09
「いっぱい買ってきたよー」
「すみません……」
「いいっていいって、今年は人も多いしねー」
プールのときのあれと同じだ、彼女は隠していただけなのだ。
こそこそ移動は慣れているからささっといって買ってきた、なんならこの方が買ってあげられるから喜んだぐらい。
とはいえ、本当に調子が悪そうだから喜んでばかりもいられないかな。
「途中、二人を見つけたけど声をかけなかった、ううん、声をかけられなかったんだよ」
「集まることもないでしょうしそれでよかったんですよ」
「とりあえず水でも飲んでよ、甘い物がいいならジュースも買ってあるからね」
元々、本調子ではなかったのに無理をしたところだけは不満だった。
別にいかなければならないなんてルールはないし誘われでもしなければお祭りにいけなくたってよかったのに私が気になるだろうからと無理をしたのだ。
「ふぅ、大丈夫ですから途中で帰るとかやめてくださいね」
「いや、私だって一緒に来ているメンバーが弱っていなければ出てきたからには楽しみたいよ」
「弱っていてもです」
そう言われてもなあ。
ま、帰ることをせずに合わせておけば彼女も満足するか。
だってこうしてもう食べ物を買ってきているしこちらとしては終わりまでここから移動しなくたっていいのだ。
「はぁ……昨日ワクワクしすぎて寝られなかったとかではないんですけどね……」
「タイミングが悪かったね」
「それに仮に体調が悪くても平方先輩の前では平気なふりをするつもりだったのに……」
「いや、それは私が一番避けたいことだからね、大人しく出してくれてよかったよ」
先輩とか後輩とかは仲良くしたいときには正直邪魔なだけだ、それだけで人によっては内に抑え込もうとしてしまうからだ。
「うっ……」
「ちょ、大丈夫?」
「……家からも花火は見えるのでやっぱりここまででいいですか?」
「それなら任せてっ」
屋台で食べ物を買っているときよりもテンションが高かった。
彼女を家及び部屋まで運んでベッドに寝転ばせる、布団も掛けてしまえば完璧だ。
「いらないかもしれないけどもうちょっとだけいさせてもらうよ」
「はい」
気になるだろうから目立たないところに移動する。
電気なんかは消したままだからできることは全くないけど早々に解散も寂しいじゃん? というそれからきている。
捺生とご両親には悪いものの、このまま寝てしまってもいいぐらいだった。
「杏梨先輩」
「はいはーい、水でも飲みたいのかな?」
ここなら水を買うなんて非効率なことをしなくて済む、ではなく名前呼びはしたくてしたのだろうかと気になり始める。
「水よりも見えるところにいてほしいんです」
「ならここに座っておこうか?」
「いえ、もうそれなら入ってください」
「わかった、じゃあお邪魔するよ」
背を向けて寝転んだらぎゅっと自由な右手を握られた。
でも、いちいちこんなことでなにかを発していたら彼女が寝られないから黙っておく。
元気になるまで待っても全く問題はない、寧ろ弱っているのをいいことに自由にやるようならそれは好きではなくて好きにできる存在が欲しいだけでしかない。
ただ……目を閉じていても一向に眠気がやってこないのが問題だ。
自分のことなのにわかっていなかっただけでやはり必死になっていたのはこちらなのか?
