02

「どうも」

「うん」


 二週間ぐらい由真のことが気になっている子から粘着されていた。

 どこにいっても現れるからもう逃げてはいない、ただ遠慮もしていない。


「あなたのせいで二週間も時間を無駄にしてしまいました、それでも誤解だとわかったことについてだけはいいことですけどね」

「最初からそう言っていたんだけどね」


 ちなみにあの子はこの子に付き合っているだけでこちらには来ていない。

 だからこちらは本当になにもしていないけど自然と解決した形になる。


「捺生……」

「友達のためにもここまでにしておきます」


 この二週間でわかったことは失礼だから止めたかっただけではなかったということだ。

 この子が大好きすぎる、それこそ他の人間のために時間を使ってほしくないとでも言いたげなって……あくまでそれは妄想だけど。

 由真の方も苦労しそうだった、だって絶対に壁になるからね。


「ふぁ……寝よ」

「ちょ、ちょっと待った」

「まだいたんだ、臼井ちゃんならもう戻ったよ」

「うん、それはこっそり見ていたから知っているよ」


 突撃できなかったのはやはりあの子が積極的だからか。

 上鶴成美かみづるなるみ、下手をしたら彼女はあの子のことばかりを考えてしまっているの可能性がある。


「お出かけできていないから今日いこうよ」

「あのときは急に和菓子が食べたくなっただけで今日はそういう気分じゃないからね」

「まあまあ、たまにはさ」

「まあ、いいけど」


 いつもならこんな誘い方はしてこないからこれはなにかしたいことがあるようだ。

 その理由は出てすぐのところでわかった、あの二人を気にしているのだ。

 興味を持って近づかれた身として気になってしまうのだろう。


「参加したいなら参加すればいいのに、素直に言えば受け入れてくれるでしょ」

「じゃ、邪魔をするわけにもいかないでしょ」


 本気になっているのは彼女の方だったりしてね。

 だけどそりゃそうだよなと、興味を持って近づいてくれた子が他の子とばかり仲良くしていたら気になる。


「じゃ、私は気にならないから」

「え、あ、ちょー!」


 彼女の手を掴んで突撃だ。

 声か足音で気が付いたのか先に臼井ちゃんの方が気づいてくれたからそのまま任せた。

 上鶴ちゃんには悪いけど私は友達の方の応援をさせてもらう。

 少し離れて一人になって意外と由真のことを考えていることがわかって笑った。


「待ってください」

「ごめんね、だけど由真の方が大事だから」


 待てと言われたら足を止めるしかない、あとは形だけの謝罪をしておく。


「謝る必要はありません、それにあれから少し側で見られて顔だけが理由じゃないとわかったので私としても十分なんです」


 勝手にあの子に好意を持っていると妄想している自分としては由真がこの子みたいに遠慮をしてばかりではなくてよかったと思った。

 最後まで完全に抑え込める人間だけが選んでいいことだ、中途半端になってしまうぐらいならなんでも出していくぐらいの方がいい。


「友達を取られそうになったから嫉妬をしていた、なんてことじゃないですからね」

「ま、本当のところがどうであれ由真の邪魔をするわけじゃないなら私はそれでいいよ。だからこれで終わり、前もそうだけどなにも広がらないから」


 言ってから数秒経過して気持ちが悪くなってきたから歩き出した。

 求められてもいないのに勝手に心配をするなんてどうかしている、あの子は私に心配をされなくたって上手くやる。

 先程みたいなのはレアだ、基本的に私の手を掴んで連れていってくれる側の存在だ。


「平方先輩は千種先輩のことが好きなんですね」

「好きだ、よっ!?」


 もうお婆ちゃんなのかもしれない。

「大丈夫ですかっ?」と心配してくれている彼女に適当に大丈夫だと返して立ち上がる。

 色々なところが痛い、色々な意味で痛い人間としては消えたい、けど年上らしくないから走って逃げたりはしなかった。

 もう手遅れなのだとしてもこうした方が精神を守れる気がしたのだ。


「ない話だけどあの子が求めてきたら受け入れてもいいぐらいには好きだよ」

「そこまで……なんですか?」

「ない話だからね。あと、本当にきみは私のレアなところばかり見られているね」


 相手のことを知りたいなら隠してばかりでは駄目、というのはそうだけど何故こうしているのかは謎だ。

 だって言ってしまえばただのほとんど関係のない後輩だ、あのとき口にした由真だけで十分というのが本当ならこんなことは必要ないはずなのだ。


「平方先輩が教えてくれたので私も――」

「その必要はないよ、だってアホな私が勝手に求められてもいないのに吐いただけじゃん」


 先程のあれは一応考えたとはいえ、無理やり由真をあの子のところに置いてきたことに対する罰だと考えておけばいい。

 今度こそ挨拶をして別れた。

 正直に言うと先程地面にぶつかった色々な場所がまだ痛いままだったから留まっていたくない気持ちが強かった。




「んー」

「またそれ? 早く食べないとお昼休み終わっちゃうよ」

「なんというか……年上らしいところをまだ一度も見せられていないんだよね」

「まだ六月にもなっていないからね、つまり出会ったばかりなんだから仕方がないでしょ」


 一年生のあの子達は学校にも慣れなければならないわけで、そこで無理をして年上として頑張られても困るだけではないだろうか。

 でもね、彼女はまだいい、既に恥ずかしいところを何度も見られたわけではないからだ。

 別に意識をしているわけでもないのに勝手に自滅した阿呆とは物凄く差がある。


「このままじゃ飽きられちゃう、杏梨さんもなにか考えて」

「興味を持ってくれているなら一緒に過ごしてあげればいいでしょ」

「それが……積極的に自分からいくのも恥ずかしい気がして待つことしかできない感じで……」


 また転びたくはないから無理やり連れていくというのはしたくない。

 こういうときに限って臼井ちゃんも上鶴ちゃんも来ないからどうしようもない、それこそ年上らしさなんて微塵も感じられない状態で二人でいる羽目になる。

 私はいいけど彼女はそれを求めていないだろう。

 そういうのもあって結局はしたくないことをすることになった。

 暗い顔をしていてほしくないから、私といてもなにも変わらないからね。


「え、初めてのテストで不安だっただけなの?」


 去年の私は大丈夫だから緩くやっていたらガチの由真に巻き込まれて沢山勉強をすることになって……テストなんかよりも由真の方が怖くなったぐらいだった。

 まあ、受験勉強をしなければならなくなった中学三年生のときだって似たような感じだったからあまりにも唐突というわけではなかったものの、こんな熱量でしなければならないことなのかと何度言いたくなったか……。

