第31話 作戦決行①
作戦決行日となった。
作戦開始は12:00だが、今日は朝早くに目が覚めた。
入念にストレッチを行い、軽く準備運動をしたあと、お風呂に入る。
メイクをして黒のスーツに着替える。
今日の私は降伏の使者を装うため、この服が戦闘服になる。
会議室に入ると、既に全員が揃っていた。
私以外の全員が戦闘服を着ている。万が一の場合に戦場へ行かなければならない可能性があるためだ。
もちろん、ハカセも戦闘服だ。
少なくとも彼女が戦場に行くような事態にはしてはならない。
今日の作戦は私がどれだけ上手くやれるかに掛かっているのだ。
会議室の時計が12:00となり、ベルが鳴り響く。
いよいよ作戦開始だ。
「じゃあ、行ってくる」
私がそう言って、小型船に乗り込むと全員が敬礼で見送ってくれた。
イチローが地球に降りたとき以来の風景だ。
【ノクトリア】の戦艦は非常に大きいので、迷うことはない。
戦艦に近づくと、無線で所属を聞いていた。私は日本国所属の降伏使者だと告げると、戦艦のゲートが開いた。
戦艦に乗り込むと銃を持った4人の兵士が出迎えた。
「司令官へ取り次ぐ前にいくつか質問がある」
「どうぞ」
「直接船でこちらに来るとは聞いていないが、いかなる理由によるものか、専用の通信回線で回答するように伝えていたはずだ」
「我々も宇宙に出ることはできるのです。無線回線では他国に盗聴や妨害を受ける可能性があることと、捕虜の状況を直接確認したいためです」
「承知した。その旨を司令官へ伝えましょう。ここでしばらく待っていて欲しい」
「待ち時間の間に捕虜の様子を確認させていただけないでしょうか。見ての通り武器も持っていませんし、仮に持っていたとしても女の私ではどうすることもできませんからリスクは無いはずです」
そう告げると、兵士は私の身なりを確認した。
特に怪しまれているような雰囲気は無いようだ。
「まあいいだろう。兵士を2人付けて案内をさせよう。監視カメラもあるので怪しまれるような行動は慎むようにな」
「承知しました。それで構いません」
私は案内の兵士2人についていく。
戦艦の最下層まで細い階段を降りていくと、捕虜のいる牢獄に辿り着いた。
私は捕虜の数人と少しだけ話した後、去り際に入り口のドアに転送ビーコンを貼り付けた。
これでカトーとイチローをこの場所に転送することができる。
「司令官がお会いになるそうだ。ついてこい。くれぐれも失礼の無いようにな」
「承知しました。取り次ぎを感謝します」
司令官に会うため、今度は階段を上っていく。
この戦艦は非常に大きく、中は迷路のように入り組んでいる。
幸いなことに腕時計へ取り付けられた小型カメラで映像を撮っており、私達の船に送信されている。
私の言動すべてをモニターで確認しながら、ボスが指示を出すことになっているが、カトーが道順を覚える目的もある。
私は会議室のような広い部屋に通されて、少し待つように告げられる。
カトーとイチローが突入するのはゴディの名前が出た瞬間と決めているので、まもなくとなるだろう。
扉が開いて、大柄な男が入ってきた。こいつがゴディだろうか。
確かに強そうだ。所作を見ても無駄な動きがない。
「使者というのは貴方かな?私はこの戦艦で司令官をしているゴディだ」
「ゴディ閣下、お初にお目にかかります。私は日本国の紗倉絵麻と申します」
――
「イチロー、合図が出たぞ。俺達も突入だ!」
俺はカトー氏と共に戦艦内に転送した。
カトー氏は牢獄のドアで待機し、俺は牢獄の前に向かう。
作戦は俺が順番に転送を行い、カトー氏は敵が入ってこないようにドアの前で撃退することになっている。
「皆さん、助けに来ました。これから私が安全な場所に転送しますので、大声を出さずにお待ち下さい」
俺は転送装置で一人ずつ転送を行う。
牢獄は鉄格子なので、鉄格子ごしでも転送が可能なのだ。
だが、一人ひとり転送しなければならないので、時間が掛かる。
当然のことながら、監視カメラに映っているので兵士がどんどんやってくる。
「イチロー、ここは俺に任せろ。焦らずやれよ」
残り10人を切ったところで、銃撃が激しくなってくる。
相手側にスナイパーがいるらしく、カトー氏が攻撃しにくい位置からどんどん撃ち込まれている。
バシッ。
俺の右足に銃弾が命中する。
しまった……。
「イチロー、大丈夫か?」
「足を撃たれた……激痛だが、このまま続行する……」
俺は痛みに耐えながら、順番に転送を行う。
「ボス、聞こえているか?イチローが撃たれた。イチローの帰還後に治療ができるようナカマツに準備をさせておいてくれ!」
バシッバシッ。
右肩と腹部にも銃弾が命中した。
激しい痛みで意識が飛びそうになる。
だが、あと2人だ……なんとかやりきらねば……。
朦朧とする意識の中、なんとか全員を転送させることができた。
やった……。任務を完遂することができた……。
「イチロー、よくやった!お前は俺が転送する。向こうでゆっくり休んでいろよ。ボス、今からイチローを転送する」
カトー氏が俺の手から転送装置を取り、俺に向けて転送を行った。
俺はその瞬間、目の前が真っ暗になった……。
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