別にそれは恥ずかしいことではないけどなんでもないですよーとでも言いたげな態度でいながら本当のところは向こうよりも求めているのはなんとも……。
どうせ寝られないから彼女の方を見る。
これでもなにも変わらないどころかすーすーと寝息を立てて寝ているからなにかいけないことをしている気分になってきて更に駄目になった。
弱っていたらちくりと言葉で刺されることもなくなるけど物足りない。
そもそも気になる存在が目の前にいるのになにもできないし喋れないことで物足りない状態のまま朝を迎えることになった。
「捺生、水を飲まないと」
「……ありがとうございます」
これは……弱っているというか眠たいだけか。
「ふぅ、もう大丈夫みたいです」
「そっか、それでも今日ぐらいは休んでおいた方がいいね」
「杏梨先輩は帰ってしまいますか?」
「寝ておいてあれだけどお風呂にも入れていないからねー流石にこのままではいられないよ」
どうせ残ったところで寝てしまうだけだからいてもいなくてもという話でしかない。
あとまた誘われても困るからね、平気なふりはいつまでもできることではない。
「それならここで入ってください、私も……入らないわけにはいきませんから」
「わかった、なら着替えを持ってくるよ」
だからこういうところなんだよなあ……。
ただの友達から変わってくるとすぐに負けることになってしまう。
悪化させないためにも適度な距離感でいることが大切なのに簡単に距離を詰めてくる相手も問題だけどねえ。
とりあえずは受け入れたことには変わらないからささっといって戻ってきた。
別に一緒に入るわけではないけど洗面所に捺生がいるというだけで強く影響を受けた。
「由真さんアタック!」
「ぼげぇ……なんで集合場所に着いてすぐに攻撃されなければならないんだ……」
「そんなの気づいておきながら声をかけてこなかったからだよ、そういうの一番よくないから」
周りなんて関係ないとばかりに二人だけの世界を構築していたぐらいなのにこれか。
「それよりいいの? 出てきておいてあれだけどこれってデートじゃん」
「デートではないでしょ」
「だって私達の場合は相手が同性だしさあ」
「いや……杏梨さんとだってお出かけしたいし」
彼女は絶妙なタイミングで誘ってくる。
友達がいなかった私は切れそうで切れない上手いタイミングでやってきた彼女の相手をしていたわけだけど、いま振り返ったらちゃんと友達でいられたのかと考えてしまいそうなぐらいだ。
今回だってそう、杏梨タイマーでも設置されていてそれで把握しているのだろうか。
「ま、まあ、まずは映画ねー」
「うん」
今回は隣に座る彼女がポップコーンを買うということでこちらも買うことにした。
でも、結局集中していたらなにも食べずに終わってしまったから半分こにして食べた。
恋愛映画を見ても参考にはならなかったかな。
「うっ……お腹が……」
「甘くて冷たい物でお口直しでもする?」
「いやいまは……」
などと言っていた彼女もパフェを注文して食べた頃には復活だ。
いくらでも食べられるというわけではないけどやはり甘い物はいい、ジュースなんかよりも好きかもしれない。
あとは彼女が相手なら心臓がいつでもフラットな状態でいられるのも大きかった。
「上鶴ちゃんとはどうなのさ?」
「前よりは仲良くなれているよ、成美ちゃんよりも動けていると思う」
「完全に来ないのは気になるけど積極的になられても困るタイプだよね由真は」
「うん、相手に頑張ってもらうよりも自分が頑張った方が楽だから」
「ま、それでも上鶴ちゃんが我慢できているというのが驚きだけどねー」
もう二人きりになった途端にがばっといっていそうなのにね。
だけどいまならこれだという答えが出てくる、気になってしまっているからだ。
「杏梨は?」
「ん-なにも変わらな――その顔はやめてよ」
「聞いてほしいことがあるって言っていたじゃん、ここにはずっと前から一緒にいた私しかいないんだからさ」
はっきり言うとこれはただの恥ずかしい時間だった。
これならまだ好きな人を譲ってもいいぐらい私が魅力的で捺生が好きでいてくれていた方がマシだった。
それならまだ余裕を持っていられたのに気が付けば私の方がその気になっているなんて……。
「最初はツンツンしていた女の子だけど過ごしていく内に相手の本当のところがわかってきて惹かれてしまうなんて最高じゃん、前にもこんな話をしたけどさ」
「いや、この場合だと捺生が私に惹かれたわけじゃないよね……」
「でもさ、今日だって先約があったから無理だっただけで誘ってきていたんでしょ?」
「まあ……」
甘えてくれているようなそうではないようなという曖昧な感じなのは変わらない。
あと近くにいてもらいたいとは言っていたけどそこと特別な関係になれるように求めているのかどうかは繋がってはいないのだ。
私は暇人だからね、友達の状態でも距離感を維持することは楽だ。
「あといまだから言うけど私に興味を持ってくれていたときも杏梨のことをよく聞いてきていたからね」
「そのときは邪魔な存在だったからで……」
だってあれも嘘ではないらしいし……。
「待った、よく仲良くなれたね? それどころか杏梨の方から好き――」
「わーわーっ、いちいち言わなくていいから!」
