毎日残業あり、人間関係最悪、さらに高卒だから最低賃金プラス安月給と、何でもありなブラック企業だった。 

 まあ、大卒と比較しても、1万程度しか給料は変わらないが、税金を天引きされてる納税者として、あると無いではえらく違う。


「しかも、それだけじゃないんだよな……」


 僕はPCの本体にゲームハード『プレスギ6』を配線接続し、手元のVRゴーグルを頭に装着する。


 ハードに取り込んだ、ゲームのブルーレイディスクの名前は『トンデモナクエスト10』

 発売直後からSNSを中心に、ゲーマーの間ではいわずと知れた、迷作のRPGである。

 何が迷作かというと、このゲームはトンデモナクエスト上、史上最悪なクソゲーだからだ。


 だったらどうして、低評価なのにプレイするのかって?

 これが、この会社の仕事だからだ。


 こんな弱小企業の会社じゃ、元から儲けの少ないゲームをレビューにして、お金を得るのは常識だ。


 売れないクソゲーを記事に書いてもらうのに、普通に儲けてる会社だと、記事にしてもらうだけでも、多額のお金を請求される。

 それに元がクソゲーだと、いくら丁寧に上品に良いように文章を並べても、巷ではクソゲーと分かってるから、見向きもされない。


 だからこういう安請け合いのできる企業に、クソゲーの記事の依頼が次々と舞い込むのだ。


「さて、ここまで叩かれたゲームなんだ。簡単に攻略してみせるなよ」


 深夜0時を指そうとしてるのに、ハイテンションな僕。

 そんな僕の頬に、冷たい人工物の感触が伝わる。


「ひゃふっ、未知の生物!?」

「あははっ、ごめんねw」 


 僕はVRゴーグルをずらして首にかけ、幼い甘い声(アニメ声)がした先を目で追う。


「あれっ、もしかして、鶴賀浜つるがはまさん!?」

「うん、そうだよ」

「今日は、もう帰ったのでは?」

「馬鹿ね、後輩がこうやって頑張ってるのに、帰宅するなんて良心が痛むわよ」


 年齢は20代後半。

 隣のデスクの椅子に遠慮なく座った、黒いロングヘアの清楚系な美少女で、ナチュラルメイクが眩しい、鶴賀浜麻衣つるがはままい


「ううっ……」

「ちょっと何泣いてるのよ。男の子でしょ?」

「だっ、だって、僕の周りの社員は、みんな他人事だと知らぬフリで、速攻で帰宅して……」

「何言ってんの。そんな根っから冷たい人なんて、ここにはいないわよ。みんな色々と事情があって、忙しいのよ」


 この娘は若いわりには考え方が大人だなと思いながら、果汁入りの炭酸ジュースを受け取る。

 缶はキンキンに冷えていて、自販機じゃなくて、予め冷蔵庫に入れてたんだなと……。


 ほんと素直で、いい子だよな。

 もしもこの身が彼女と対等に若かったら、是非とも、嫁にほしかったよ……。


「ねえ、記事の方は順調?」

「ううん、これからゲーム世界にダイブするところ」

「そう。もう夜も遅いんだから、あまり根を詰め過ぎないでね」

「ううっ、その優しさが身にしみる……」

「おでんかよw」


 鶴賀浜さんがデスクにひじをつき、大きくため息をつく。

 僕はそれが悪態だったとも知らずに、予備のVRゴーグルを彼女に手渡した。


「これは何のつもりよ?」

「いや、よければ一緒にダイブしてはどうかなと。第三者の意見も参考にしたいし」

「はあ? 何なの、いきなり変なこと言い出して? あなた、頭どうかしてるの?」


 まあ、予想はしていたけど、それが普通の女の子の反応だよね。

 恋人でも夫婦でもないのに、協力プレイは気が引ける。

 顔見知りの知り合いなら、なおさらだ。


「まあ……私は仕事は済んだから、息抜き程度ならいいかしらね」

「へっ、今なんて?」

「だから、このゲームに付き合ってあげるって言ってんの。何度も言わせないでよ」


 僕は正直、自分の耳を疑った。

 冗談で言ったつもりが、相手には通じずに、勝手に勘違いして、答えを口に出しているんだ。

 置かれた環境がゲームでも、一緒に付き合うとか言ってるし……。


「ほらっ、さっさとゲームの電源入れてよね。か弱い女の子を、いつまでも待たせるもんじゃないわよ」

「あっ、はっ、はいっ!!」

「アハハ、何、ガチで固くなってるのよ、ウケるーw」


 僕はVRゴーグルを頭に付け直し、ゲーム本体の電源を入れる。


 さあ、クソゲーよ。

 思う存分、楽しませてくれよな。

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