 言ったところでどうにもならないしそれこそ怒られるだけだから結局最後まで付き合ってしまったという変な思い出だ。


「はい、だから成美に教えてもらっていたんです」

「だったら言ってよー」


 内が奇麗ではないからこれすらも作戦のように見えてくる。

 あ、何故まだここに存在しているのかはこっそりと服を掴まれているからだ。


「すみません、ただこれは自分のためでもあったんです。ほら、我慢をしておけば頑張った後に千種先輩から褒めてもらえるんじゃないかと思いまして」

「だけどそれなら一緒にやってほしいな、急に来なくなったら不安になっちゃうよ」

「揺れてしまいます、それに付き合ってくれた成美にも悪いので……」


 急に意識を向けられた上鶴ちゃんは「私はこれで終わりになっても大丈夫だけど」と、そりゃここならこう答えるしかないない。


「か、考えておきます」

「無理なら無理でもいいからお願いね」


 廊下に出られたらほっとした。

 後輩、先輩、同級生がいる教室、つまり関係ないところなら気になるというものだ。


「結局、必死だったよね、年上感なんて微塵も感じられないよね」

「やってから言わない、戻ろ」

「自分から止めておいてあれだけど杏梨がいるところであれだったのも恥ずかしいぃ……」


 授業の時間でなんとかしてもらうしかない。

 が、五時間目六時間目と時間をかけても復活しなかったからこちらから距離を作った。

 上手く睨んでくるものだから臼井ちゃんがいるときは一緒にいたくないのだ。


「みーつけた」

「調子は?」

「最悪……」


 寒い時期ではないけど温かい飲み物でも飲んでもらってなんとかしようとした私、だけど手や腕を掴んで歩く癖が悪い方に働いて結局絡まれることになった。


「面白いことをしますね、同性同士だからでしょうか?」

「この前の臼井ちゃんも上鶴ちゃんにやっていたよね、その程度の行為だよ」

「なるほど」


 せっかく連れてきたのだから飲み物の方は買って渡して両手を上げつつ離れた。

 しょうもないことをしたせいで演じ続けなければならないことになっていまならはっきりと言える、馬鹿でアホだ。

 これからどれだけそこに言葉が付け加えられていくのかが楽しみだ、なんてね。


「そうやって成美が来るのを期待しても無駄ですよ」

「きみと上鶴ちゃんなら上鶴ちゃんの方がいいなあ」

「私は千種先輩とのそれも成美とのことも上手くやります、あなたに自由にやらせません」


 由真がこちらのことも考えて行動するような子ではなくてよかった。

 気になる存在と仲良くしつつも自分のことも気にしてもらえていたら内のそれが忙しくなる。

 余裕がなければやらかす可能性も高まるから駄目だ。


「はは、邪魔な相手にも敬語を使うところが可愛いね」

「あなたに可愛いと言われても嬉しくありません」


 相手のことが気になっているけど素直になれなくてツンツンならいいものの、これだとただ嫌っているだけだからなにも甘い話がない。


「ふーん、面白いね」

「成美も千種先輩もあげませんから」


 って、本人達がいないところでやってもなにも意味はないぞこれ。

 そういうのもあって数秒後には頭を下げて頼み込んでいる私がいた。

 すぐに情けない人間も加えられることになった。




「損でしかないんだよ……」


 好んで敵なんか作りたくはない。

 関わることがなくても少なくとも敵視はされたくなかった。


「んーどうしてそうしなければならなくなったのかは教えてもらってわかったけど、杏梨は顔を合わせる度にいちいち煽っちゃっているようなものだよね」

「そうなんだよ……」

「なら……受け入れるしかないんじゃないかなあ」


 巻き込まれた上鶴ちゃんに言われるよりも臼井ちゃんを守るために由真から言われるよりもママからの言葉は一撃で私を倒した。

 一瞬、風船だったらなんて考えた、そうしたら多分痛みも感じずに消えることができると。

 だけど息を吐いたところで呼吸もしなければただ苦しくなるだけ、痛いほどの正論にどうにもならなくなって部屋に引きこもっていると「母さんから聞いたぞ」とパパも現れたけど……。