「ぷぷ、杏梨さんが珍しく顔を真っ赤にして慌てているよ」
笑っている場合ではないっ。
はぁ……迷惑にしかならないからお店から出よう。
「暑い……うわっ――っと?」
「危ないですよ」
「捺生!?」
「大きな声ですね。いま私を見たじゃないですか、普通は『捺生か、ありがとう』となるところですよね?」
呆れたとでも言いたげな顔でこちらを見てきているけど誰だって驚く。
振り返ってみたら由真の隣には上鶴ちゃんがいた、なんだこりゃ。
約束をしていたかのように見えるものの、そんな約束は一切していないのにこれだ。
「あらら、ここまでみたいだね」
「一応聞いておくけど由真が呼んだわけじゃないんだよね?」
「違うよ、私だってたまには杏梨と二人でゆっくりしたかったんだから」
「ならいいや、だけど上鶴ちゃんに睨まれたくないからここまでにしておくよ」
まあ、映画に飲食店にとできれば出かけられたとは言えるのではないだろうか。
「というかさ、さっきちょっと押したよね?」
「肩に触れようとしたときに杏梨先輩が振り向いたからですよ」
「いきなり肩に触れられたら心臓に悪いから正面から話しかけてよ」
「次は気を付けます」
ではなく、尾行をやめてもらいたいところだ。
聞いてくれればちゃんと答えるから大人しくしてもらいたいところだった。
「成美じゃなくたって止めますよ」
「あーそう」
「一緒に過ごす時間は減っているのになんなんですか、なんで私といるときよりも楽しそうに、嬉しそうにしているんですか?」
んー少しの間は由真に大して本気で動いていたからかがぶ飲みするところが彼女にも移ってしまったみたいだ。
これだけ飲めばお腹がいっぱいになることは必至、それどころか痛くなってトイレに駆け込む可能性だって高い。
「まあまあ、そこらでやめておきなよ」
「やっていられないんですよ……そもそもなんでここで千種先輩は杏梨先輩を誘うんですか」
「いやほら、捺生だって上鶴ちゃんとたまには過ごしたいでしょ?」
「私的には頑張ってからでも遅くはありませんからね」
「あーだから……と、とにかく、それ以上飲んだらお腹が痛くなるからやめておきなって」
もうグラスを取り上げて飲み干しておいた。
あとここは先程のお店、つまりファミレスだからあまり長くいても……というところ。
「さあほら、お会計を済ませて……って、寝てる……」
自由かっ、帰るか……。
臼井家だとまた暴走しそうだから連れていくことにした。
誰もお客さんが来ていない客間があるから布団を敷いてそこに寝かせる。
「……むかつきます」
「はいはい」
こんな感じだとドキドキなんてどこかにいってしまう。
ま、たまには駄目なところも見せてくれないと困るからね、丁度よかったのかもしれない。
「飲食店ではなにで盛り上がっていたんですか」
「上鶴ちゃんとのことを聞いていただけだよ、由真が積極的にやっているみたいだね」
「なんでそれであんなに盛り上がれるんですか」
「え、そりゃ友達のことだし教えてもらえたら嬉しいでしょ」
捺生がどうのこうので盛り上がっていたことを教えられるわけがない。
「確かにそれはそうですね」と納得してくれたからその点はよかった、続けられていたら敗北して吐かされていた。
それは由真に吐くよりも恥じゃん? なによりも避けたいことじゃん。
そもそも好意を持っていることをこの流れで吐きたくなんかはないのだ。
するならちゃんとしたとき、いい場所で告白がしたい。
「成美は尾行している最中、なにも言ってきていませんでしたけど不満が溜まっていたと思います、もしかしたら不味い結果になるかも」
「ならないならない、だってそれって嫉妬でしょ? 結局、由真が優先してくれたら一発でどこかにいくよ」
なんならこれを利用して肉食系なところを出していけばいい。
積極的なところに由真はたじたじ、どうせなら自分が頑張れた方がいいというだけで嫌がっているわけではないから最終的には受け入れられる。
もしかしたら明日までに関係が変わる可能性だって出てきたのだ、刺激するために約束をしたわけではないけどやっと上鶴ちゃんのために役に立てた。
「あの二人の心配をしているわけではないんですけどね、杏梨先輩が不味い結果になるかも、そう言っているんです」
「あ、え、不味いってどんな……?」
「冗談ですよ。それより私は杏梨先輩に優先してもらっている状態ですけど一発でどこかにいっていないんですが」
「それは捺生が変なだけだよ」
変だ、同じように慌ててくれないと困る。
「ねえ捺生、それこそ二人でお出かけしてずるいよね」
「今回は私が誘いました、成美はすぐに受け入れてくれましたよ」
「そ、そうなんだ? うん、いい仲だよね」
「やっぱり友達といるときって楽しいですよね、これには杏梨先輩でも勝てるかどうか……」
乗らない乗らない、今日はずっと私が上の状態でいられる日なのだ。
でも、じっと見られている間にどんどんと、どんどんと……。
まだ続けて煽られていた方がマシだった、黙られたからやられたのだ。
「……もういいよ」
内側からなら鍵は自由に開けられる、出ていけばいい。
気持ちよくは無理でも回復させるために寝ることにした。
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