第19話 辿り着いた者達
驚いたまま呆然と立ち尽くすロディに構う事なく、プルジャは再び杖を振るった。彼女の隣でふわりと浮いていた死霊が両手を突き出し手の平を重ねた。
「
くぐもるようなその声にロディは確信した。あれは間違いなく妹のロアーナだと。
「くっ!」
動揺しわずかに虚を突かれたロディは迫り来る青い炎をぎりぎりで躱した。すぐさま反撃しようとプルジャ達へ向けて手をかざす。だが視線の先にあったのは紛れもなく妹の顔。彼は唇を噛み締め、開いた手の平を閉じながら腕を下ろした。
「流石のおまえさんも妹には手が出せないようだな」
壁に打ちつけられ倒れていたアンクバートが笑いながら言った。その声に反応したロディが彼を睨みつけ叫んだ。
「どういう事だ!? なぜロアーナの死霊をあの娘が操っている? そもそも妹は死霊にもなっていないはずだ!」
焦る様子のロディを嘲笑うかのようにアンクバートが吐き捨てる。
「あれは死霊じゃなくてリッチだよ。この前攻略したダンジョンの主だよ」
「馬鹿な!! ロアーナが魔物になっていたというのか!?」
激しく動揺するロディに今度はプルジャが淡々と答えた。
「死してなお、この世に未練が残る者はリッチとなる。彼女がリッチになったのはある人への強い想いがあったから。あなたならそれが誰かわかるんじゃない?」
「……もしかしてそれはヴァレントか?」
絶望に駆られた表情でロディはわなわなと震えていた。妹の死という彼の復讐への根底が揺らぎ始める。王女、そしてヴァレントへと注いできた彼の憎しみは一体なんだったのか?
崩れ行く足元を見つめるように、彼は下を向き拳を握りしめた。だがやがてゆっくりと顔を上げるとタガが外れたようにようにゲタゲタと嗤いだした。
「くーっ! あっはっはっはぁーー!! どいつもこいつもヴァレント、ヴァレント、ヴァレント!! あんな狂った野郎のどこがいいんだ!?」
ロディは嗤いながらプルジャ達に攻撃を仕掛けた。風の斬撃がプルジャの腕を切り裂き、同時にロアーナの体を吹き飛ばした。
「ロアーナは死んだ! 魔物となり果てた者など知った事ではない! あいつ諸共この世から消し去ってくれる!!」
ロディの目の前に三つの魔法陣が現れる。風、雷、氷魔法の同時展開。賢者と謳われる彼にしか出来ない大魔法が放たれた。
「
巨大な竜巻が辺り一帯を覆い尽くした。逃げる間もなくロアーナの体は風に引き千切られ、雷に焼かれ、そして凍り付き砕け散った。ロディは眉一つ動かす事無くそれを見ていた。激しい風は次第に静まり瓦礫さえ跡形もなく消え去っていた。
「ほう……あの魔法も耐えきれるのか」
ロディが呟くように言い放った先には、黒い翼を蕾のように折り畳んだレベリオの姿があった。彼女は無言で翼を広げると抱きかかえていたプルジャをそっと下ろした。
「母さんを呼び出せる?」
傷を押さえながら荒く息を吐くプルジャに、レベリオは優しく微笑みかけた。プルジャはこくんと頷き首に掛けていたペンダントを握りしめた。
「
光の中から現れたセンシアがレベリオを見つめた。すでに顔の半分まで黒い羽根で覆われたその姿に、センシアは少し悲し気な表情を浮かべた。
「母さん……この子を治してあげて」
レベリオがその場から少し離れると柔らかな光がプルジャを包んだ。腕の傷がみるみる塞がりプルジャの顔にも生気が戻った。
「ありがとう母さん。ここでお別れです……どうか最後まで見届けてください」
一滴の涙がレベリオの頬を伝った。彼女はばさりと黒い翼を広げるとロディの方へと一歩踏み出した。
「どうやら役者は揃ったようだなぁ!」
薄ら笑いを浮かべていたロディがちらりと視線を移した。
そこには傷ついたアンクバートに肩を貸しながら歩くヴァレントの姿があった。
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