衝撃の事実に卒倒する、そして知らないうちに何かが進む
カナタは疲弊していた。
ここ最近こき使われ続けているからである。
強盗を鎮圧。
テロリストの鎮圧。
反覚醒者の集団の集会の解散。
等々。
反覚醒者の集団はすさまじい攻撃をしてきたので、カナタは大声で。
「EXランクの奴が来てお前ら全員監獄ぶち込むかもしれないんだぞ!! そうなりたくなかったら帰れ帰れ!!」
と怒鳴り散らした。
集団や集会は基本的禁じられてないこの国でも。
反覚醒者の集団と集会は禁じられている。
何故なら、それを知られると100年以上も昔にこの星を全体氷漬けに近い状態にした覚醒者が姿を現し周囲に被害が発生するのだ。
その被害はいつも酷いものになる。
だから、反覚醒者を公言するのは自殺行為に近いのだ。
その被害を出さない為に、反覚醒者の集団と集会はすぐさま解散させなければならない。
無関係の人間の被害がでないように。
こういう精神が疲弊する仕事ばかりだった。
「私の人権どこいったー!!」
カナタは自室でじたばたと暴れた。
しばらくベッドの上でじたばたと暴れてからすんっと起き上がる。
「文句言いにいってやる」
空間を移動してレインのいる場所に向かう。
目的地につくと、カナタは苛立った顔をあらわにしたまま顔をを上げる。
「レインさん!! ちょっと仕事の話なんだけど……!?」
レインの前に黒衣を纏った存在がいた。
一人は黄金色の長い髪の中性的にも見える容姿の存在、もう一人は――
「あ、この間の真っ黒なお兄さん」
思わず声が出た。
「そうねぇ、真っ黒だもんねディオンは」
レインは楽し気にそう言う。
「って、そうだ。 レインさん!! 私に任せる仕事多すぎない?! いや多いよね絶対!! 私の事こき使ってるよな?!」
「あら、バレた」
「この人悪びれもなく言いやがった!!」
「……いやね、EXランクはそこそこいるんだけど動かせるようなSランクはあんまりいなくてねぇ。カナタちゃんならEXランクになっても動かせるからこき使っていこうかなって、大抵のEXランクはこの二人みたく動かせないからねぇ」
「え、そこの金髪のお兄さんと、真っ黒なお兄さん、EXランクなの?」
カナタが目を丸くすると、レインは微笑んだまま口を開く。
「そうね、紹介させてもらうわ」
レインがそう言うと、二人は振り返ってカナタを見た。
「金髪のお兄さんはアルビオン、真っ黒なお兄さんはディオン。どっちもこのドミニオンの古参で貴方に振るのが難しそうな仕事をふったり、まぁ色々してるの」
「……なるほど」
カナタは納得したような顔をしてから首を振った。
「ちょっと待って、総合するとここ、通常時に動かせる人材不足なの?!」
「うん、そう。危険時ならいくらでも動かせるんだけど、そうじゃない時は動かせない時が多くてね」
「……危険時ってどんな?」
「そうねぇ、四年前に起きた……世界規模の覚醒者テロ事件――別名『レイヴン事件』とかの時とかかしらねぇ」
「……その事件って、国滅んだとこもあったあの?」
「うん、私のところで戦闘に出せる人材は全て出したんだけどそれでも被害が酷くてねぇ……」
カナタは四年前の事を思い出す。
中学生になりたてだったカナタ時の事だ。
自分の地域では大規模な地震が起きたのだ。
地震は割と起きる地域だったが、ここまで大規模なものは今までなかった。
幸い耐震性の高い家が多かった為、崩れるような家は少なかった。
その大地震を起こしたのは「レイヴン」という犯罪組織の覚醒者というのがニュースになった。
組織の名前を取って「レイヴン事件」と呼ばれたのを覚えていた。
大国で、覚醒者対策をとっているような国では甚大な被害が出たのを放送された。
今も傷跡が残っているので、ニュースになったりしている。
そしてその首謀者――「カラス」とも「レイヴン」とも呼ばれるリーダーがいるのだが、そいつは行方が分からないという状態だった。
「首謀者がどこいるか分からないからまた起きる可能性が高いのよ、後それに……」
「それに?」
「100年前、この星を丸ごと冷却させて場合によっては凍らせたEXランクの覚醒者がいる、ここに所属してくれない問題児がね。そういう危険人物の監視とかもしなきゃならないのよ」
