夢を見て生きる。
三国 心
1話、夢を見ることだけが。
「りつくん、今日もありがとう。」
私は夢を見ている時間が一番が好き。
楽しいことも悲しいことも、どんなことも肯定してくれる。
「私ね、ずっと夢の中に居たい。」
そうしたらずっとりつくんと一緒に居られる。
辛い現実と向き合わなくて済む。
私もこの世界の住人だったら良かったのに。
「僕も一緒に居られたらいいのにと思ってるよ。」
いつものように欲しい言葉をくれるりつくんに安心して、私は夢の中でも眠りについた。
***
頭の良さも、運動神経も、平均くらい。
友達は居るけど、人に自慢できる特技もこれといって無い。
だけど、少し珍しく人に言えないことを経験している。
私は最低週に一回、多い時は毎日、夢を見る。
しかも、出てくる人や空間が同じもので、小学三年生から今までずっと続いている。
公園のような遊具のある場所で、りつくんという男の子が登場する。
私がりつくんと付けた訳ではなく、本人が自分のことをりつと名乗ったから、りつくんと私は呼んでいる。
りつくんは、サラサラな黒髪で私より少しだけ身長が高くて、歳は同い年で小学三年生からずっと一緒に成長している。
声変わりしていないような高い声で、いつも私を肯定してくれている。
そんなの、恋をしない方がおかしいと思う。
小学三年生からずっと私は好きだけど、夢の中の人間に恋をするなんて普通じゃないと思うから。
このことは、誰にも言えない。
りつくんにだって言えない。
夢の中だから。私の望み通りの返答が返ってくるかもしれないけど、それだけしかない。
私はそれ以上の夢を見れない気がする。
でも、りつくんのこと、もっと知れないかな。
あわよくば、夢の中で生きる方法はないかな。
そんなことを考えながら、ベッドに横たわっていた。夢を見る前の、夜の時間。
リビングの方から大きい物音が聞こえてきた。
私は、またか、なんて思う。
母親と二人暮らしを始めて、もう七年が経つというのに、母はずっと情緒不安定だ。
小さい子供みたいに筋の通っていない訳の分からないことを言い出したり、今みたいに物に当たったりする。
物に当たるだけならまだ良いが、私に当たってくることもある。
母にとって自分は人間じゃなくて物なのかもしれない。そう思う時もある。
けれど、母にとっての自分を考え出してもキリが無い。
聞こえ続けていた音が消えて、身の危険感じたので、自分の部屋の電気を消してベッドに潜り込んで、息を潜めた。
ベッドに潜り込んでも寝てても母はお構い無しにやってくる。
そして、大体は、
「お前のせいで」「お前が居なければ」
と言いながら私に痛みを感じさせる。
少し沈黙のあと、ドカドカと大きな足音が聞こえて、勢いよくドアが開く。
ほら、今日も来た。
「お前、何寝てんだよ!」
布団越しだとはいえ、痛みは感じる。
「呑気に寝やがって!」
母の声と布団を挟んで来る衝撃の音が頭でいっぱいになる。
「お前のせいで私は不幸なんだよ!」
仰向けだと痛みが来る瞬間が分かってしまうので、うつ伏せになるのが癖になった。
「お前はゴミ以下だ!ゴミですらない!」
起きてても寝てても何かを言われるなら、じっとしていた方が早く終わる。
「立てよ!おい!眠ってんな!」
だから、声を出さないように我慢する。
避けもしないように、目を瞑ったままでいる。
「何でのうのうと生きてんだよ!お前のせいでこっちは散々だっつーのに!」
変だと思う。でも止められない。
どうにもできない。耐えるしかない。
「お前なんか生まれてこなきゃ良かったんだ!」
「お前は私を不幸にさせる!」
「さっさと居なくなれよ!」
「お前みたいなやつ、早く死ねばいいのに。」
一頻り、それが続いた後、何かの捨て台詞を吐いた母は部屋を出ていった。
やっとの思いで、目を開く。
部屋に出ていく前の言葉は、大声だった割に聞き取れなかったけど、別に大したことは無い、いつも通りの罵声だろう。
私は身体中の痛みを無視して、今日も夢を見れますように。りつくんに会えますように。と願ってまた目を瞑った。
お母さんを居ない世界で生きたい。
だから、夢の中だけで、私は幸せになれる。
お願い、りつくん。私を夢の中に連れて行って。ずっと一緒に居させて。
私、幸せになりたいの。
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