休暇は突然に

「えっ、今日はおやすみですか?」


「ポメッ!?」


昼休みになって屋上に召集されたシトラスとキルシェ、そしてポメポメは思わぬ報告を受けた。予定されていた放課後の合同訓練が中止となったのだ。


「ロゼお嬢様と交流のある方が出演されるコンサートが本日予定されていたのですが、今朝になってその方が体調を崩されて出演できなくなったのです」


「それで、代わりに出演出来る奏者をスタッフの方が探されていて……」


「ロゼ先パイに声がかかったんですね!さっすがー!」


元々ロゼのファンだったキルシェは、興奮気味に言う。どんな経緯であれ、ファンにとって推しが活躍できる場があるというのは喜ばしいことなのだ。


「でも……大変ですね。当日にいきなり本番で演奏なんて」


心配そうに言うシトラスに、ロゼは大丈夫よ、と首を横に振る。


「これでも場数は踏ませていただいているし、こういうことは時々あるの。出る予定だった方には、デビューする前から色々と助けていただいたから……」


その恩がある以上、断るわけにはいかないらしい。


「……わかりました!頑張ってください!」


「会場には行けないけど、あたしたち応援してますからっ!!」


シトラスとキルシェが激励の言葉を送ると、ロゼはありがとうと言って微笑んだ。


「師匠もロゼと一緒に行くポメですか?」


ポメポメはシトラスの肩から顔を出し、レオンにそう尋ねた。


「ええ。私はロゼお嬢様のマネージャーも勤めていますので、ご一緒させていただきます」


執事だけでなく、バイオリニストとしてのロゼのマネジメントもレオンの仕事らしい。そうなればロゼの公演に同行するのは当然の事だろう。


「ポメリーナを代わりの講師に……とも考えたのですが、皆さんにもプライベートはありますし、時には休息も必要です。なのでロゼお嬢様と話し合って、今日は丸々オフにし、後日皆さんの都合の合う日に合同鍛錬を行うという形にさせていただきました」


なるほど、と三人は納得した様子で頷く。

ポメポメはこれを聞いて内心ホッとしていた。


(シトラス、最近毎日のように練習漬けだったポメ……やっと休んでくれるポメ)


ここ最近のシトラスの様子が気がかりだったポメポメはほっと胸を撫で下ろす。これで一旦落ち着くことが出来るだろうし、ポメポメ自身もゆっくり休むことができそうだ。


「そういう事だから、今日は二人とも思い切り羽根を伸ばしてゆっくりするといいわ」


そう言ってロゼが微笑んだところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。学年の違うロゼと別れて、シトラスとキルシェは自分たちの教室に向かって歩き出した。


「ねね、シトラス!今日ヒマ……だよね!練習無くなったし!」


「えっ?う、うん……」


廊下を歩きながら突然そんなことを言い出した友人に対し、彼女は驚きながらも首を縦に振るしかなかった。


(ほんとは、今日も自主練しようかなって思ってたんだけど……)


あれから合同訓練までに何とか挽回したいと毎日欠かさず練習を続けていたシトラスだったが、結局まだ結果を出せていない。合同訓練が中止になったと聞いたシトラスは内心、また練習出来る期間が延びたと考えていた。


「その顔、さては今日も自主練しにいくつもりだったでしょー!?」


図星である。思わずギクッとして固まる彼女の様子に苦笑しながらも、キルシェはその肩を軽く叩いた。


「たまには息抜きしないとダメだよ?ずっと頑張りっぱなしだと疲れちゃうでしょ?」


「キルシェの言う通りポメ。シトラスは最近頑張り過ぎポメよ?少しくらい休んだ方がいいポメ」


「ポメポメまで……」


二人がかりでそう言われると何も言い返せない。確かに最近は根を詰め過ぎていたかもしれない。



(一日くらいはいいかな……?)


心の中でそう思い直し、シトラスは小さく頷いた。

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