第10話 母の想い出
光の輪の中でレベリオの母、センシアさんは優しい笑みを浮かべていた。
彼女はレベリオとおれが小さい頃、魔物との戦いの最中に亡くなった。そしてセンシアさんもまたレベリオと同じく聖女だった。
「
プルジャが呪文を唱えると黄色い花が咲き誇るの野原が部屋いっぱいに広がった。遠くにはどこか見覚えのある幼い少年と少女が楽しそうに走り回っていた。これはまだセンシアさんが生きていた頃の記憶だろう。
「……あれは、おれとレベリオだ」
小さいレベリオがこっちへ向かって手を振った。それにつられるように幼い頃のおれも笑いながら手を振っていた。手を振り返す彼女の細い手がわずかに映る。
センシアさんはとても優しい人だった。親を亡くしたおれを引き取り、まるで我が子のように育ててくれた。三人で過ごした懐かしい記憶が頭の中に蘇る。
おれは思わず影となったセンシアさんをちらりと見た。過去を慈しむかのように微笑む彼女。しかしその顔が悲し気な表情に少しずつ変わっていく。そして次の瞬間、映し出されていた風景がさーっと切り替わった。
墓の前で縋りつくようにレベリオが泣いていた。彼女を慰めているおれの姿もそこにあった。
「お母さん……お母さぁん!」
母の形見であるペンダントを握りしめ彼女は悲痛な声で泣いていた。少しずつおれの記憶も鮮明に蘇る。母親を失くし暫く経った後、レベリオに聖女の力が現れ始めた。
「プルジャ。ここ数年の彼女の記憶は見れるか?」
プルジャは眉をひそめ物憂げな表情で一瞬おれを見た。小さな溜息を吐くと彼女は目を閉じた。再び部屋の風景が切り替わる。
これはおそらく城の修練場。そこにはレベリオとロディの姿があった。聖女の認定を受け王都へ来た当初、彼女は賢者であるロディにいろいろな教えを乞うていた。戦闘の立ち回り訓練のため、彼女がよく修練場を訪れていたのを覚えている。
壁に寄り掛かり
「ロアーナを救うことが出来ず、申し訳ございませんでした……」
「おまえが悪いわけではない……それで、ロアーナは死霊となっていたのか?」
「何度かあの場所へと行ってみたのですが、彼女の影は見当たりませんでした」
「そうか……安らかに眠ってくれたのならそれでいい――」
ロディの声が遠ざかっていくと部屋の中の景色も流れるように変わる。そしてすぐにレベリオの叫ぶような声が聞こえてきた。
「考え直してください! ロディ様! ロアーナもそのような事は望まぬはずです!」
「もう復讐すると決めたんだよレベリオ。あの時、あの馬鹿な王女が馬車を飛び出さなければロアーナは死なずに済んだ。もちろん油断したヴァレントも同罪だ」
「その復讐には協力出来かねます」
「やはりおまえはヴァレントの事を……ならば良い。私は一人で成し遂げて見せる」
「残念です……ロディ様」
レベリオがその場を去ろうと後ろを向いた時だった。ロディが印を結ぶと目の前に術式が現れた。手には先程見た小さな石像を持っていた。
レベリオが悲鳴を上げながら倒れ込む。気を失った彼女の耳の後ろには呪いの印が刻まれていた。
「やはり服従の契約を結んだのはあいつだったか」
目の前に見えるロディを睨みながらおれはそう言葉を吐き捨てた。
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第10話を読んで頂きありがとうございます。
カクヨムコンの創作フェス「スタート」のお題で短編を書いております。
「勇者に倒された魔王が勇者の子に自ら転生したら」
https://kakuyomu.jp/works/16817330669715718588
。
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