第15話 人はハラミの前では正直になる
ん?もう夕方か……。
目が醒めて時計をみたら、結構な時間が経っていたようだ。
今朝は二日酔いで頭が痛いのにハカセに呼び出され……行ってみたらカトーが襲いかかってきたという、最悪な1日だった。
くそう、こんな日はハラミを食べるに限るな。昨日も食べたけど。
そんなことを考えながら、シャワーを浴びて、着替えをして、化粧をする。
よし、出発だ。と思って部屋を出たら、ヤツがいた。
「サクラ、本当にすまなかった……」
ぶん殴ってやろうかと思ったのだが、ハカセも一緒に謝っていることに気付いて思いとどまる。
なんでハカセまで謝っているんだ?悪いのはカトーだろう。
「あのね、サクラ……。今朝の事は私の作った装置が原因になっているの……だから、カトーを許してあげてほしいの」
そう言って、ハカセは測定装置についての説明をしてくれた。
これは困ったな。
どう考えても悪いのはハカセではなくカトーだけど、ハカセまで謝っているとなると許さない訳にもいかないよな……。
これが一緒に謝っているのがイチローなら、まとめてぶっとばすのだが。
「分かったよ……今回はハカセに免じて水に流してやる」
「よかった……サクラありがとう。ほら、カトーもお礼を言って!」
ハカセに言われて再び頭を下げるカトー。
「カトー、許してやるから、これから焼肉に付き合えよ」
「ありがとう。喜んでお供するよ」
「じゃあ、待ってるからすぐに着替えてきて」
急いで部屋に戻っていくカトーの後ろ姿を見ながらハカセに聞いてみる。
「なんで仲直りさせようと思った?」
「やっぱり分かっちゃったか……二人共、自分に正直になれないっていうか、不器用だからさ……もっと腹を割って話し合った方がいいんじゃないかって思ったんだ」
「そういうの、余計なお世話って言うんだぞ」
「でもね、二人がお互いに信頼しあえるなら最強のコンビだと思うんだよ。それは私達全員にとって大きなメリットなの」
「ハカセには信頼してないように見えるの?」
「見えるよ。昔から喧嘩ばかりしてるしさ。お互い、相手に対する敬意と感謝が足りないんじゃない?」
「なるほどね、そんなことだろうと思ったよ。なので、肉でも食いながら話し合おうって思った訳さ」
「さすがサクラ……いつもすごく察しがいいんだよね。本当に大好き」
「褒めても何も出てこないぞ。あ、ハラミ肉でよければ……みやげに買ってくるけど?」
「それは別にいいかな……」
そんな話をしていたらカトーが戻ってきた。
ハカセを見たら、ニマニマとニヤけていた……。まったくこの子は……。
――
その晩、俺とサクラは2人で焼肉店【ハラミ王国】に来ていた。
朝の件はハカセが気を利かせてくれたおかげで、改めて謝罪する機会を得ることができた。
こういうときはやはり誠意を見せるのが大事だと思う。
「サクラ、改めて……朝は本当にすまなかった……。恥ずかしながら、完全に我を失っていたようだ。あんなマネは二度としない」
そう言いながら、深々と頭を下げた。
「詳しい話はハカセから聞いたわよ。まあ、あなたの気持ちは理解できるし、今回は許してあげる」
許してくれたのはとても嬉しいのだけれど、交換条件もなく許されたことなんて初めてかもしれない。
何か裏があったりしないだろうな……。
そんなことも考えながら、恐る恐る会話をしていくことに。
「私の方こそ、いつもカトーに優しくなかったなって反省してる……。ごめんね。ずっと2人で戦闘を担当してきて、いつの間にかお互いに慣れすぎていたのかもね。本当はもっと敬意を持って接するべきなのに……」
ん?やっぱりいつものサクラと違うようだ。
こんなことを言われるのも初めてだと思う。
「サクラ、一体どうした?今日謝るべきなのは俺の方なのに……」
「いや、本当はね……、ずっと感謝してたんだよ……。照れくさくてずっと言えなかったんだけどさ……」
ああ、そうか……。これはハカセに何か言われたな。
「そうか、それなら嬉しいよ。俺はハカセに色々怒られてさ……本心で謝るように言われてるんだ。サクラもハカセに何か言われたんだろ?」
「はは、よく分かったね。その通りだよ。でもさ、本心であることは間違いないぜ」
「今日は俺も本心だけで話そうと思う。俺の方こそ感謝しているよ。サクラを超えたい一心でやってきたから昔より強くなれたからな。でもさ、やっぱり悔しいというか嫉妬をずっと抱えていたんだと思う……今日も嫉妬心が抑えられなくなってしまったんだ……本当に恥ずかしいが事実だ」
本音を話すということは勇気がいることだと初めて知った。
手が震えている……。
激しい戦闘でも震えないというのに。
「なあ、本心で話すついでに聞きたいんだけどさ、カトーはメイドカフェの女みたいな子が好みのタイプなのか?」
「そうだな。自分でも気付かなかったんだけどさ、ああいう大人しめの子が甘えてくるっていうのが楽しくてさ。今まで縁が無いタイプだからかもな」
「そうか、私とは全く逆なタイプだもんな。私がもっと可愛くしていたら楽しかったかもな……」
「それはどうかな……あんな可愛い感じの子が自分より強かったら……もっと嫉妬しちゃうだろ」
そんなことを話しているうちに、やっと自分の気持ちに気付いたような気がした。
俺の相棒はやはりサクラなのだと。
「じゃあ、私達のコンビは実は丁度いい感じなのかもな」
「そうだな、丁度いいな。随分一緒に戦ってきたけど、案外近いものほど見えないものなんだな」
「今更だけど、宇宙最強コンビの誕生ね。今日は朝まで飲むわよ!」
「おう、酒なら負けないぜ」
「すみませ~ん、特上ハラミ20人前追加~」
「えっ?」
サクラの強さにも興味はあるけど、どこまで食べられるのかにも興味があるな。
牛一頭くらい食べそうな気がする。
それから2時間ほど、本音で話し合った。
サクラの意外な秘密をいくつか知ることができた。こんなことならもっと早くこういう機会を設けるべきだった。
だが、最高に盛り上がってきたタイミングで事件は起こった。
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