「げ」
カナタはレインの言葉に顔をひきつらせた。
相当厄介な組織に入らされたと今更ながら気づいたのだ。
「ちなみに、その覚醒者が行動した場合EXランクぶつけるよりSランクぶつけた方が説得聞いてくれるから、カナタちゃんにお願いするわね」
「はぁあああああ!?」
泣きっ面に蜂、とはこのことである。
「私の! 人権は!?」
「……覚醒者になった時点諦めてね? 選挙権とかはあるけど、カナタちゃん個人の自由とかは結構無視されることになるから」
「うーわー!! やってらんねー!!」
「ほらーきれーなおにーさんがいるから頑張って」
「そんなのよりも休暇をよこせ!!」
レインの言葉に噛みつくようにカナタは言った、するとレインは目を丸くした。
「おっかしいなぁ、今まで女の子ならこれでほとんどOKだったんだけど……」
「知らんわ!!」
絶世の美貌を目にしてもカナタの意志は硬かった。
仕事なんかしたくない、休みがほしい。
できることなら今までの生活に戻りたい。
カナタの表情を見て、レインは苦笑した。
「でもごめんねー、カナタちゃんのその意見は聞いてあげられないのよー」
「マジやってられんわ!! 私の人生返せ!!」
「それはあのバス襲撃犯に言ってねーもう、永久監獄の中だけど」
「うわー畜生ー!!」
カナタは心の底から覚醒者になってしまったという事実が嫌になった。
「あと、カナタちゃん……もう一つ酷なんだけど……」
「私にこれ以上とどめを刺す気かアンタ!!」
「カナタちゃんEXランク級のSランクだから、例にもれず一定の年齢に達すると歳を取らなくなって中々死ねなくなるから」
「ちょっと待ってそれって……」
「まぁ、死ぬことあるけど、基本不老不死に近い状態になっちゃったってこと」
カナタはその言葉に卒倒した。
「カナタちゃん?!」
レインのその言葉が遠くに聞こえた。
――待てよー……つまり婆様や兄貴達や母ちゃんとかの事見送って一人で生きていかなきゃならないのか……?――
――無理無理、寂しくて生きるの辛い……友達もみんな私置いて死んでいくんじゃん、ぼっちなんて無理だ、なんでこんな人生になったんだ?
――嫌だぁ……――
カナタがうっすらと目を開けると、美丈夫という言葉では現せられない程美しいすぎる男二人が自分の顔を覗き込んでいた。
「目を覚ましたようだな」
「レインを呼ぶか?」
黒い髪の男の方が額に手を当てた。
「――いや、今呼ぶとヒステリーを起こすだろう」
「しばらくこのままにしておくか」
何かを話しているが、頭がぼんやりして話が頭に入ってこない。
とんでもない情報を大量に気を失う前に頭にいれられて、とんでもない言葉と、それから起こることにショックを受けて気を失ったのは覚えている。
「お前が気にするとは珍しい」
「お前もだ」
「……起きなきゃ……帰らなきゃ……お母さんたちいなくなっちゃうのヤダ……」
ぼんやりとした頭で口にする。
――独りぼっちは嫌だ――
黒い髪の男がカナタの瞼に手を当て、目をつぶらせた。
「今は休め」
そう言われると、眠気がやってきてカナタはそのまま深い眠りに落ちた。
カナタが眠りに落ちると、ディオンとアルビオンは二人ともそっとカナタの手に口づけを落としてやる。
「……独りにはならん」
「ああ、私達二人のだ」
そう言って二人は個人用の治療室から出て行った。
「……起きた?」
治療室から二人が出ると、レインは二人に尋ねた。
「……眠っている」
「起こさないでやってくれ」
ディオンとアルビオンはそう言うと、その場を後にした。
「……あの二人があそこ迄興味を持つって……カナタちゃん、何者?」
レインは不思議そうに、顎に手をやって考えるポーズを取る。
「……覚醒者になる前は普通の家の子だったそうだし、もしかしてあの二人一目ぼれかしら? おやおや、今頃思春期かしら~~? お姉さん楽しいわ~~」
レインは愉快そうな顔をしてその場から離れていった。
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