第22話 筆者には『牛丼は飲み物』という知人がいます

 いよいよ、大食い対決の日がやってきた。

 俺は3日間かけて美味しいものの準備を行ってきた。

 今日は勝負だけでなく、食事にも楽しんでもらいたいものだ。


「それでは改めて勝負の説明をさせてもらいます。今回は地球の保存食を集めてみました。保存食と言っても我々が普段食べていたクラッカー的なものではなく、通常の食事と比べても遜色のないものを厳選しているのでご心配なく。カトー氏とエディ氏が組んでサクラ氏と戦いますが、サクラ氏はカトー氏&エディ氏組の倍を食べる必要があります。カトー氏とエディ氏は協力が可能で最終的に2人で全てを食べきれば勝ちとします」


「保存食だと!イチローは相変わらず予想外のことをしてくるな……だが条件はサクラも同じだからな、負ける訳にはいかないな」


「何が出てこようが問題ないな。サクラ、今のうちに神様にでも祈っておいたらどうだ」


「2人とも言うわね。私の本気を見せてあげるわよ!」


 気合の入った3人を横目に見ながら食事を運ぶ。

 最初はレトルトごはん+レトルト牛丼だ。カトー氏とエディ氏には2人前ずつ、サクラ氏には8人前を用意した。

 さすがにこれはすぐ食べ終わるだろうと予想し、既に次のメニューも準備を開始している。


「では……勝負開始!」


 ボスの掛け声で勝負は開始された。

 カトー氏とエディ氏は凄まじいスピードでごはんを口に運んでいる。これは早い!


 だが、サクラ氏は次元が違っていた。

 サクラ氏のどんぶりは中身が吸い込まれているかのように、あっという間に消えていった。

 これは……まさか……丸呑みでは?


「バ、バカな……なんだあのスピードは……悪い夢でも見ているのか……」


 エディ氏がサクラ氏の迫力に圧されている。

 カトー氏はサクラ氏の方を見ずに黙々と自分の丼と戦っている。


「牛丼なんて、私に言わせれば飲み物ね。やはり牛丼は喉越しよね~」


 訳の分からないことを言うサクラ氏。

 序盤から全開で飛ばしていたカトー氏とエディ氏だったが、サクラ氏はあっという間に8人前を平らげてしまった。

 カトー氏とエディ氏はまだ半分ほどしか食べていない。


 俺は慌てて次のメニューを用意する。

 次はカレーライスだ。

 牛丼と同じく、どちらもレトルト食品をカトー氏とエディ氏には2皿ずつ、サクラ氏には8皿用意した。


 サクラ氏のペースは落ちないどころか、さらにギアを上げたかのように皿を積み上げていく。

 ボス氏、ナカマツ氏、ハカセの3人は驚きの表情で黙って見守っていた。


 カトー氏とエディ氏が牛丼を食べ終えたタイミングでサクラ氏はカレーライスを完食した。


「イチロー、どんどん持ってきてくれ!まだまだいけるぞ!」


 3つ目のメニューは冷凍弁当だ。

 調理済みの弁当を冷凍にしているため、温めるだけでバランスの良い食事が摂れる優れた食品だ。

 4種類用意しているので、カトー氏とエディ氏はそれぞれ1つずつ。サクラ氏はそれぞれ4つずつ用意した。


 サクラ氏のペースは落ちない……かに思われたが、ほうれん草やピーマンなどの野菜で箸が止まってしまっている。


「イチロー……計ったな!」


「サクラ氏の偏食がいけないのだよ……」


 サクラ氏はモデルだったのでスタイルがとても綺麗なのだが、野菜嫌いの偏食家なのに何故あの体型を維持できていたのか……いつも不思議に思っている。

 俺も野菜は苦手なんだけど、不老不死じゃなければ肥満一直線だったと思われる。


「エディ、今がチャンスだ!追い上げるぞ!」


 カトーがエディを叱咤激励しているが、エディは明らかにペースが落ちている。

 若干涙目になっているようだが、それでも無理やり口に押し込んでいた。


 サクラ氏が弁当を食べ終えると同時に、カトー氏とエディ氏も弁当を食べ終えた。

 残るはラストメニューのみといった状況で、まさかの横並びとなった。

 だがどうだろう、エディ氏はそろそろ限界に見える。


 ラストメニューはもちろん即席麺に決まっている。

 地球の保存食と言えば、これを外すことができないほどメジャーな存在だ。

 お湯を注いで3分待つだけで、極上の麺料理を食べることができる。

 しかも種類が多く、毎日食べても飽きないのだ。

 俺は、コーラとともに宇宙史における大発明だと思っている。


 今回の勝負用に、ラーメン、そば、うどんをそれぞれ1品ずつ……それと最後におまけの1品を用意した。


「イチローの事だから、最後は即席麺で来ると思ってたぜ。私も大好物だからな、勝負は貰ったな!」


 サクラ氏は弁当の野菜で一時ペースダウンしたものの、再び元のペースでどんどん平らげていく……。

 カトー氏とエディ氏も善戦しているものの、差はどんどん広がっていく。


「それにしても、この謎肉って一体何なんだ?すごく美味いけど、これだけで売ってないの?」


 さっきまで吸い込むように食べていたサクラ氏だったが、謎肉はゆっくり味わって食べている。ずいぶん余裕だな……。


「それは大豆を加工したものらしいよ。肉のエキスも使っているようだけど、植物由来でここまで肉っぽさを再現できるって凄いよね」


「えっ?大豆なの……本物の肉かと思ったわよ。弁当の野菜も全部肉の味なら良かったのに」


 そんなことを言いながら、そばとうどんも完食するサクラ氏。

 残るはあの一品だけだ。

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