第2話 アクアリウム・パニック

真夜中の密談

夜明け前の静けさが広がる暗闇の中、シトラスの住むアパートの一室のリビングからは薄明かりが漏れていた。


ソファの上にちょこんと座るポメポメの目の前には、ホログラムのような立体映像で美しい女性の姿が映し出されている。白地に金色の装飾が施された神々しいドレスに、やや赤みのある黄金色の長い髪。美しさと同時に、慈愛とも威厳とも取れる独特の雰囲気を漂わせる表情。



彼女こそが魔界と対をなす天界の長であり、魔界の侵略から人間界を護るためにポメポメを使者として人間界に送り込んだ存在─女神だ。


 


『そうでしたか。あなたを救ってくれた少女が、魔法少女として覚醒したのですね……』


「はいですポメ!シトラスのおかげで黒き明日(ディマイン・ノワール)の魔獣は浄化できましたポメ!」


ポメポメは嬉しそうに飛び跳ねる。女神はそんなポメポメの様子に目を細めつつ、話を続ける。


『ですが、これはほんの始まりに過ぎません。今までは魔術で人々のエナジーを奪うに留まっていた黒き明日(ディマイン・ノワール)が、とうとう本格的に人間界に魔獣を送り込み、実力行使に出た。これは宣戦布告に他なりません。─いずれ、シトラスひとりだけでは対処できないほどの強力な敵が現れるでしょう』



「ポメ……」


ポメポメは不安そうに耳を伏せ、尻尾を丸める。


確かに魔獣を浄化することには成功した。しかし、今の時点では、シトラスの実力は決して一人前とは呼べない。


 


戦闘では敵の術にかかって大きなダメージを負ったし、変身して戦う為に必要なエナジーを奪われて窮地に追いやられる場面もあった。幸い変身解除に陥る直前で何処からともなく現れた男性に助け出されていたが─それが無かったら今頃どうなっていたことか、想像しただけで背筋に冷たいものが走る。



「ポ……わたしも、戦うことが出来たら……」



ふわふわとした前脚をぎゅ、と握りしめ、ポメポメは俯く。



『あなたが悪いわけではありません、ポメリーナ。あなたが降臨時に力の大半を失ってしまったのは──不測の事態を防げなかった私の責任です。自分を責めるのはよしなさい』



女神の温かな言葉に、ポメポメは少し落ち着きを取り戻したらしい。再び顔を上げたポメポメに、女神は優しい声色のまま告げた。

 


『敵と戦う力が無くとも、あなたにはシトラスをサポート出来るだけの実力があります。彼女を支え、導くのです。できますね?』



「……はいですポメ!」



そんなやりとりを最後に交信は途絶え、空間に浮かんでいた女神の立体映像も消える。 ベッドの上ではまだシトラスがすやすやと寝息を立てていた。



「……大丈夫ポメ。シトラスにはポメポメがついてるポメ」


まだ夢の中に居るであろう彼女に向かってそう呟くと、ポメポメは大きなあくびをしながらシトラスの枕の横まで歩いていき、そのまま丸くなる。


 


 


「それにしても、女神様は早起きすぎポメ~……ふわぁ……」


眠そうに呟きながら、ポメポメは小さく欠伸をする。それからすぐに彼女の意識は微睡み、眠りの世界に落ちていった。


 

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