本人が知らないところで、何か進行中?
テロリストの鎮圧を終え、特務課と警察に後を任せて、カナタは本部へ戻った。
「カナタちゃん調子はどう?」
「うーん、前より良くなったかな?」
「どうしてそう思うの?」
レインがカナタに問いかけると、カナタはうーんとうなってから手をたたく。
「なんか、こいつら全員ぶちのめすー自分がぼろぼろになっても立ち上がって一人残らず倒してやるー!! 無くなったんですよね。普段もそういうのがたまに出てきて敵はどこだ!! って神経がピリピリしてたからそれが無くなって調子は良い感じかなぁ」
カナタの言葉を聞いて、レインはある言葉を口にする。
「寝てる時、家族以外の誰かが立っているようなことってなかった?」
「え、何で知ってるの。うん、それがあって起きたらそういうのが無くなってた」
「それは本当か?」
ディオンとアルビオンが急に姿を現してカナタの肩を掴んだ。
「う、うん」
「ディオン」
「分かっている」
「ちょ、ちょっと二人とも」
レインが二人をたしなめようとするが全く聞かない。
「カナタ」
「なんじゃらほい」
「俺の目を見ろ」
「目?」
カナタは茶色の目で、ディオンの吸い込まれるような闇色の目を見た。
カナタの目の色が深い青い色に変化する。
静寂がその空間を包む。
カナタの体がぐらりと倒れそうになり、アルビオンがカナタの体を支える。
目は元の茶色に戻っていた。
「ちょ、ディオン!? カナタちゃんに何したの?!」
「通常より深く情報を見ただけだ、大丈夫か」
「う゛ー……なんか頭がぐわんぐわんするー……」
「すまない」
「次からは一言いってー」
カナタは目と額を抑えながら言う。
「目もぐるぐるするー……」
「医務室に連れて行こう」
「頼む」
アルビオンがカナタを抱きかかえると、部屋を後にした。
「……で、どうだったの?」
「奴だ」
ディオンは声に怒りを混ぜながら言った。
「……あの御方か……」
レインはやっぱりかと言わんばかりの表情をした。
「奴は何をしたい」
「……私にはさっぱりわからないわよ」
「それは嘘だな」
ディオンはレインを睨みつけた。
「……そうね、嘘。あの方はね可能性を探してるの」
「可能性?」
「そう可能性をね、人がより輝く可能性を探し続けているの、そしてその可能性を多分カナタちゃんに感じたの」
「今度近づいているのを見つけたら殺してやる」
「今の貴方じゃまだ無理よ、言い間違えた、今の貴方たちじゃ無理ね」
「……」
「あの御方の望む高見にはまだとどいてないのよ私達は……」
「……俺たちは奴の実験動物という事か」
「違うわ、あの御方は、形はどうあれ私達を愛しているもの」
「……」
レインの言葉に、ディオンは不服そうな雰囲気を出す。
「……そこまで不機嫌にならないの、貴方たちがお気に入りの子にまで手を出したのはちょっと問題かもしれないけど、あの御方が何かしたから彼女の調子は良くなったんでしょう?」
「それでもだ」
ディオンはそう言うと言う事はもうないと言わんばかりに背を向けて部屋を出て行った。
「うー……」
カナタは濡らしたタオルを目に当てて、ベッドの上で横になっていた。
アルビオンがそれをじっと見守っている。
「……ねぇねぇ、なんだったのアレ?」
ベッドに横になったまま、カナタは壁に背を持たれているアルビオンを見て問いかける。
「調べていた」
「何かされたとか?」
「そうだ」
「どうだったの?」
「……お前は深入りしないほうがいい」
「……わかったそうする」
カナタは答えは得られなかったが納得した。
何か問題を抱えているのだろうと、思ったのだ。
それに土足で踏み入るような考えは起きなかった。
頭がぐらぐらして、目もぐるぐるして気持ち悪い状態になったことにだけは文句を言いたいが。
個人用の医務室のドアが開く音がした。
「カナタは?」
「横になっている」
「頭がぐーらーぐーらーすーるー、目がぐーるーぐーるーすーるー」
こうなった原因を作ったであろう人物が入ってきたのが声で分かったカナタは遠回しに文句を言う。
「すまない」
頭に手を当てられる。
「うーん」