「俺はそういうやり方もありだと思うぞ」

「でも……馬鹿なだけだし」

「少なくともかみづる……ちゃん? からしたら助かっただろ、友達に嫌われることもなく前よりももっと気にしてもらえているんだから」

「私よりも大人で上手く抑え込めているだけだよ」

「大人な子ならすぐに杏梨が悪い人間じゃないってわかるだろ、まだ来てくれているのはそういうところからきていると思うけどな」


 昔からここは変わらない。

 ママは全部私が悪いことにはしないけど正論とはいえ、抉るようなことを言う、パパはこちらの行動を悪くなかったという風に言う。

 共通している点はどちらも相手のことを悪く言わないこと、ここだけは本当にいいことだ。

 まあ、他の家庭のことなんてなにもわかっていないけど問題を起こしても尚、子どもを守ろうとするために汚い言葉を吐いてしまう人達もいるかもしれないから、うん。


「受け入れてもらえるかはわからないけど杏梨がしなければならないのは謝ることだよ」

「でも、杏梨が少し我慢をしただけで二人が救われたんだぞ?」

「救ったって、言ってしまえばこの子が変なことをしただけでしょ?」

「おいおい……」

「事実でしょ」


 うん、おいおいと言いたい気持ちはよくわかる、せっかく部屋に逃げてきたのに自然と集まってしまっているからだ。

 だから味方をしてくれているパパには悪いけど二人を部屋から出して今度こそ引きこもった。

 翌朝、自分のせいだとはわかっていても朝から衝突なんかしたくないから顔を出さずに家をあとにした、つまりお昼抜きは確定したことになる。

 お昼休みに母作のお弁当を食べることでなんとか乗り越えていた私は五時間目と六時間目にやられる羽目になった。

 でも、全ては自業自得だからこういうときこそ言わなければならない。


「なにも広がらない話だからね、ふっ」


 それはそれこれはこれということで帰る気にもならずに空き教室の床で寝転んでいたら足音が近づいてきて意識を向けた。


「はぁ……やっと見つけた……」

「お疲れ様ー」

「お昼休みも探したんだよ? だからもうほとんど諦めていたけどこうして見つけられるとなんか嬉しいよ」


 真似をしたらどうかと提案してみたら「やだ」と断られたから諦める。


「今日は明らかにおかしかったけどそういうときにあんまり近づかれるのも嫌かなと思っていっていなかったんだ」

「由真は悪くないからね」

「じゃあ……臼井ちゃんのことが関係しているの?」


 しまった……。


「いや? 由真は私のママが結構厳しいところがあることも知っているよね? 真っすぐに言葉で突き刺されて勝手に拗ねているだけだよ」

「ああ……いつもにこにこ笑みを浮かべて柔らかいのに厳しいところがあるよね」

「そ、だから臼井ちゃんは関係ないよ」


 だけどこうして離れていたら自然と由真が来てくれて嬉しいな。

 実際は臼井ちゃんだったり他の子だったりと本来なら一緒にいられたのに私のことで時間を使わせていることになるからいいことではないけど。


「もう帰ろ? わかっていると思うけど天気が悪くて雨が降ってきちゃいそうだからさ」

「あれ……あーごめん、課題のプリントを忘れたみたいだから先に帰って」


 一応言っておくと課題のプリントを忘れたのは本当のことだ。


「え、一緒に寄ればいいでしょ」

「どうせなら終わらせていこうと思ってね、家に帰ったらご飯をいっぱい食べて寝ちゃうから駄目なんだよ」

「なら……うん、じゃあまた明日ね」


 これで甘えるのは卑怯だからなんとか止められた。

 一人で勝手に自爆して一人で勝手に満足して教室に移動しようとしたところで腕をぐいっと引っ張られた。


「いまのは偉いですね」

「え、いたの?」


 誰だって聞きたくなるだろう。

 どうして一人で出てきたのをいいことに好都合とばかりに付いていかない人間ばかりなのか。

 だからいたことよりもそのことが気になって仕方がなかった。

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