少しばかり頭がぐらぐらしている感覚と、目がぐるぐるしている感覚が治まる。
「どうだった」
「当たりだ、だが次の場所までは分からなかった」
「やはりか」
タオルをちらりとどければ、アルビオンとディオンが話しているのが見えた。
「……とりあえず私になにか悪いの起きたとかはないー?」
「それはないから安心しろ」
「うーん……私どうなるのかな……?」
「どうなる、とは?」
「……仕事時でもやっぱり怖かったんだ。『こいつらは敵だ、殺せ。四肢が無くなろうと再生する、頭をつぶされようと再生する、どんな傷だって再生して、お前たちを殺してやる』……って感情で一色になりそうなのが結構怖かった。だから無くなって逆に怖くなって安心した」
「「……」」
ディオンとアルビオンは無言でカナタの言葉を聞く。
「あの感情が多分私の能力の根幹を指しているんだと思う。それが恐ろしい、今まで殴り合いとかしたことないとは言わない、でもこの感情は明確に殺意だから怖い。『何故殺さない、こいつらは敵だ、殺せ!』って感情が膨れ上がるのを抑えるのが本当辛かった。殺すのが怖いのに、うるさいのが止まなかった」
「……だが、君は殺さなくていい」
「……子どもだから?」
ディオンの言葉に、カナタは問いかける。
「……君の心が殺すのを拒み続ける限り、そのままでいい」
アルビオンも口を開いた。
「……お兄さん達って不思議な人ね、まだ仕事付き合いでそんなに経ってないのに私のこと気にするなんて……」
「……」
「……君は休め、色々考えていると休めない」
ディオンがそう言ってタオルを取り、カナタの両目を手で覆った。
ひんやりとした感触が伝わってくる。
「手冷たいね、冷え性?」
「かもしれんな」
「……だったら冬カイロわけてあげるね、うちにたくさんある……」
最後まで言う前に、カナタは眠気におそわれ、そのまま眠ってしまった。
「……眠ったようだ」
ディオンはそう言って手をどけ、カナタの黒髪を撫でた。
「お前ばかりあまり触るな」
アルビオンが少し不満げな顔をして言うと、ディオンはカナタの頭から手を離した。
「……すまん」
「私はお前のような能力はない、だからお前が羨ましい」
「お前は俺とは違う能力がある、そこを誇れ」
ディオンの言葉に、アルビオンは少しうつむき、その後顔を上げた。
「何故、同じ父、同じ母を持ちながら――」
「私とお前はこれほど違うのだ、双子なのに――」
カナタが起きたとき、ディオンとアルビオンは居なかった。
カナタはベッドから降りると空間転移して、自宅へと戻る。
「ただいまー」
「お帰りなさい、今日のごはんはお鍋よ」
「うん、食べる」
母親の声を聞いて少し安心したような表情を浮かべて食堂へと向かう。
テーブルの上には鍋があり、色々な具材が入っていた。
「おいしそう」
「たくさん食べなさい」
「はーい、いただきます」
カナタは鍋の具をよそって食べ始めた。
食事を終えて風呂に入り、自室に戻ると宿題に手を付ける。
机に向かい、宿題とにらみ合う。
頭に答えが浮かび、手が勝手に書いてしまう。
しばらくそれを続けると、宿題は終わっていた。
念のため見直すが、これ以外の答えが思い浮かばなかった。
「……これも能力の一つか?」
カナタは深くため息をついて、明日の準備をするとベッドに横になった。
ベッドに寝転がり、ふと横を見た。
黒い影が見えた気がした。
「……気のせいだな」
カナタは布団を被って電気を消して眠りについた。
カナタが眠っていると、黒い影が再び現れた。
カナタに手を伸ばし、額に触れる。
しばらくそうしてから姿を消した。
「……遅かったか」
「そのようだ」
ディオンとアルビオンが姿を現す。
「奴の企みはなんだ」
「分からない」
アルビオンが首を振ると、ディオンはカナタの額に手を当てた。
「……だめだ、読み取れん、かなり深いところに手を出したようだ」
「……戻ろう、カナタが起きるかもしれない」
「ああ」
ディオンとアルビオンはその場から姿を消した。
カナタは何も知らず、穏やかに眠っていた。
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